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Vol.4 グヌン・ムル国立公園 世界一有名なコウモリの出巣

2018.1.16

 日本でも数千頭のコウモリが夕暮れの空に飛び出していく場所がある。しかし、世界には、数百万頭、数千万頭と桁違いの数のコウモリがコロニーをつくり、龍のようにくねりながら空に登っていく出巣が何十分も続くところがいくつもある。

出巣する様子を、龍が登っていく様に見立ててドラゴン・フライあるいはドラゴン・ダンスということがある。

 そんなコウモリの出巣で、おそらく世界でいちばん有名なのが、ボルネオ島のマレーシア部分にあるグヌン・ムル国立公園だ。2017年2月17日から23日にかけてこの国立公園を訪れた。玄関口のムル空港は小さく、日本からの直行便はないので、クアラルンプール、ボルネオ島のクチンを経由して行った。ムル空港前では地元の人が自家用車を使って一人5リンギット(約150円)で国立公園への送迎をやっている。車で3分ほど、荷物がなければ歩いて行ける距離だが、写真機材など色々あるので車で行く。
 まずは入口の国立公園事務所でチェックイン。入園料として5日間30リンギットのパスがあるのだが、われわれは6泊7日と半端な滞在なので、10日分のパスが二人分で120リンギットになる。受付でコウモリ模様の入ったバンドを腕に巻いてもらう。いつまで有効なのかによって色が異なり、滞在中はずっと寝るときもシャワーを浴びるときもつけたままだ。調査でコウモリの前腕に金属の個体識別バンドを着けることがあるのだが、バンドをはずせなくてうっとうしいだろうコウモリの気持ちがわかった。

腕に巻いてもらった入園証

 コウモリの出巣観察台へは、公園事務所のある入口から木道を歩いて1時間弱だ。観察用のデッキと屋根のある休憩場、売店まであってお菓子や飲み物を売っている。別棟でトイレもある。
 17時頃この観察台に着くと、既に座っている人がまばらにいる。洞窟の中をめぐるツアーに参加していた人も次々と加わって、だんだん観察台が賑やかになっていく。
 17時50分、後ろの方で声が上がったので見回すと洞窟出口のある崖の上空にコウモリの一群がドーナツ状に廻りながら飛んでいるのが見えた。ディアケイブには300万頭以上のヒダクチオヒキコウモリChaerephon plicataが生息している。その他にもいろいろなコウモリがねぐらとしていて、全部で12種いるはずで、その出巣が始まったのだ。

出巣を見る観客。コウモリの流れが観客の後方にも向かっていく。

 洞窟から出たコウモリは崖にそって旋回しながら上昇していく。曇っていて薄暗いため、崖や森を背景にしているときは見づらいが、稜線から上に出るとよく見えるようになる。いくつかのグループに分かれて、龍のようにうねうねと飛び出すのだが、時々そのまま真上に登ってドーナツ状にくるくる回ることもある。池でハシビロガモのグループがお互いのあとを追うようにしてぐるぐる廻りながら採餌しているのに似ている。30分ほど断続的に出巣して18時30分頃ほぼ終了。
 コウモリがねぐらとしているディアケイブは、ツアーに参加すれば内部に入ることができる。翌日14時半からのディアケイブとラングケイブに行くツアーに参加。ガイドはシェキアさん、参加者は9人。いろいろな動植物の解説を聞きながら木道を歩く。木道沿いの木の幹にビワハゴロモの仲間Fulgora basinigraがいた。英語ではLantern Bug というらしいが、提灯をつけたら似合いそうな昆虫界のアンコウ。

