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Vol.16 フィリピン バタン島 謎のクビワオオコウモリがいる島

2019.1.9

 クビワオオコウモリPteropus dasymallusは、日本では口永良部島から南の島々に生息するが、台湾東海岸や沿岸の島にも生息している。そして1992年にフィリピン北部の離島にも生息することが報告された。バタン島、バブヤン島、ダルピリ島、フガ島にいるようだが、当時、これらフィリピン個体群の生息状況の詳細は不明だった。また日本と台湾に生息するクビワオオコウモリは5つの亜種に分けられているが、フィリピン個体群はどの亜種に属するのか、あるいはまったく別な亜種なのかもわかっていない。その謎のクビワオオコウモリを見るために、2010年春、バタン島に7泊滞在、その後、前回のルソン島スービック経済特別区のBat Kingdomも再訪した。

バタン島位置図

 バタン島は首都マニラがあるルソン島と台湾の中間くらいにある面積9500haほどの島で、伊豆大島くらいの大きさだ。マニラとの間は一日2便飛行機が飛んでいる。マニラに一泊した後2010年3月24日、32席の飛行機に乗る。バタン島のバスコ空港は、島の最高峰標高1009mのイラヤ山の麓にあり、滑走路はその裾野の斜面にある。着陸は海側から入って、上り坂で自然にブレーキがかかるようになっている。離陸はもちろん山側から海へ出発するので、下り坂でスピードが出やすい。滑走路脇の草地では牛が草を食べ、人も仕事をしているが、飛行機が島に近づくとベルが鳴って知らせる。人口1万2千人ほどのなんとものどかな島だ。空港では手違いで宿からの迎えが来ていなくて、他のツアーの迎えに来たロジャーさんというガイドがジプニーに一緒に乗せてくれた。

右側のイラヤ山に向かって左側から伸びているのが滑走路

 宿の人から、日本軍の防空壕に行けば小さいコウモリはいるが、オオコウモリがいるのは他の島だと言われて、少々心配になってきた。しかし、町で先ほどのロジャーさんに会い、コウモリを見に来たという話をしたらRyukyu Flying Fox(クビワオオコウモリの英名)のことかと種名をちゃんと言われて驚く。彼は農場を所有していて、そこで夜オオコウモリの羽ばたく音を聞くことがあるという。

 とりあえずわれわれの担当ガイド、アルマーさんにコウモリを見たいといったら、丘の斜面にある洞窟に案内してくれた。いたのはキクガシラコウモリの仲間で、この島で記録されているキクガシラコウモリの仲間はオトメキクガシラコウモリRhinolophus virgoだけなのだが、それで合っているのかどうかはわからない。

キクガシラコウモリの仲間

 このときオオコウモリのペリットも見つけたので、夜も案内を頼むと、集落近くのマンゴーの木に確かにオオコウモリが複数来ていた。かじりかけの実がたくさん落ちている。現地でノイと呼ばれるイチジクの仲間の木にも5頭以上が飛び回っている。毛色は薄いのから濃いめのまでいろいろだ。大きさも雰囲気も日本のクビワオオコウモリと違いは感じられなかった。日本のクビワオオコウモリも毛色は個体差があり、亜種ごとに体の大きさに若干違いはあるが野外で見て識別できるほどの差ではない。

バタン島のクビワオオコウモリ

 翌日25日はネルソンさんというガイドに担当が変わり、島を周遊。この島は台風に頻繁に襲われるせいか石造りの家が多い。火山活動によってできた島で、集落周辺以外は起伏が多い。牧場や畑となっているところも多いが、谷間など所々に林が残っていてオオコウモリのいいねぐらになりそうだし、餌となる野生のイチジクの仲間、オオバイヌビワやギランイヌビワ、ガジュマルなどもある。
 海の向こうに見えるイトバヤット島は、コウモリがたくさんいて20年前は狩猟して食べたという。ということで明日と明後日にこの島に渡ることにして、町の薬屋さんで酔い止めを買う。ところが夕食時にネルソンさんと宿のマネージャーが来て、明日は海が荒れそうなので、イトバヤット島はやめた方がいい、かわりにネルソンさんのお父さんが借りているイラヤ山麓の農場の小屋に泊まりがけで行こうという。
 翌26日は確かに風が強い。船は出航したようだが、後日、この日に船に乗った人に話を聞いたら、ひどい荒れようだったそうだ。午後トライシクルでネルソンさんのお父さんが借りている農場へ行く。夜、泊まっている小屋の前で見ていると時々オオコウモリが飛ぶのだが、あいにく大雨が降ってきて思うように観察できない。翌日はネルソンさんのお父さんが牛や馬の世話をしたり山の中でバナナを育てている所を見ながらバードウォッチング。森の中ではサンコウチョウのつがいが営巣していた。ズアカアオバトは日本に生息するのとは違う亜種で、ちゃんと頭が赤い。尾が長いフィリピンオナガバトも飛ぶ。昼頃、ネルソンさんが近くまで4WDの車で迎えに来てくれて宿に帰る。

ズアカアオバト

 町にはスーパーマーケットや市場はないが、小さなお店や路上に机を出していろいろ食料を売っている。

店先ではいろいろな野菜や特産のニンニクを売っている(左)。シダを炒めたおかず。ワラビやゼンマイよりも葉が開いた状態で使うようだ(右)。

 魚はトビウオが多い。開いた魚を干している光景をよく見かける。開き方は背開きの三枚おろしだが、背骨は切り離さないで、三つ折りのパンフレットを開いたみたいに、全部がつながっている。この開き干しを揚げたものが朝ご飯のおかずとしてよく出てくるが、骨までカリカリと食べられておいしい。いちばんおいしかったのが、魚の中に魚の身を調理したものが詰めてある料理。

左はトビウオを干しているところ。右はトビウオの干物の素揚げがおかずの朝食。

 豚は敷地内で飼われていて、島内で解体されて消費される。日本では市場や寿司屋で鮪解体ショーというのがあるが、こちらでは豚解体ショーが見られる。気の弱い人が見ると卒倒しそうな光景だ。牛は広い牧場で飼育されているが、町はずれで4月3日に牛の解体と書かれているのを見た。牛解体ショーもあるのだ。

左は放牧されているコブウシ。右はTangkalと呼ばれる「そり」を引く水牛。この「そり」がちょうど通れる幅の道が畑に通じていて、水牛は耕運機としても使われる。

 その後も滞在中ずっと、集落から少し歩けば、クビワオオコウモリはけっこう見かけた。牧場の境や谷間、道沿いに残っている木を利用していて、この島だけでもかなりの個体がいるようだ。ただ日本のクビワオオコウモリと同じで、群れにならないで1、2頭ずつ飛んだり静かに休んでいたりするので、見つけにくい。結局見られたのは夜採餌に来るところだけで、昼間のねぐらはまったく見つからなかったのが心残りだった。

 最初に宿で、この島は安全でどこを歩いても大丈夫だといわれたのだが、確かに夜歩き回っても危険を感じない。バタン島を含むバタネス諸島の人は台湾の先住民と同じルーツを持つといわれるイバタン族が大部分で、顔立ちが日本人に似ている人が多く、親しみのある魅力的な島だった。海が荒れていて行きそびれたイトヤバット島はほんとうにオオコウモリがたくさんいるのだろうか、今度来る機会があったらぜひ訪ねたい。
 3月31日、マニラを経由して、2003年に訪れているスービック経済特別区に向かう。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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