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Vol.7 アメリカ合衆国コウモリ旅行2 深夜に国定公園から帰ってくるのは怪しい?

2018.4.16

 念願のソーシュルハナナガコウモリが見られるかもしれない。翌日、教えてもらったオルガンパイプサボテン国定公園へ行った。ツーソンからは約250km、車で2時間半かかる。とりあえずオルガンパイプサボテンが多いと教わった2つのドライブウェイを走って花の様子を見てから、カレンさんのメールに書かれていたキャンプ場に行く。一晩中いるつもりはないのだが、サイトに車を止めることだしと、キャンプ代12ドルを入口の料金箱に入れる。シーズンオフでほとんど人気のないサイトの一番端にあるサワロサボテンのそばで待つことにする。
 21時過ぎ、羽音がしたと思ったらソーシュルハナナガコウモリがやってきた。

サワロサボテンの花に来たソーシュルハナナガコウモリ

 少なくとも2頭はいるようだ。30分ほどの間に数回やってきたが、ホバリングしながら花に顔を突っ込んで、一瞬でいなくなる。確かにここにはあこがれのサボテンの花に来るコウモリが生息していた。そのまま23時少し前までねばって帰路についた。

 この国定公園はメキシコ国境に接していて、ツーソンからは2ヶ所国境警備隊の検問所を通る。往路はノーチェックだったのだが、復路は2ヶ所とも検問を受ける。
 「入国の書類を見せろ」といわれて、ニュージャージー州で入国したときに何か書類があったかなあと必死で考えていたら、「メキシコから来たのか」と聞かれた。国定公園から深夜に帰る人は普通いないから、その先のメキシコから国境を越えて来たと思われたのだろう。われわれのパスポートを念入りにチェックして「国定公園にいたのか」と言って通してくれた。別の日には国境警備隊の車が屋根の赤青の警告灯を回しながら追いかけてきて、停止を呼びかけられたことがある。午前0時には国境が閉まるのに、1時過ぎにメキシコ方面から走ってくるのだから確かに怪しい。このときは後ろの窓やバックドアを開けて点検された。

 ツーソンから通うにはさすがに遠すぎるので、6月3日Ajo(アホと読む)という人口4000人ほどの小さな町へ移動する。ここからオルガンパイプサボテン国定公園の観察地へは40分ほどだ。ここに8泊して、サワロサボテン、オルガンパイプサボテン、リュウゼツランに来るソーシュルハナナガコウモリを毎晩狙った。ただ個体数はそれほど多くないようで、花に来る頻度は一晩に数回、バットディテクターには弱い音が入ったり入らなかったり。羽音がするときとしないときがあったりで、なかなか花に来る瞬間を写すのが難しい。

オルガンパイプサボテンの花に来たソーシュルハナナガコウモリ

 国定公園の名前の由来となっているオルガンパイプサボテンも、サワロサボテンほど深夜ではないが、日没頃から開花する夜の花粉媒介者を標的とした植物だ。花はサワロサボテンと良く似ているが、一回り小さい。キャンプ場にもあるが、一周34kmのアホマウンテンドライブの奥の方の斜面に多い。
 リュウゼツランAgave x ajoensisはアホマウンテンドライブの奥にしかないが、昼間から開花しているので、夕方比較的早くからコウモリがやってくるし、昼間はハチドリやハチがやってくる。

リュウゼツランの花に来たソーシュルハナナガコウモリ

 ソーシュルハナナガコウモリを撮っていたはずが、1度だけカリフォルニアオオミミナガコウモリMacrotus californicusが写った。食虫性で地面の上や植物の上にいる虫をホバリングして捕るコウモリなので、リュウゼツランの花に来る虫を捕っていたのだろう。バットディテクターの音はこのコウモリのものなのかもしれない。

リュウゼツランの花に来たカリフォルニアオオミミナガコウモリ

 オルガンパイプサボテン国定公園もずいぶん通ったので、6月11日にアホを出発。ツーソン経由でお隣のニューメキシコ州に移動するつもりだったのだが、ツーソンを過ぎて1時間くらい走ったレストエリアで車が動かなくなってしまった。レンタカー会社の緊急コールサービスに電話をして、ツーソンの営業所まで車を牽引してもらう。ツーソンで別の車に替えてもらったが、これからラクルーセスまで行くにはちょっと時間が遅い。その日はツーソンに泊まり、結局そのままもう数日滞在して、キャンベルアベニュー橋のコウモリ観察会や夜間開園をしている砂漠博物館に行くことにした。

 ツーソンの町中にあるキャンベルアベニュー橋には、メキシコオヒキコウモリTadarida brasiliensisの約4万頭のねぐらがある。メキシコオヒキコウモリといえば、このあと行くテキサス州のブラッケン洞窟やコングレスアベニュー橋が有名だが、ここはコウモリのねぐらのある橋桁の裏側までの距離が近いのが魅力だ。

橋桁の下のメキシコオヒキコウモリ

 この橋では、6月になると毎週木曜日にソノラ砂漠博物館の解説員による観察会がある。橋のたもとに長机を出して、解説員が5、6人でコウモリの説明をしたり質問に答える。徐々に見物人が増えて出巣時には150人くらいになった。川原に折りたたみ椅子を持ち込んで、クーラーボックス持参の人もいて、ちょっとしたピクニック場だ。
 日没前にまずアメリカセイブアブラコウモリPipistrellus hesperusがひらひらと飛ぶ。バットディテクターで音声を聞かせてもらう。その後19時40分くらいからメキシコオヒキコウモリが連なって飛び始めると歓声が上がる。対岸でも50人くらいが見ているので、夏の人気イベントであることは間違いない。

キャンベルアベニュー橋から飛び出すコウモリを観察する人達

 砂漠博物館は6月から土曜日は夜間開園をしている。その夜間開館中の特別行事の1つとして6月15日にコウモリ観察やお話会があった。
 6月に入ると日中は連日42℃を越える日が続く。日本でも最近夏休み中は夜間開園する動物園が増えたが、昼間よりもずっと入場者が増える。ここ砂漠博物館も夕方から入場する人が多く、18時頃行ったら、駐車場はかなり混んでいた。ここは大部分が野外展示なので、暑い真っ昼間に歩き回る気はしないのだろう。
 敷地内のあちこちでミニ説明会が行われている。19時から20時まで、水の流れがある一角にテーブルを出して、解説員がコウモリの説明をしたり、その近くのテントでは、パソコンに超音波を拾えるマイクを接続して、通りかかったコウモリの音声ソナグラムの解説をしていた。目の前をセイブアブラコウモリが2頭ほど行き来し、メキシコオヒキコウモリも時々通る。テントからお客さんがあふれ出るほどの人気だった。

コウモリの音声のソナグラムを見る人達

 ソーシュルハナナガコウモリ情報でお世話になったカレンさんのお話もあったはずなのだが、広い園内にいるのはボランティアの解説員がほとんどで、誰に聞いてもどこでやっているのかわからず、お話を聞くことができなかった。帰り際、入口で呼び出してももらったけれど連絡がつかず、お礼が言えなかったのが残念だった。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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