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Vol.6 アメリカ合衆国コウモリ旅行1 コウモリだらけの展示と憧れの花蜜食コウモリを探して

2018.3.10

 誰にでも一生に一度は行ってみたい場所、見たい光景というのがあるのではないか。2013年5月から7月までの3ヶ月間をアメリカ合衆国に滞在して、一度は見てみたいと思っていたコウモリ名所をレンタカーで廻った。4回にわたって紹介したい。

 2013年5月3日ニュージャージー州のニューアーク空港へ着いた。ニューヨーク州北部に知り合いがいるので訪問してからアメリカ大陸を横断してアリゾナへ、そしてテキサスに行く予定だ。
 ニューヨーク州滞在中にお隣マサチューセッツ州のバークシャー博物館で行われていた、MASTERS OF THE NIGHTというコウモリ展を見に行く。アメリカのコウモリ保護団体Bat Conservation International(BCI)とその創設者でコウモリ研究者であり写真家であるマーリン・タトル氏が協力したもので、アメリカ中を巡回している大がかりな展示だ。われわれも日本で博物館、科学館、動物園などでコウモリを紹介する展示をするので、一度見てみたいと前から思っていた。
 世界の多様なコウモリの紹介では、鼻葉があるヘラコウモリやキクガシラコウモリ、下唇に切れ目があるナミチスイコウモリ、鼻面の長い花蜜食コウモリ、喉の膨らんだウマヅラコウモリのオスなど特徴的なコウモリ頭部の像があって触ることもできる。キクガシラコウモリの仲間には鼻の周りに鼻葉という3次元的に複雑な形をした器官がある。写真ではその形を理解してもらうことは難しいが、立体模型ならよくわかる。ただ、なぜそのような顔をしているか、生態や行動とあわせた説明がもう少し欲しいところだ。ウオクイコウモリが水面から足で魚を採ろうとしていたり、木立の中のハイガシラオオコウモリ、橋の隙間に住むオヒキコウモリ、葉裏にねぐらをとるシロヘラコウモリ、洞窟や樹洞にすむコウモリのジオラマもある。アメリカ各地を巡回しているだけあって、しっかりとした造りの展示だった。

ウマヅラコウモリの頭部

 5月9日にニューヨーク州北部を出発して南西に約3500km、アメリカ大陸を東から西に横断して5月20日にアリゾナ州のツーソンに着いた。
 アメリカで一番見たかったコウモリがここにはいるはずだ。われわれは植物食のオオコウモリに魅せられてコウモリの世界に入ったのだが、アメリカ大陸には、オオコウモリ科のコウモリはいない代わりに、ヘラコウモリ科のコウモリで植物食のものがたくさん生息している。その中でも砂漠の巨大な柱サボテンの花に来るという花蜜食のコウモリを見てみたい。メキシコが観察に最適なのだが、治安の問題や情報が少ないこともあって、案内してくれる人がいないと行きにくい。幸いにしてアメリカ合衆国南端にも夏の間は生息しているので、ここアリゾナ南部のソノラ砂漠のサワロサボテンが咲く時期に合わせて来たのだ。
 町を挟むように東と西に分かれているサワロ国立公園は、サワロサボテンの花がちょうど満開になったところだった。ビジターセンターで聞いてみたが、お目当ての花蜜食ソーシュルハナナガコウモリLeptonycteris curasoaeが来るポイントはわからない。サワロサボテンの花は、高さ15mにもなる柱状の植物体のてっぺんに咲く。成長して分岐したサワロサボテンの場合はそれぞれの分岐した先端にも花がつく。一度に一つ咲くこともあるし、複数開くこともある。とりあえず道路からアクセスしやすく、比較的低くて写真を撮りやすい花を選んで待つことにした。

