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Vol.13 フィリピン ネグロス島2 元ハンターのガイドとコウモリウォッチング

2018.10.16

 18時、オオコウモリのコロニーは、そろそろねぐらから飛び立つ時間なので賑やかだ。マンブカルリゾートのガイド、バルメリさんと待ち合わせて、パルマスオオコウモリを探しに敷地の外へ出る。元ハンターだけあって、暗い森の中なのに歩くスピードが速い。15分ほど歩いて近くの集落に着いた。そこにバルメリさんの友達の果樹園があって、パンノキなどにオオコウモリが採餌に来ることがあるそうだ。コロニーを出たコウモリたちはあちこちに分散して採餌をするようだが、集落にはマンゴーやパンノキなど実のなる木が植えてあるので、野生の実よりも大きくて甘い果樹園や庭の果樹に惹かれる個体も多いのだろう。何カ所か回ってしばらく待ったが、あいにくこの夜オオコウモリは来なかった。
 結局パルマスオオコウモリを見ることができなかったので、再びリゾートの敷地に戻る。コロニーのすぐそばの駐車場にたくさん実をつけた野生のイチジクの仲間の木があり、ヒメオオコウモリが集まって賑やかだ。

ヒメオオコウモリ

 リゾート内の一周道路では電線にフィリピンアオバズクがとまっていた。バルメリさんは同じガイド仲間にもパルマスオオコウモリのことを聞いておいてくれるとのことだ。

フィリピンアオバズク

 翌朝4時50分にコロニーに行くと、まだ真っ暗な中を次々とオオコウモリが帰ってくる。明るくなるころにはすっかり帰巣は終わるが、まだ寝る位置が決まらないのか時々コロニーの上空を多数の個体が飛び回る。

月を背景に飛ぶジャワオオコウモリ

 オオコウモリ観察場となっている渓谷の橋の下にはシロハラアナツバメが営巣しているので、明るくなると周囲を高速で飛び回るようになる。

シロハラアナツバメ

 オオコウモリがねぐらで落ち着いた頃に、われわれの朝ご飯。食堂はオオコウモリ観察をしている橋のすぐ近くに何軒か集まっていて、一部の店員はまだ真っ暗なうちからバ イクでやってきて準備をしている。各お店共用で炭火焼きをする建物があるのだが、火をおこしているのだろう。鶏や豚をローストした料理が香ばしくておいしい。

ローストした肉や揚げた小魚と目玉焼き、ガーリックライスが朝食の定番。

 午前中にもう一度コロニーの前に行くと、バルメリさんにdog-faced batを見つけたけど見に行くかと誘われた。コイヌガオフルーツコウモリ(lesser dog-faced fruit bat)のことだろう。もう一人のガイドといっしょに道から外れてかなりの傾斜のある斜面林を歩いて行く。最初に友達のガイドが見せてくれたのは、珍しいコウモリだというだけで名前を言ってなかったが、昨夜われわれが見損ねたパルマスオオコウモリではないか!

パルマスオオコウモリ。オオコウモリ属の中ではいちばん小さい。

 日本のクビワオオコウモリもオオコウモリ属としては珍しく、単独でひっそりと森の木にぶら下がって寝ていたり、せいぜい数十頭くらいのグループでしか見かけないが、パルマスオオコウモリも一頭だけで茂みの中にいた。木の葉に半分隠れるようにして静かにぶら下がっているので、ガイドに教わったとおりの特定の角度から見上げないとわからない。よく見つけたものだと感心する。二人とも、通常はバードウォッチャーを案内するようで、このときもバードウォッチャーのグループがいっしょにやってきて直ぐ近くでフィリピンアオバズクの写真を撮っていた。
 その後バルメリさんが自分で見つけたコウモリだといって、もう少し先の斜面の木に案内してくれた。椰子の葉の裏に止まっている全身黒く見える小型のオオコウモリだ。バルメリさんはこれがdog-faced bat だというのだが、確かにコイヌガオフルーツコウモリはこういった椰子の葉の裏などに単独や小グループで寝ていることが多いものの、その仲間Cynopterus属の特徴である耳の縁や翼の指骨にそった白い部分がまったく見えない。今まで見たことがないオオコウモリであることだけは確かなので、ともあれ感謝して写真を撮る。
 4日後に東南アジアコウモリ会議の行事としてこのマンブカルリゾートにたくさんのコウモリ研究者と再び来るのだが、このときにPhilippines Biodiversity Conservation Foundation, Inc. という今回のコウモリ会議の主催者でフィリピンの野生動物の保護団体の会長であるリサさんに、マンブカルリゾートで撮ったオオコウモリの写真を見てもらい、種の確認をしてもらった。そこでこのときのオオコウモリは、まったく予想外のローレンスフルーツコウモリHaplonycteris fischeriだと教わった。

ローレンスフルーツコウモリ。オオコウモリ科の中ではかなり小さいため、英名はPhilippine pygmy fruit bat。

 フィリピンは7109もの島々が広範囲に広がっていて、地域によって動物相も植物相も異なり、コウモリだけで70種以上が記録されている。哺乳類に関しては比較的よく調査されている島もあり、フィリピンの哺乳類概要(Synopsis of Philippine Mammals)というサイトで地域別に記録されている哺乳類の一覧を調べることができ、さらに各種の説明が写真付きで載っていて、このページで撮影したコウモリをほとんど識別することができた。しかし、このローレンスフルーツコウモリだけは、サイトに載っている写真が、かなり毛色が茶色いのに対して、われわれが見たのは椰子の葉の裏で逆光だったせいもあって真っ黒に見えたため、わからなかった。写真だけでコウモリを識別するのはとても難しいことと、地元で調査している人達に写真を見てもらえるこのような機会がとても貴重だということを改めて認識した。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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