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Vol.24 パラオ 食料として狩猟されてきたパラオオオコウモリ

2019.9.16

 アジアや太平洋、アフリカの一部地域では、コウモリを食料としている。伝統的な食材だったり、薬効が信じられていたり、市場で家畜の肉を買うよりも安く手に入る肉として、あるいは売って生計を立てるために、禁猟となっている国でさえ密猟は絶えない。前回のロタ島のチャモロ人もオオコウモリが大好きだったが、他の太平洋の島でも食べられている。しかし島嶼は面積が限られ、大陸から隔離されているので、生息する生物の種数も個体数も多くない中で生態系は微妙なバランスを保っている。もともと人間による開発や移入種の持ち込みの影響を受けやすいところに、人間による捕食圧もかかると、絶滅の危機に瀕することも多い。グアムにはかつてマリアナオオコウモリの他にトクダオオコウモリPteropus tokudaeが生息していたのだが、1968年を最後に目撃例はなく、狩猟が主な原因で絶滅したとされている。
 さて同じミクロネシア地域のパラオも、オオコウモリを食料としてきた国である。マリアナ諸島のオオコウモリは狩猟で少なくなってしまったが、パラオオオコウモリPteropus pelewensisは、まだまだいると聞き、2010年1月13日から17日まで滞在した。

パラオ位置図

パラオ中心図

 現在パラオにいるこのオオコウモリは、Pteropus pelewensisという固有種だという説とロタ島などのマリアナ諸島に生息するマリアナオオコウモリPteropus mariannusの固有亜種だという説があり、この場合学名はPteropus mariannus pelewensisとなる。ここでは現在哺乳類の世界でいちばんよく引用される『Mammal Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference』(Don E. Wilson, DeeAnn M. Reeder Johns Hopkins Univ Pr; 3版 2005)に従って固有種とした。また和名はこのリストをもとにした世界哺乳類標準和名目録(哺乳類科学 58 巻 (2018) Supplement号)の記載に従った。

パラオオオコウモリ

 この目録にはオオパラオオオコウモリPteropus pilosusというちょっと紛らわしい名前のコウモリも載っているが、実はこのPteropus pilosusは1874年よりも前に採集された標本が2頭保存されているだけで、その後生息は確認されていない。オキナワオオコウモリPteropus loochoensisも1870年に3頭が採集されそのうちの2頭が大英博物館に保存されているが、それ以降まったく報告がない。オオパラオオオコウモリといいオキナワオオコウモリといい、本当に存在したのだろうか。
 さて1月13日の真夜中2時頃、飛行機はバベルダオブ島の国際空港に到着。橋でつながったお隣のコロール島が観光の中心地でわれわれの泊まるホテルもこちらにある。一眠りしてから町を歩くと目の前のレストランの入り口に、「フルーツこうもりスープ」と日本語で窓ガラスの外に張ってある。パラオでは、今でも狩猟しているようだが、ワシントン条約では付属書Ⅰに掲載されている。地元の人が食べるのはともかく、旅行者が興味本位で食べて欲しくない。

フルーツこうもりスープの看板

 パラオ、特にコロール島は、南洋の島らしさと日本統治時代の影響があり、観光やダイビングで訪れる日本人も意識したお店などもある。伝統的太平洋食のタロイモや魚の丸揚げ、モンキーバナナ、ココナッツミルクの煮物は、お店で買う物でないのかあまり見かけないが、Yano’sというお店には日本食と共に現地食がいろいろあって持ち帰って食べられる。An Panというのがあり、中身は小倉あんで89セント。

現地食いろいろ

 この日は、コウモリ観察ツアーに参加する。15時前にお迎えがくる。まずはガイドの兄弟の家で飼育されているパラオオオコウモリを見る。翼開長は80cmくらいだが、頭胴長は15cmくらいで、日本のクビワオオコウモリよりは一回り小さい。その後空港のあるバベルダオブ島にあるコロニーを見に行く。日没の17時頃になるとコロニーの上をオオコウモリが飛ぶようになる。けっこう高く飛ぶが、たまに低く飛ぶのも見られた。1時間ほど空を飛ぶ様子を観察する。餌をとるのは森の中のようだが、バベルダオブ島は大きな島だしジャングルで覆われているので探すのは難しい。帰りに畑の上をミニオサシオコウモリEmballonura semicaudataが飛んでいた。ツアーは一人80ドル。
 翌14日にはこのオオコウモリのコロニーに早朝から行った。時々樹冠の上をオオコウモリが飛ぶ。6時半過ぎに日が昇って明るくなってもけっこう飛んでいた。

パラオオオコウモリ

 午前中にコロール島とマラカル島を結ぶ橋の中途にあるレクレーション公園でBeach CherryとかCedar Bay Cherryとよばれる木Eugenia reinwardtianaの小さな赤い実を食べたペリットを拾った。ここにもオオコウモリが来ているらしい。フトモモ科のこの実は鳥も食べるようで、穴が空いて落ちている実もたくさんあった。その後コロール島から橋でつながっているマラカル島とガラケベサン(アラカベサンとも書かれる)島に行ってみたがオオコウモリの気配はなかった。
 15日、国立博物館で、バベルダオブ島にNgermeskang Bird Sanctuaryがあり、禁猟区なのでオオコウモリも見やすいと教わった。大体の場所を教えてもらい、午後早々に行くと、看板のある入り口から車の通った跡があるのだが、草が深くて轍には水がたまり、今回は長靴を持ってこなかったので奥へは入れなかった。しかし入り口の舗装道路に立っているとオオコウモリが頻繁に上空を飛ぶ。いいところには違いない。

Ngermeskang Bird Sanctuary入り口の看板

 集落にはアバイ(Bai)という集会場があって、ここによく動物の絵が描かれている。コロール島の町中にこのアバイをかたどった休憩所があって、巨大なオオコウモリが描かれているものがあった。

オオコウモリが描かれている休憩所

 16日は先日ペリットを見つけたレクレーション公園でオオコウモリの姿を確認、サンクチュアリ、およびツアーで行ったコロニーも見て回り、翌未明に出発する飛行機なので真夜中をまわった1時30分頃チェックアウトして空港へ向かった。

 滞在中パラオオオコウモリは毎日見られたし、夜は泊まっているコロールの町中のホテルでも声が聞こえたが、近距離で見ることはできなかった。狩猟されている地域ではどこもそうなのだが、飛んでいく姿は見ることができても、近くで見るのは難しい。採餌しているところはホルトノキの仲間の高い木の上で青い実を食べているところを見たくらいだ。

採餌中のパラオオオオコウモリ

また、パラオオオコウモリは日中もけっこう飛んでいて、それもねぐらの上空を飛ぶだけでなく、けっこうな距離を飛び回っていた。今まで見たオオコウモリの中では、台風後の特殊な場合を除いて、いちばん昼行性のように感じた。もちろん夕方は更に活発になる。ただし、コロール島のような人の多いところで見られるのはやはり夜だけ。それも高い木の上にいることが多い。パラオは小さな島がたくさんある。そちらの方が人間の狩猟の影響が少なくて近くで見られるのかもしれないので、そのうちペリリュー島などにも行ってみたい。

パラオオオコウモリ

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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