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Vol.5 グヌン・ムル国立公園 巻いた葉をねぐらとするコウモリ

2018.2.13

 グヌン・ムル国立公園を世界的に有名にしたヒダクチオヒキコウモリだが、実はこのコウモリは、東南アジアを中心にインドや中国にも分布していて、この国立公園でなくても大規模な出巣は見られる。われわれとしては、この国立公園で他にも興味深いコウモリに出会えないかと期待をしていた。

世界遺産であることをアピールしている事務所前

 初日に国立公園の事務所でチェックインしたときに、建物の前で他のお客さんと、ウツボカズラをねぐらとするコウモリの話をしている女性職員がいた。今回ボルネオに行くことに決めたときに、もしかして見られないかと秘かに期待していたものだ。このウツボカズラNepenthes hemsleyana、壺状の葉の中の本来は虫を捕らえて消化する液体は少なくて、内側も滑りにくくなっている。そして虫を捕らえる代わりに、ウーリーコウモリKerivoula hardwickiiというコウモリを壺の中に住まわせて、その排泄物から養分を得ているのだ。ちょうどお客さんと別れたところで、声をかけて聞いてみたのだが、残念ながらグヌン・ムル国立公園内にはこのウツボカズラはないらしい。知らない地名だったので覚えられなかったが、どこか別のところで植物がわかる人に連れて行ってもらう必要があるという。このアイルランド出身のエレン・マッカーサーさんは、グヌン・ムル国立公園にもう6-7年滞在しているというコウモリの研究者で、この後も撮ったコウモリの識別などでお世話になった。
 洞窟ツアーに参加したとき、ボードウォーク脇のバナナの若い巻いた葉の中にコウモリがいるのを教えてもらった。ガイドによれば、これがウーリーコウモリだという。このコウモリはウツボカズラだけでなく巻いた葉もねぐらとして利用するのだ。翌日、教わったバナナの葉にはもうコウモリの姿はなく、近くの別のバナナの葉の中にいた。このとき通りかかったご夫婦に何をしているのか聞かれて、コウモリがねぐらをとっていることを教える。
 2日後バンガロー附近の別のバナナの植え込みで、この時のご夫婦が巻いた葉の中の写真を撮っていた。コウモリが2頭いるという。写真を撮って見てみると、確かに2頭かそれ以上はいるようだ。いちばん上の個体はなぜか上向きで顔が見える。顔がきちんと見える写真が撮れたおかげで、この日の午後エレンさんに会ったときに、耳の形からこのコウモリはムリコロホオヒゲコウモリMyotis muricolaだと教えてもらえた。

巻いた葉の中にいたムリコロホオヒゲコウモリ

左側に伸びている細い筒状の若い葉の中にいた

 エレンさんの仕事場は国立公園事務所の近くの別棟にある。ここで今までこの国立公園で撮ったコウモリの写真を見てもらう。このあたりではバナナの巻いた葉に棲むコウモリはムリコロホオヒゲコウモリとウーリーコウモリの2種類がいること、ムリコロホオヒゲコウモリは♂1頭♀3~4頭のハーレムになっていること、ウーリーコウモリは単独か母子でいることなどを教わる。ムリコロホオヒゲコウモリは上を向いて入っていることも結構あるが、ウーリーコウモリは下向きに入っているそうだ。
 その日の夕方、ムリコロホオヒゲコウモリのいるバナナの前で待っていると、小雨の中18:35-18:45の間に4頭が飛び出していった。これで終わりかと思って巻いた葉の中をのぞいてみたら、まだ少なくとも一頭が残っていた。雨も本降りになり、奥の方にいて出巣しそうにないので、部屋に戻る。

バナナの巻いた葉から飛び出すところ

 翌朝、バナナの葉のムリコロホオヒゲコウモリをがどうなったか見に行ったら、既に葉が開いていた。少なくとも5頭が昨夜はねぐらにしていたわけだが、開いた葉にはその名残に糞がついている。葉が開くたびに引越をしなくてはならないコウモリも大変だ。大雨だからといって、引っ越しを中止するわけにはいかない。

引っ越し後のバナナの葉

 この国立公園でのわれわれの行動パターンがだいたい決まってきた。日没頃にヒダクチオヒキコウモリを見に行き、その帰り道やバンガローの前の廊下で夜半までコウモリを撮影。昼間は遊歩道を巡りながらバナナやショウガの仲間の巻いた葉を探して中をのぞき込む。しかし巻いた葉の中のコウモリはそう簡単に見つかるものではない。
 帰る日の前日、ボタニーループという遊歩道で、道のすぐそばのショウガの仲間の巻いた葉に薄茶色のコウモリが一頭お尻を向けて入っているのを見つけた。エレンさんに写真を見てもらいウーリーコウモリと確認してもらったが、ひょとしたら子どもを抱えている母コウモリかもしれないという。

お尻を向けているウーリーコウモリ

 最後の日、朝ごはんを食べてチェックアウトをしてからもう一度ボタニーループへ行くと、昨日と同じ葉にウーリーコウモリがいた。

こんなこんな感じでショウガの仲間の巻いた葉に入っている感じでショウガの仲間の巻いた葉に入っている

 エレンさんにお礼の挨拶に行ったときに、ショウガの葉は2日くらいは同じものを使うと教わる。結局ディアケイブの朝のコウモリの帰還は一度も見られなかった話をすると、天気が悪いのでもっと早い時間にコウモリは洞窟に引き上げたのかもしれないとのこと。翌年(2018年)フィリピンで行われる東南アジアコウモリ会議での再会を約束してお別れする。
 ムル空港へ着いたのは11時すぎ。空港のカフェでアイスコーヒーを飲んでいると土砂降りの雨が降り始めた。空港で働いている人たちが屋根の樋から滝のように落ちてくる雨水をポットに汲んでいる。チェックインをして13時頃待合室に入るが、13:15発のクチン行きの飛行機は来る気配がない。
 「クチン行きに乗る人」と呼び出されて待合室内のカウンターに行くと、まだ飛行機が来るかどうか未定なので14時に外のチェックインカウンターに改めて聞きにいくように言われて、空港カフェのミールクーポンを渡された。ミールサービスは炒飯と鶏の唐揚げに水のボトル一本だ。さっきまでカフェのおじさんは暇そうにお客さんが来るたびに話しかけていたのだが、突然大忙し。食べ終わってからカウンターに行くと、欠航が決まったという。

飛行機遅延によるチャーハンと唐揚げ

 カウンターではホテルに泊まって明日の便をとれといわれたのだが、もう1便近くのミリという町にいく飛行機があり、ミリからクアラルンプールに乗り継いで成田に帰れないか交渉する。いろいろとコンピューターで調べてたっぷり10分以上かかったが、結局ミリ行きに乗れることになり、ミリ→クアラルンプールの航空券もとってもらえた。ミリまでの30分の飛行は大揺れ、着陸したときは拍手が湧いたほどだったが無事到着し、クアラルンプール→成田も当初の予定通りの便で帰国することができた。

ミリ行きの飛行機に乗り込む。この後、大揺れ

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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