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Vol.23 ロタ島3 マリアナオオコウモリの未来

2019.8.15

 ロタ島の魚類野生生物局に所属するコウモリの専門家ジョシュアさんのマリアナオオコウモリ調査に参加させてもらった。20年前に比べると、道路が荒れていて、われわれの借りたレンタカーでは走れない所も多かったのだが、彼の4WD車で島じゅうをまわることができた。

ロタ島中央部の保護区の看板 夜間は通行止めになる

 前年の台風の影響で、野生のイチジクの仲間はまだ青い小さな実をつけ始めたばかりだし、バナナはやっと生長してきたけれど花をつけるのはまだ2-3ヶ月先だという。どちらもオオコウモリの主要な食べ物だが、まだとても彼らのお腹を満たす状態にはない。もっぱら食べているのはアダンの仲間の実だ。よく見かけるアダンの仲間には2種類あって、ジョシュアさんによれば、片方がマリアナオオコウモリの好みだそうだ。たぶん、Pandanus fragrans のことと思われる。実が熟すとパイナップルのような甘い香りを放つ果肉をつけ、オオコウモリやネズミの餌となったりショウジョウバエが集まる。もうちょっと繊維っぽい実を付けるPandanus dubius は完熟すると小核果に分離し、それを包丁で縦に二つ割りにすると小型のアーモンドくらいの白色の胚乳が出てくる。人間が食べるとナッツのような味がするが、こちらはオオコウモリの好みではないそうだ。

調査の様子 中央の男性がジョシュアさん

 滞在6日目の1月15日の16時過ぎに、偶然道路脇にちょうど食べ頃のアダンの実を見つけた。目の前でマリアナオオコウモリが次々とやってきてはもぎ取っていく様子を、ほとんど最初から最後まで観察することができた。アダンの実はパイナップルのように小さな小果がぎっしりと詰まって球状になっていて、それぞれの小果の根元がオレンジ色に熟している。かなり堅そうに見えるのだが、最初の一個を1頭のパイオニア精神のあるオオコウモリががんばって抜き取れば、あとは取りやすくなる。ちょうどスナックパインなどの名前で売られているボゴール種のパイナップルと同じだ。手でむしって食べられるといっても、最初はどこかに包丁を入れるわけで、あれを包丁なしで食べろと言われたら、とっかかりがなくて苦労する。

アダンにやって来たオオコウモリ

 誰かが最初の小果1個を抜き取ると、匂いが広がるのか入れ替わり立ち替わりオオコウモリがやってきて、ほんの5-10秒ほどで1個を外すと、争いを避けるためか、すぐにくわえて飛んでいき、木から離れる。

小果1個をくわえたオオコウモリ

小果を食べるオオコウモリ

 ピーク時には近くの枝にぶら下がって順番待ちしている個体がいる。森の上をオレンジ色のアダンをくわえて低く飛ぶオオコウモリは目立つし匂いも広がるせいか、更にたくさんのオオコウモリがやってくる。オオコウモリの数が増えて小果が残り少なくなると、何頭かが実のところではち合わせして喧嘩になることもある。のべ100頭以上が来ただろうか、1時間ほどでアダンの実は芯だけになってしまった。最初から最後まで一つのアダンの実を食べる様子が観察できたのはこの一回限りだったが、アダンの実に次々とマリアナオオコウモリがやって来るところは、サバナ高原と島の南側の平地でそれぞれ一回ずつ見た。森の上をアダンの実をくわえたオオコウモリが低く飛んでいくのはそれ以外にも何度も見かけた。

アダンの小果をくわえて飛ぶオオコウモリ

 台風やサイクロンの後、餌不足になったオオコウモリが昼も餌を探しまわったり、普段あまりいかない人里に現れるのは、このあたりでは繰り返し見られるし、サモアなどほかの太平洋の島でも観察されている。この島の場合、未だにオオコウモリの密猟があり、そうでなくても台風で葉が落ちて、木にぶら下がって休むオオコウモリの姿が見やすくなってしまったのに、まっ昼間に人里近くに出てきたり、低いところを飛んでいたりすると簡単に狙われてしまうことが大きな問題になっている。2002年にもロタ島は大きな台風に見舞われたのだが、直接台風によってオオコウモリがやられたり、餌不足で死んだりというよりも、密猟が増えたためにオオコウモリが減少してしまったので、繰り返されないことを祈りたい。
 食虫コウモリは、現在ロタ島には生息していない。ロタなどマリアナ諸島のいくつかの島には、かつてミニオサシオコウモリEmballonura semicaudataという洞窟棲の食虫コウモリが生息していたのだが、ロタ島では60年代あたりに絶滅してしまった。今ではマリアナ諸島ではテニアンの近くにあるわずか7平方キロメートルの無人島のアギガン島にしか生息していない。絶滅の原因は不明であるが、ミニオサシオコウモリ自体は太平洋の島々に広く分布しているので、島間移動をすることもあるのだろう。再び棲むようになることもあるかもしれない。ジョシュアさんたちは再導入する可能性も探っているようだ。

道路を横切るマングローブオオトカゲ 島の中を走り回っていると、こんな動物に出くわすこともある

 餌不足で町中に迷い込んだ幼獣の保護にも誘ってくれて、すっかりお世話になったジョシュアさんは、次回来たらオオコウモリのコロニーを案内するといってくれた。その頃までにマリアナオオコウモリが安心してコロニーに帰れるようになっているだろうか。今回オオコウモリの写真撮影には最高だったが、明るい空を飛ぶオオコウモリの実状は決して明るくないのだ。

赤く染まりはじめた雲をバックに飛ぶオオコウモリ

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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