サワロサボテン

サワロサボテンの花

 この時期のこのあたりの日没は20時過ぎだが、サワロサボテンは21時頃にやっと花が開き始め、翌日の昼過ぎまで咲いて終わりである。夜の花粉媒介者を主にターゲットとしているのだが、翌日の午前中にやって来る鳥や虫も花粉媒介者になる。
 1晩目、狙った花には蛾しかこない。2晩目は、別の花で待機するがやはりソーシュルハナナガコウモリはこない。3日目は、コウモリが生息しているという観光洞窟に昼間行ってみた。目的のソーシュルハナナガコウモリもいると案内書には書いてあったのだが、ここ10-15年くらいはあまりいないという。いずれにせよ通常の洞窟ツアーではコウモリがいるところには入らない。夜もこの洞窟の近くのサワロサボテンで待ったが、コウモリの来る気配はない。街灯の回りをコアメリカヨタカが飛び回ってただけだ。

コアメリカヨタカ

 メキシコ国境に近い州立公園なども行ってみたが、どこにいってもソーシュルハナナガコウモリには会えない。なんだかイヤな予感がしてきた。
 ツーソンのアグアカリエンテ公園で、コウモリ行事があるので、参加した。開始時刻の18時にはまだ明るい。公園事務所前の広場に展示テーブルが5つ準備されていた。公園はピマ郡の所有、イベントも郡が主催。そのピマ郡の公園担当者が、アリゾナのコウモリについて、アグアカリエンテ公園のコウモリについて、あるいはコウモリ一般についての質問に答えたり、骨格標本を使って説明したり、かすみ網、革手袋、コウモリ袋などを見せてコウモリの研究について説明している。脇にはかすみ網をイメージした網が張ってあって、パウチした実物大のコウモリ写真が引っかかっている。裏に硬貨が張りついていて、それぞれのコウモリの重さも体験できるようになっている。
 コウモリがわれわれの生活にどのように役に立っているかの展示もあった。コウモリが花粉媒介した植物の産物、コウモリが種子散布する植物の産物、更にコウモリが害虫駆除する作物、潜水艦のソナーやチスイコウモリの唾液成分を分析して研究が進んでいる血栓防止薬などコウモリからヒントを得た科学技術などが、実物や模型やイラストで展示されている。
 傘の骨を利用した、コウモリに変身する衣装は、子どもに着せてお母さんが写真を撮っていた。雨の少ない砂漠の中のツーソンで雨傘の有意義な利用法だ。耳は食虫コウモリの長い耳と、フルーツバットの短めの耳と2種類から選べる。

傘の骨を利用したコウモリ変身衣装

 19時半頃からコウモリが飛び始める。池の畔に移動してバットディテクターで音声を聞いたり姿を観察する。広場にも何種類かのコウモリが飛ぶ。特にコウモリの種類の確認はしない。20時半くらいには自然に解散していた。60人くらいが参加していただろうか。参加費は無料である。参加者が自由に展示を見て回り、説明を聞いたり、体験していくこのア・ラ・カルト方式は、その後日本のコウモリの会のコウモリフェスティバルなどで真似させてもらった。

観察会の様子

 さて、肝心のソーシュルハナナガコウモリだが、インターネットであれこれ調べていくうちに、サワロサボテンはメキシコなど分布の南方ではコウモリが重要な花粉媒介者であるが、分布の北限に近いアリゾナでは鳥や虫が花粉媒介をするという論文を見つけた。論文の載っていたソノラ砂漠博物館へメールを出すと、翌日論文の著者であり、花蜜食コウモリをメキシコと合衆国南部で25年間研究しているというカレン・クレブスさんから直にお返事が来た。ソーシュルハナナガコウモリはツーソン周辺では7月下旬以降にならないとやってこない。だからサワロサボテンの花粉媒介はしない、という。ただ、メキシコ国境に接したオルガンパイプサボテン国定公園に行くと見られるかもしれないと付け加えてあった。ツーソンから西におよそ250km、早速この国立公園に出かけた。

オルガンパイプサボテン

オルガンパイプサボテンの花

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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