ビワハゴロモの仲間。いつも同じ木にいた。

 雨が降り始めたので、合羽を出したり傘をさしたりしながら15時半に昨日のコウモリ観察台につく。最初は手前のラングケイブへ入る。小さいけれど鍾乳石や石筍がきれいな洞窟だ。鍾乳石はフラッシュを使って写真撮影をしてもいいが、動物(コウモリやアナツバメ)にはフラッシュをつかわないようにとのこと。ディアケイブの方はベトナムのソンドン洞に次いで世界で2番目に通路部分が大きいという巨大な洞窟だ。確かに見事な空間で、はるか遠くに見える天井にびっしりコウモリがいるが、黒っぽい塊としか見えない。地面には一面にグアノが落ちていてゴキブリなどが這い回っている。アナツバメの仲間もたくさんいるようで、1羽弱ったのが洞窟内の通路に落ちていた。洞窟中程までをめぐる通路があり、ゆっくり回って外に出たのが17時半頃。ツアーは観察台で自由解散となり、あとはコウモリの出巣を待つ。1人35ドル。
 今日の出巣は17時52分から、昨日よりずっとたくさん出た。うねうねと長く空に上がっていく大きなグループの出巣も見られた。18時15分頃まで次々と見られる。空は昨日も今日も厚い雲に覆われているのだが、少し切れ目ができて西の空が明るくなり、洞窟の上の崖に夕陽がしばらく当たる。
 翌日からも、大雨の降った日を除いて、毎日夕方には観察台に通った。日によって、出ていく数がずいぶんと違う。時々出巣した群れの後から、コウモリダカが突進してコウモリを捕まえるのも見ることができた。
 観察台にいる大勢の人達は、出巣のピークが過ぎると次々と帰っていくが、われわれはいつも最後まで残った。これからが面白いのだ。誰もいなくなった休憩所の屋根の下をコウモリが時々飛んで、灯りに来る虫を狙っている。宿までの木道は、手すりの柱に街灯がついていて、ある程度遅くなるとタイマーで順次消えていくが、この街灯に来る虫を狙ってキクガシラコウモリやカグラコウモリの仲間が飛ぶ。特に木道が川を横切るところには何頭ものコウモリが飛び交う。

橋の上を飛ぶキクガシラコウモリの仲間。

昼間の橋の様子

 われわれが泊まったのは、国立公園内の入り口近くにある5部屋一棟の長屋型バンガロー。広い廊下兼テラスがあって、木道を飛んでいたコウモリたちが、この廊下兼テラスも飛ぶ。グールドカグラコウモリHipposideros cervinusとボルネオキクガシラコウモリRhinolophus borneensisだ。

バンガローの廊下兼テラスを飛ぶグールドカグラコウモリ。他の部屋にお客さんがいない日も多く、写真を撮りやすかった。

 最後の晩の帰り道では、木道沿いの蔓の先端にハチマキカグラコウモリHipposideros diademaがぶら下がっていた。この仲間は待ち伏せ型の狩りをする。獲物の蛾などが通りかかるのを待つのだ。10分くらい顔をあちこちに向けて、あたりの様子をエコーロケーションでうかがっている様子が観察できた。

ハチマキカグラコウモリ。これを見つけたのは幸運だった。

 夜明け前にも観察台に何回か行ったが、まとまって戻ってくるコウモリは見られなかった。天気にもよるらしいが、かなり暗いうちに戻ってくるようだ。熱帯雨林では樹高が高いのでなかなか鳥の姿は見えないし、昼間は鳥の声も少ないのだが、さすがに早朝は賑やかだ。観察台の近くではツバメやアナツバメが飛び交っている。森の中や宿泊施設の近くでは時々超ミニサイズのリスを見かける。最初見た時はキノボリトカゲかと思ったほど小さく尻尾もアンバランスに貧弱なこのボルネオコビトリスExilisciurus exilisが、出発の日の早朝、誰もいない観察台に20頭くらい出てきた。観察台のデッキの床で追いかけっこをしたり、手すりの上を走ったり、われわれの存在は気にならないようで、すぐそばを駆け抜けていき楽しかった。

ボルネオコビトリスがたくさん走り回ったのは、この日だけだった。

 次回は、昼間観察したグヌン・ムル国立公園のコウモリを紹介したい。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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