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Vol.2 クリスマス島にクロミミオオコウモリを見に行く(その2)

2017.11.14

 オーストラリア領クリスマス島に行った話の続きである。
 小さな空港に着くと、両替所がない。週に1便シンガポールからの到着以外は、オーストラリア本土からの便だから、よく考えれば当然である。以前オーストラリアに行ったときの残りのオーストラリアドルを持っていたからいいものの、そうでなければ路頭に迷うところだった。
 この島の難点は、ほとんど産業がなく、食べ物をはじめとして多くの生活必需品を外から運んでくるため、物価が非常に高いことだ。外食を続けると破産しそうなので、食の楽しみは、しばらくお預けだ。
 島ではアカガニの移動が始まっていた。何千万匹ものクリスマスアカガニが、内陸の森林から雨季のはじめに海に移動して交尾後海に卵を放すのだ。産卵は11月と聞いていたが、土砂降りの雨が降ったせいか、10月下旬にはかなりの数が移動をはじめた。集落に近い部分の道路は両側をプラスチックシートのようなものでガードしてカニが道路に出て来ないようにしてあるが、人家がないところは車を通行止めにしてカニ優先。通行止めになっていない道路も、車がカニを避けて蛇行している。

アカガニの移動シーズンには、閉鎖される道も多い。

 数は少ないが、島にはヤシガニも超大型のものがいて、夜間道路を歩いている。森の中の狭い道を走っていると、道を我が物顔に歩いているので、いちいちどかして走らないといけない。この島には、西欧系、マレー系、中国系といろいろな人たちが住んでいるが、みんなヤシガニは食べないらしい。

車の前を歩くヤシガニ。素早く逃げたりはしないので、追い立てるのは大変。

 われわれはバットウォッチャーであると共にバードウォッチャーでもあるのだが、その目で見てもこの島は面白い。オオグンカンドリ、コグンカンドリ、シロハラグンカンドリの3種のグンカンドリが間近で見られる所は、世界でもここだけだろう。グンカンドリは海の鳥なのに、真水を飲みに来ることがあって、荒れ地に雨水がたまったところに、翼開長2mもある鳥たちが目の前3mくらいのところに次々と降りてくる。3mくらいの高さから一気に下降して水面すれすれを飛びながら長い首を下に向けて口をがばっとあけて水をすくっていく。タイミングが合わないと飲めなくて、何度もタッチアンドゴーを繰り返し、口からあふれた水を人の頭にかけていく奴もいる。レクリエーションセンターという島民施設のプールにも水を飲みに来ていた。

シロハラグンカンドリの雌が水を飲もうとしているところ。もう少し水面ギリギリまで降りてから口を開けないと、水は飲めない・・・。

 グンカンドリは世界に5種類。大西洋であと2種見れば、グンカンドリはコンプリート。グンカンドリウォッチャーに宗旨替えしようか、年齢・雌雄によって模様が違うし、なかなか奥深い。日本では若鳥が見られることがまれにあって、何グンカンドリなのか話題になることがある。クリスマス島には、この他にもさまざまな固有種や固有亜種の鳥がいる。

声を頼りに探した固有種のクリスマスアオバズク。

 さて、肝心のクロミミオオコウモリである。このコウモリ、全身まっ黒で体重は350gほどと日本のクビワオオコウモリやオガサワラオオコウモリより一回り小さい。果実食で野生の木の実や果樹を好む。リン鉱石採掘の跡の裸地の緑化のために植えられたナンヨウザクラの実も好みだ。大きなコロニーを作ることもあるようだが、われわれが見た時は森の中に分散してねぐらをとっていた。
 東海岸の中程の崖の上から4WD車用のハードな道を降り、海の近くまで歩いていくとHosnies Springという湿地がある。100m×100mくらいのマングローブ林が海抜40mほどの隆起した斜面の途中にありラムサール条約にも登録されている。ここはクロミミオオコウモリが昼間でも時々上空を飛んだり、高い枝にとまっている姿が見える。100頭くらいはいるように見えた。東海岸南部のDolly Beachの奥にも大きなねぐらがある。駐車場から更に30分ほど歩くと、椰子の木立の上を飛び回っていたり、椰子の花の蜜を舐めているのが見える。高く舞い上がって夕暮れ空をバックにシルエットになってくれたオオコウモリもいる。このあたりにも50頭くらいはいただろうか。

クリスマス島地図

 島の中心部の台地の縁には斜面の森やテラスを見下ろすことのできる展望台がいくつかある。Margaret Knollという展望台で待っていると、16時から18時頃、海から吹き上がる風に乗った海鳥やクロミミオオコウモリが目の前に浮かび上がってくる。この島のオオコウモリは夕方まだ明るいうちから活動するのだ。風に乗ってふわっと滑空しながら展望台のすぐそばを通っていく。グンカンドリなどの海鳥もつぎつぎと目の前を通過。われわれを見に来たかのように展望台のまわりをまわるアカアシカツオドリや展望台の手すりにとまるカツオドリもいて、時には1~2mくらいの距離で見られる。

われわれを見物にやって来たアカアシカツオドリ。

 オオコウモリはのんびりしているせいか、グンカンドリに空中で威嚇され、いじめられているのを見てしまった。グンカンドリは海鳥を脅かして、食べた魚を吐き出させて、それを食べることがある。植物食のオオコウモリはいくらいじめても、魚を吐き出したりはしないのに・・・、やはりグンカンドリウォッチャーはやめにする。

グンカンドリにいじめられるクロミミオオコウモリ。

 宿があるのは集落のある北部で、近くのTerritory Day Parkでも夜、クロミミオオコウモリが見られた。18時頃行くと、周囲を飛び回るのも入れると10頭くらいいただろうか。われわれが行ったのは乾季の終わりで餌が少ないから分散していると聞いたけど、結構集まっているものだ。サポジラというオレンジ色の果実を食べていた。1時間ほどすると活動時間はもう終了したのかみんないなくなってしまった。早寝早起きらしい。その後もこの場所では毎晩クロミミオオコウモリが観察できた。朝早くや夕方明るいうちにこの展望台から斜面を見下ろすと、ここでもオオコウモリが斜面林の上を飛ぶのが見られる。港の海面を飛ぶこともある。

サポジラの木にやって来たクロミミオオコウモリ。

 今回観察したクロミミオオコウモリも80年代以降急激に個体数が減少していて心配されている。この旅から8年たったが、今のところクリスマス島のクロミミオオコウモリは健在なようだ。しかし、調査を継続する必要性に変わりはない。マリアブラコウモリ以外にも、島では人が入植した後に絶滅した生きものは他にもいくつかいて、更にアシナガキアリやヘビのような外来種もいる。世界にはこのように、激減に気がついたときはもう手遅れで絶滅していくコウモリがまだまだいるはずだ。少しでも多くの人に関心を持ってもらいたい。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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