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Vol.11 コスタリカ2 白いコウモリ

2018.8.14

 大西洋岸のトルトゥゲーロに4泊した後は、北部のサラピキ川流域のティリンビーナ・ロッジへ移動して4泊する。

 サラピキは川の周辺に熱帯雨林がよく発達した地域だ。このティリンビーナ・ロッジは、ロッジの回りでもバードウォッチングなどができるが、吊り橋で川を渡った対岸の森と中州の森の中に自然観察路があり、ガイドツアーや自然観察プログラムも実施している。このあたりで自然観察をするなら、ここか熱帯研究所が運営しているラ・セルバだろう。コウモリに詳しい人がティリンビーナ・ロッジにいると聞いて、こちらに決めた。

敷地の入口横の塀には、シロヘラコウモリの絵が描かれていた

 到着した晩はコウモリツアーに参加。泊まっている部屋の上にホールがあり、ここでお話がある。コスタリカにいる哺乳類200種のうちコウモリは半分以上の113種であること、コウモリの特徴、体のつくり、コウモリに関する迷信、マヤ文明のコウモリの神様などの話の後で、捕獲されたジャマイカフルーツコウモリとテントコウモリを見せてくれた。コスタリカのコウモリの70%は植物でテント状のねぐらをつくるという。このあと庭に出て、カスミ網の説明があった。実際に野外を飛ぶコウモリを見られなかったのがちょっと残念。

 翌日はナイトツアーに参加する。こちらは、吊り橋を渡った対岸の森の中を歩く。あいにくこのときもコウモリは見られなかったが、ロッジにもどってくると庭でコウモリの捕獲調査をしていて、顔に白線があるオオシマサシオコウモリがいた。テントコウモリ、アレンタンビヘラコウモリも見られた。

対岸や中州に渡る吊り橋

 対岸の森では、ガイドツアー以外にもスタッフやここで研究やボランティアをしている人たちが歩いている。そういった二人組に吊り橋で出会った。ヘビを見たいなら片方のスペイン語しか話せない人について行けと言われて案内されて、Rainforest Hog-nosed Pitviperという毒蛇がとぐろを巻いているのを見に行く。そのあとコウモリの図鑑でシロヘラコウモリを見せると、「isla(島)」にいるという。そういえば別の人に聞いたときも、シロヘラコウモリは島で2回見たといっていた。憧れのシロヘラコウモリはどうやら中州にいるらしい。

 吊り橋の途中には螺旋階段があって、ここから中州に降りられる。スペイン語オンリーのスタッフに案内してもらって森の中の小道を歩くと、道に張り出した高さ1.2mほどのヘリコニアの葉の裏に、10頭のシロヘラコウモリが寝ていた。体が真っ白で、翼は淡い黒。ストロボを見せたら手真似で使うなという動作をしたので、尊重してその後われわれだけで見に行ったときも使っていない。本やネットに載っているシロヘラコウモリの写真はみなストロボを浴びて、輝くばかりの白色に写っているが、実際は葉の裏側がねぐらなので葉を透過した光で体は淡い緑色の隠蔽色になっている。自然光だけで撮るとそれがよくわかる。シロヘラコウモリはこのあとわれわれが滞在中の3日間はずっと同じ葉をねぐらにしていた。

シロヘラコウモリ

シロヘラコウモリのねぐらの葉

 ハキリアリはコスタリカでぜひ見てみたかった生き物だが、INBioにも トルトゥゲーロにもここティリンビーナの庭や奥の森でも、ごく普通にいて、いたるところで行列して葉を運んでいる。仲間が運んでいる葉にヒッチハイクしているものもいるし、運ぶルートに邪魔物があると片づける大型の働きアリもいる。運べないくらい大きな枯れ葉が落ちてくると切り取って脇にどける。その結果、森の中には立派な蟻道ができ、葉をかついだ働きアリがスムーズに流れていく。運んでいる葉は、30cmくらいの低い木から切り出すこともあるし、見えないくらい高い木の上の方から切ってくることもある。かれらが人海戦略を始めると、木は丸坊主になる。巨大な地下帝国の巣には入り口とは別に、古くなった葉を捨てる出口もあり、腐葉土の山ができている。
 ハキリアリというのは一種類ではないようで、運んでいるのも葉っぱを切り出したものとは限らない。植物の茎と思われるものも運ぶし、コウモリの食べかすであるペリットのようなものを運んでいるので不思議に思って行列をたどってみたら、フルーツバットのペリットが大量に落ちていた。

