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Vol.8 アメリカ合衆国コウモリ旅行3 世界最大のコウモリコロニーと都会の大コロニー

2018.5.16

 アリゾナ州では念願のサボテンに来るコウモリを観察できて満足。車のトラブルがあって予定以上に滞在してしまったが、6月16日朝ツーソンを出発、今度こそアリゾナ州を出る。ところがこの日も目的地ニューメキシコ州のラスクルーセスまであと20km程のところで、走行中に突然エンジンが止まってしまった。車を路肩に寄せることはできたが、そのままエンジンは二度とかからなくなった。再びレンタカー会社の緊急コールサービスへ。今度は車は路肩に残してあとで牽引してもらうことにして、タクシーで予約してあるモーテルに連れて行ってもらう。トラブルは頻発するが、緊急コールサービスは手際がいい。

ラクルーセス滞在中は、真っ白な砂丘が続くホワイトサンズ国定公園へ行った。砂丘に生えるリュウゼツランの仲間Yucca elata。あいにく夕暮れくらいまでしか立ち入れないので、コウモリの観察はできない。

 

 6月20日、テキサス州のオースチン到着。サボテンに来るコウモリと並んでアメリカで見たいと思っていたものが、テキサス州にあるコングレスアベニュー橋とブラッケン洞窟のメキシコオヒキコウモリだ。コングレスアベニュー橋は、人口93万人(2015年)の大都会オースチンの中心部にあるのだが、この橋の裏側にあるコンクリートの隙間がメキシコオヒキコウモリたちのねぐらになっていて、夏には最大150万頭にもなる。日本でも、アブラコウモリ、ヒナコウモリ、ヤマコウモリ、オヒキコウモリが、こういう橋や高架橋の隙間をねぐらにすることがあるが、多くても数千頭である。またオースチンから100kmほど南にあるサンアントニオ郊外のブラッケン洞窟は、多いときは1500万頭ものメキシコオヒキコウモリが生息し、世界最大のコウモリコロニーだ。この2箇所はコウモリ好きとしては外せない。
 コングレスアベニュー橋には、週末の日没時には橋の上に1000人ほど、橋のたもとのオースチンアメリカンステーツマンという新聞社がつくったコウモリ観察公園にも1000人ほどの見物客が集まる。公園には毎日アイスクリーム売りやかき氷屋、ジュース屋、光るおもちゃを売る人などが立つ。またステーツマン社は18時以降、コウモリ観察者のために駐車場の一部を無料で開放している。道路を隔てた向かい側には、大きなコウモリのオブジェもある。

コウモリ観察公園で出巣を待つ人達。このあともどんどん人が増えていく。

 対岸や、近くのホテルのテラスなどからも見ている人がいて、陸上からの見物客は全部で3000人くらいだろうか。川にはコウモリ見物の遊覧船が5隻と、カヌーやボートもたくさん出て250人くらいはいる。出巣時間は時期によって違うようだが、われわれが行った6月下旬には日没後しばらくしてから始まる。最初橋の下で渦巻くように飛び交い、やがて川の下流に向けて延々と竜のように流れていく。出巣ピークは日没後30分以上たってからなので、けっこう暗くなっていてちょっと見づらい。だいたい出始めて30分くらいするとたくさんいた見物客は三々五々帰っていくが、橋の一部では出巣は更に続いている。

橋の上でコウモリの出巣を見物する人達

 アメリカのコウモリ保護団体Bat Conservation International(BCI)が、観察者へのアンケートと観察者の数を元に、コングレスアベニュー橋のコウモリがオースチン市に及ぼす経済的効果を計算して1999年に発表した。年に138,600人の観光客がコングレスアベニュー橋のコウモリを見にオースチンを訪れ、食事代やホテル代など直接的な経済効果は約320万ドル、その食事を生産するための材料や輸送費や人件費、観光客によって生み出された雇用など関連する効果は800万ドルに値するそうだ。今では、その額はもっと大きくなっているだろう。

毎晩、お祭りのように人が集まりコウモリ見物

 オースチンという大都会のビジネス街、ホテル街を背景とした夜景と、コウモリの大群はなかなか面白い景色だ。ただコウモリのピークが過ぎた後「何時頃見られるんですか」と聞きに来る人もいて、もう少し宣伝すればもっと観光客が集まるのにと思った。

 オースチンから約100km南にあるブラッケン洞窟にも、メキシコオヒキコウモリがメキシコから出産哺育のために渡ってくる。子どもが飛翔するようになると1500万頭ものコウモリが出巣する世界最大のコウモリのねぐらだ。もと牧場だった洞窟の周囲約280haを1992年にBCIが買い取り、管理している(2014年には更に隣接する土地600ha強を開発から守るためにBCIとThe Nature Conservancyが買って共同で管理している)。BCIの会員は年に20回ほどある会員向け観察会に年一回会員と同伴者3人までが無料で参加することができる。会員でなくても一般向け観察会が年5回ほどあり、一人25ドルで参加できる(2018年現在非会員観察会は行われていないようだ)。あらかじめ6月26日の会員向け観察会を予約しておいた。
 当日、参加者は敷地入り口に18時集合。受付をしてから参加者の車は列をなして3kmほど先の洞窟へ向かう。未舗装の道は、乾燥して砂埃がもうもうと舞い上がり、前の車が見えなくなるほどだ。洞窟のすぐ手前にある駐車場に20台弱が並んだ。まずは洞窟入り口近くまで行き、BCIの職員フランさんがBCIの活動の説明などを始めたところで、18時59分、まだ明るいのに突然コウモリが飛び出してきた。捕食者にでも驚いて一部が飛び出したのかと思ったが、そのまま本格的な出巣となる。

青空の中を飛ぶメキシコオヒキコウモリ

 数週間前までは20時から20時半の間に出巣が始まってそのままずっと何時間か続いたそうだが、今は出産授乳期だからなのか、飛び出しパターンが不定期になったという。この日の日没は20時37分なので、日没より一時間半も早く、青空の中を出巣だ。全員の注目がそちらに集まったので話は中断、少し移動して洞窟の入り口がよく見える側に行く。こちらは座って観察できるようにベンチが設置されている。

洞窟の入り口側で説明を聞く参加者

 しばらく出巣が止まり、フランさんがコウモリやブラッケン洞窟の説明をしたり、質問に答えたりしているうちに、20時ころから再び15分間ほど出巣する。

洞窟から出巣するメキシコオヒキコウモリ

 今度は洞窟の入り口に面しているので、内側でたくさんのコウモリが渦を巻くように飛び始め、やがて入り口前のくぼみに渦が上がってきて、われわれが座っている観察場とは逆の方向の空に竜のように舞い上がって伸びていくのがよく見える。このあとも断続的に出巣は続くようだが、観察会はここで終了となった。近距離での明るいうちの大出巣は、コウモリファンとしては夢の光景だった。

アメリカ合衆国でのこれまでの行程

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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