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Vol.17 フィリピン 再びスービックのコウモリ王国へ

2019.2.13

 2010年3月31日、バタン島を後にしてマニラ空港経由でスービックへ。4月5日まで滞在したのだが、4月1~4日がイースター(ホーリーウィーク)の連休だと知らずに旅行の予定を立てて飛行機の便をとってしまった。そのため、観光地でもあるスービックのホテルの予約やレンタカーの手配に苦労することになった。事前にホテルにはレンタカーを借りてくれるようにメールで頼んで返事ももらっていたのだが、チェックインして車を借りようとしたら、まったく何もなされていなかった。連休のため空いている車を探し回り、なんとか借りることができてBat Kingdomについたのは18時40分頃。もう真っ暗で、出遅れたオオコウモリが時々空を飛ぶだけだった。

月とオオコウモリ 夜空を飛んでいると、ジャワオオコウモリなのかフィリピンオオコウモリなのか区別はできない。

 前回泊まったコウモリのねぐらの目の前にあるホテルがとれなかったので、今回はスービックの入り口近くにある繁華街のホテルとなった。おかげで食べるところはいろいろあったが、全体に観光客向けでフィリピンにしては小ぎれいで洗練されているが、値段は高い。フィリピンの連休であるこの期間はどこに入っても満員だ。おまけにコウモリを見ていると夜遅くなるので夕飯を食べようと思うと既にほとんどのお店が閉まっている。一軒だけ、しゃれたパンケーキ屋さんが遅くまでやっていて便利だった。このお店は普通のフィリピン料理もあって、たとえばある日の夕食はワッフルと鶏唐揚げ、魚の薫製料理、アイスティー2つ。746ペソ(1500円くらい)なので、フィリピンでの我々の食事としては破格に高い。フィリピンのアイスティーにはbottomlessというシステムがあって、おかわりがいくらでもできるというお店がよくあるが、このアイスティーはけっこう甘い。

パンケーキ屋さんの食事左が燻製料理、右がワッフルと鶏唐揚げ

 4月1日朝、Bat Kingdomの下方の道路に行ってみると、道の両側にオオコウモリがたくさん寝ていた。前回よりもコロニーの位置が少し下にずれたらしい。夜の間にお腹いっぱい食べたのだろう、飛びながら、そしてねぐらの木にぶら下がってからも大量の糞を落とす。黄色いのやら赤いのやら黄緑色のやら、種がいっぱい入ってねばっとしたのやらほとんど種の入ってない水っぽいのやら。道路脇に停めた車にも降ってくる。透明なのは尿だろう。走っている車にも落ちてくる。

カラフルなオオコウモリの糞いろいろ

 

 コロニーを見上げて写真をとっていたらカメラバッグにも落ちてきたし、もちろん写真をとっている人自身にも降りかかってくる。偶然その時に着ていたTシャツは前回来たときに買ったフィリピンオオコウモリのTシャツだったのだが、糞を浴びた後洗濯しても褐色がかった緑色の染みが残って、オオコウモリの糞染めになってしまった。

洗濯をしても染みが残ってしまったTシャツ(左)と糞の直撃を受けたカメラバック

 今回道路脇の割と見やすいところにコロニーが移動したので双眼鏡で一頭ずつ眺めていたら、順光で頭が鮮やかな黄色に輝いているオオコウモリに気がついた。ジャワオオコウモリは後頭部から背中にかけて赤褐色をしているはずだ。あわてて望遠鏡を出して確認すると、やはりフィリピンオオコウモリAcerodon jubatusだった。

フィリピンオオコウモリ

 よく見ると200頭以上はいそうだ。フィリピンオオコウモリなんてつまらない和名にしないで、英名Golden-capped Fruit Batのように、キンカン(金冠)オオコウモリとかにするといいのに。フィリピンオオコウモリは、飛んでいるときはジャワオオコウモリよりも翼が透けて見えて、一面に染みのような模様があるので、飛翔中でも見分けられるのがわかった。また耳は光を通すと明るい肉色に見える。

上がフィリピンオオコウモリ、下がジャワオオコウモリ

 話は変わるが、ここのところテレビ関係者などから、フィリピンオオコウモリの問い合わせが相次いで何件もあったのだが、どうやらネットでフィリピンオオコウモリと称する世界一大きいコウモリが紹介されているようだ。ジャワオオコウモリ、インドオオコウモリ、フィリピンオオコウモリの3種は、どれも体重1kg以上になり、翼を広げたときの長さが1.5mを越えるものもいて、どれも世界最大級だ。ネットで出回っている画像を見るとフィリピンオオコウモリではないものもたくさんある。また遠近法を利用して、やたら巨大に見えるように撮ってるものも多い。
 さて、ここは主要道路なので通りかかる車やバイクがわれわれが観察するのを見てオオコウモリに気がつき、次々と停車して時々渋滞を引きおこす。オオコウモリは車の音やヘッドライトや人の声にはまったく動じないが、鉄砲の音を連想するような破裂音には敏感だ。滞在中のある日の午後4時頃、手をたたいた人がいて、驚いたオオコウモリが一斉に飛び立って周囲を大声を上げて飛び回り、大騒ぎになったことがある。その様子を見て通りかかる車が更に次々と停車し、道の両側に15台くらいの車が止まってしまった。一台の車によくこんなに乗れるなと思うくらいの人が乗っていることが多いので、見物客は100人ぐらいになった。おもしろがって更に手をたたくものだから、人もオオコウモリも狂乱状態がしばらく続いた。赤ちゃんを抱いたフィリピンオオコウモリまで1頭飛んでいた。

赤ちゃんをお腹に付けて飛ぶフィリピンオオコウモリ

 夜はオオコウモリの飛びたちを見た後、以前タケコウモリのねぐらがあった斜面に行くが、今回その周辺の竹が根こそぎ姿を消していた。夕暮れ時にオオコウモリコロニーの近くでは小さなコウモリが飛んでいるのだが、このあたりではコウモリの気配はまったく感じられなかった。他のところでも竹に縦長のスリットが空いているのは見るのだが、今回はとうとうタケコウモリのねぐらを見つけることができなかった。せっかくビデオを新調したのに。

 住宅地の道路脇の斜面に穴がたくさん空いている。よく見るとルリノドハチクイMerops viridisが顔をのぞかせている。宅地の中の舗装道路脇で、人通りは多くはないが人も車もすぐ前を通っていく場所だ。目の前の電線にとまって蜂を狙うせいか、電線に沿って大量の糞が落ちていた。6年前に来たときもまったく同じところにコロニーがあった。ワシタカが時々空を飛び、コオオハナインコモドキTanygnathus lucionensisの小群やルソンカオグロサイチョウPenelopides manillaeも見かけたが、オオコウモリを見るのに忙しくて、鳥まではなかなか手が回らない。

ルリノドハチクイ

 滞在中は毎日オオコウモリの夜の飛びたちと朝の帰還を楽しんだが、夜採餌する姿はまったく見かけない。ジャワオオコウモリは数十km離れた場所まで採餌に行くことがあるらしいが、いったいどこまで飛んでいくのだろうか。昼間のねぐらは見つからなかったバタン島のクビワオオコウモリとは対照的だった。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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