ハキリアリ

ハキリアリの道

 コウモリのことがわかる人と話がしたいと受付に頼んで紹介してもらったのがマーキーさん。トルトゥゲーロで撮ったコウモリの写真を見てもらい、種名を確認してもらう。昼間拾ったペリットも見せるとやはりフルーツバットのペリットだという。ペリットを出すかどうかはコウモリの種類にもよるし、果実にもよるそうだ。胡椒の実などはまるごと食べて糞の中に種子が混ざるそうだ。

 夜は、そのマーキーさんが紹介してくれたガイド見習い中のセルジオさんという若いスタッフに対岸の森に連れて行ってもらう。吊り橋の上で、木の上にいる獣が懐中電灯に照らし出された。「キンカジュー」と教えてくれたときに頭の中に「金華獣」という文字が浮かんで、いったい何語だろうと思ったが、辞書をひくとKinkajouと書いてある。英語のようだ。尾が長く、頭は丸く、何の仲間だか見当も付かない摩訶不思議な生き物だが、調べたらアライグマの仲間らしい。

キンカジュー

 ここも人里離れているので、3食ロッジの食堂で食べることになる。素朴なメニューで、油で長粒米を炒めて塩と水を入れて炊いたご飯に豆の煮たものをかけるか、最初からご飯に豆が入っている。それに魚か肉が一品、揚げたバナナか揚げたタピオカなど。豆は小豆に似ていて、炊き込むとお赤飯そっくり。揚げバナナはイモのような味のする調理用のものではなく、生食用と同じみたいで、けっこう甘みも酸味もある。どれもおいしかった。トルトゲーロのパキーラ・ロッジのちょっと豪華な食事よりもこちらの方が好みだ。

ティリンビーナ・ロッジの食事

 ティリンビーナではフルーツバットを何種類か見ることができたものの、みな昼間寝ているところである。中州にはフルーツバットのペリットがたくさんあり、夜採餌しているのは明らかなのだが、対岸や中州は夜は立ち入り禁止である。どうしても採餌しているところが見たくて、最後の晩にスタッフに頼んでみたら、ボスに問い合わせてくれて、滞在するのは2時間、無線を持っていっていつでもスタッフと連絡が取れる状態であることを条件に特別に許可してくれた。食事の時間とのかねあいで18時30分からの2時間にした。
 18時5分前、食堂に行くとまだ夕食はできていない。魚が揚がるのを待って食べ始める。突然稲妻が光った。嫌な予感がする。18時15分、彼方から雨が近づいてくるのが見える。やがてものすごいどしゃぶりの雨と雷と稲妻に包まれる。どう考えても川の中州には行けそうにないし、フルーツバットがいても写真など撮れそうにないので、残念ながらあきらめる。

 コスタリカには課題がたくさん残ってしまった。シロヘラコウモリの翼は暗色なはずだが、飛ばないとよくわからない。飛んでいるところや果物を食べている姿をぜひ見たかった。またもう一つの白いコウモリ、アルブサシオコウモリも見たいし、ウオクイコウモリが魚を捕るところも見たかった。ナミチスイコウモリももっとじっくり行動を観察したい。同じサラピキのラ・セルバにも自然観察施設があり、コウモリの記録にはそこの名前もよく出てくる。モンテベルデ雲霧林保護区にはコウモリの説明と熱帯雨林を模した中にコウモリを放し飼いにしているBat Jungleという教育施設もある。またいつかコスタリカに来よう。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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