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Vol.1 『キリンの繁殖』

2011.6.2

動物園・水族館は野生動物を保全するという大きな使命があります。繁殖のことを考えるのは,とても大切なことです。この連載コラムでは,動物園・水族館のいくつかの動物の繁殖生理と,その研究方法などについて紹介していきたいと思います。よく分からないところは読み飛ばしてください。繁殖学の研究が動物園でどのように行われているのか,何のために行われているのかが伝われば幸いです。

 

さて、記念すべき一回目のコラムはキリンの繁殖についてです。
誰もが知っているキリン,動物園で誰もが見たことのある動物だと思いますが,その繁殖について考えてみたことはあるでしょうか。

突然ですが,女性の月経周期は約28日といわれます。ゴリラやオランウータンなどの大型類人猿も同じくらいです。これは体の中で起こっている排卵に伴う生理サイクルです。排卵する時期には,発情兆候が見られ,動物たちはその時期に交尾して妊娠します。キリンに月経はありませんが,同じように排卵のサイクルがあります。キリンは短く,約2週間です。発情兆候が見られるのは排卵前のほんの数日ですが,オスはその時期をよく知っています。猫を飼っている人は見たことがあるかもしれませんが,キリンも同じようにフレーメンという行動があり,写真のような表情をします。これはメスの尿などに含まれている発情のサイン(フェロモン)を調べていると考えられています。

アミメキリンのフレーメンアミメキリンのフレーメン
(写真提供:京都市動物園)

キリンのメスが,生まれて初めて排卵するのは3~4歳です(寿命はメスでだいたい20歳くらい)。早い個体は,この年齢でも妊娠することができます。キリンの妊娠期間は長く,450~470日です。妊娠したかどうかを早くはっきり知りたいと思うのは,私たちも飼育係もきっと同じでしょう。人は超音波診断という方法がありますが,キリンでそれを行うのは至難の業です。キリンが妊娠すると,2週間ごとに見られていた発情兆候が見られなくなるので,ある程度推測することはできますが,それをはっきりさせるために,ホルモンという体内の生理物質の分泌量の変化をみることがあります。どうやって,それを調べるのかは,また次の機会に回すとして,京都市動物園と一緒に調べていた,アミメキリンのメス“未来”のホルモン量の変化を一例として紹介します。

2006年から,妊娠診断のために調査を開始し,妊娠診断のほか,排卵周期がどれくらいなのか,出産後にどれくらいで,次の発情・排卵が戻ってくるのか,などが分かりました。調査開始時にはすでに妊娠していることがわかりました。第1仔“竜王”(オス)を出産した後は,約180日で排卵周期が再開し,その後,2回目妊娠したことがわかりました。第2仔“音羽”(メス)を出産した後は約120日で排卵周期が再開し,その後3回目の妊娠に至り,第3仔“紫雲”(メス)を出産しています。現在までに3回の妊娠診断に成功し,3頭が無事に生まれています。竜王くんと音羽ちゃんは,別の動物園に,次世代の繁殖のために移動していきました。動物園では,このような調査によって,より確実な繁殖管理を行ったり,また次の繁殖を考えて動物園間の協力体制の下に飼育・繁殖計画を進めたりしています。

2011年3月12日に生まれたアミメキリン“紫雲”
(写真提供:京都市動物園)

このような性ホルモンを調べる研究は,実験室の科学実験ですから,これだけでは繁殖にはつながりません。繁殖学の研究と,動物園での飼育繁殖技術とを共に考えながら,よりよい飼育と繁殖につなげていくことが大事です。

 

動物園に行くとき,「繁殖」という目でも動物を見てみてください。新たな発見があるかもしれません。日本の動物園全体で,約150頭のキリンが飼育されています。そのうちメスは約90頭です。妊娠していなければ,発情が2週間おきにやってきますから,何度か動物園に行けば,キリンが交尾する大迫力の瞬間に出くわすチャンスがきっとあることでしょう。


アミメキリンのオスがメスを追尾している様子
(写真提供:姫路セントラルパーク)


アミメキリンが交尾しようとしている様子
(写真提供:姫路セントラルパーク)

このコラムを書くにあたり,共同研究を行っている,京都市動物園と姫路セントラルパークに貴重な写真をお借りしました。有難うございました。

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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