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Vol.3 『チーターの繁殖と妊娠判定』

2011.11.17

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ナンシーが2008年4月30日に産んだ子供たち,生後7日目 (写真提供:姫路セントラルパーク)

第3回目はチーター。チーターの繁殖と妊娠判定の方法について書いてみたいと思います。

まず…、イエネコは日本では主に1~8月が繁殖季節で、この期間にメスは発情を定期的または不定期に繰り返します。外でニューニュー、ギャーギャーいっている時期があると思います。チーターには、決まった繁殖季節がありません。また,チーターの発情は、他のネコ科動物に比べて外見的に判断するのが難しいことに加えて、性ホルモンの研究からもはっきりと決まった発情周期があるとは言い難い動物です。

チーターは、飼育下での繁殖が難しい動物のひとつです。チーターの精子濃度はイエネコに比べて薄く、さらに奇形精子率が極めて高いことが知られていますが、そのことは繁殖が難しい理由ではなさそうです。また、通常は単独生活している動物ですから、雌雄を別々に飼育する必要が出てきます。雌同士であっても敵対行動を示すような個体を一緒に飼育していると、卵巣の活動が止まってしまうという調査結果も報告されています。そのため動物園では、繁殖のためにペアリングのタイミング、すなわちメスの発情を飼育者の目で判断しなければいけません。

このような繁殖生理の特徴のせいか、チーターについては、野生ネコ科動物の中では、性ホルモンや行動の研究が多く行なわれてきました。でも、まだまだ分からないことがたくさんあります(次の第4回のコラムでも少しチーターのことに触れます)。

左上下:オスのキリムとメスのユリの交尾 右:スミレが2009年1月6日に産んだ子供たち,生後78日目 (写真提供:共に富士サファリパーク)

飼育下でチーターの繁殖成功率を高めるためには、発情の見極めと共に、妊娠診断を確実に行い、万全の準備で出産に挑むことも重要です。チーターは、妊娠後期あるいは末期にならないと、お腹の大きさや行動などの外見変化から妊娠を確定するのが難しいそうです。そこで、妊娠を確定する方法を確立することが私たちに求められました。もちろん動物に負担をかけずに、そっと行うことが条件です。イヌやネコの妊娠は、動物病院へ行ってエコーで確認してもらうことができますが、チーターではそういうわけにはいきません。物理的に拘束したり、場合によっては麻酔をかける必要もでてきたりします。そこで、第1回のキリンのコラムと同じく、糞を拾って、その中に排泄されているホルモン量の変化を調べることにしました。妊娠の維持には“プロジェステロン”というホルモンが大いに関係しています。これが体内でうまく分泌されていないと妊娠は維持できません。逆にいうと、このホルモンを糞から捉えることができれば、妊娠判定ができるということです。(正確にいうと、妊娠していなくても分泌されるホルモンなので、その分泌パターンの違いを判断することになります。)

表はこの研究を行なった期間に出産した個体とその妊娠期間などをまとめたものです。

 

調査期間中に、東京都多摩動物公園、富士サファリパーク、姫路セントラルパーク、九州自然動物公園で飼育されていたチーターのうち6頭から計8回、妊娠中の糞を集めることができました。その糞中プロジェステロンの変動は、唯一採血ができていた1頭の血中プロジェステロンの変動パターンと比較すると、ほとんど同じでした。これは、糞中のプロジェステロンの変動が、体内(血液中)の変化を反映しているということを意味し、採血しなくても体内の変化を推定できるということがわかりました。これで、糞を使ったプロジェステロンの測定法が、チーターでも確立できました。糞中プロジェステロンは妊娠期間を通して高い数値を維持することもわかりました。妊娠していない場合は、このホルモンが基底レベル(グラフの0日より左側のレベル)を示すか、このホルモンが増加していても、交尾から50~60日で下がってしまいます。この違いを判断することで、チーターの妊娠診断が可能になったわけです。

チーター6頭からの妊娠8例の糞中プロジェステロン動態の平均値と、 妊娠個体1頭の血中プロジェステロン動態の比較

この方法で、研究室の学生たちがこの後も多くのチーターの妊娠判定を行ってきました。最近では、妊娠判定を行ったスミレ(多摩動物公園)が2011年6月11日に4頭を出産し、そのうちの1頭のメスが“キングチーター”であったことが話題になりました。キングチーターは、種としては,チーターに変わりありませんが、チーター特有の体の斑点模様が大きく、特に背中はそれが帯状につながっています。今回の誕生は、世界でも数十例といわれるほど珍しいことで、毛色に関わる突然変異遺伝子が劣性ホモになり、表現型として現れたことによるものです。 写真は、以前、日本で飼育されていたオスのキングチーターです。

以前,アドベンチャーワールドで飼育されていた“キングチーター” (1999年2月10日撮影)

糞中プロジェステロンのモニタリングによるチーターの妊娠診断法は、だいぶ普及しつつあります。しかし,この方法は完全ではありません。このホルモンは、妊娠期以外にも分泌されることや、糞という材料の性質上、誤差が大きいこともあって、これまでに1度だけ判断を誤ってしまったことがありました。そこで、更に正確な方法を確立するために、現在は別の方法を研究中です。

ちなみに、ここで紹介したチーターの妊娠判定に関する研究は、以下の論文が基になっています。 Adachi I, Kusuda S, Kawai H, Ohazama M, Taniguchi A, Kondo N, Yoshihara M, Okuda R, Ishikawa T, Kanda I, Doi O. 2011. Fecal progestagens to detect and monitor pregnancy in captive female cheetahs (Acinonix jubatus). Journal of Reproduction and Development 57(2): 262-266.

最後に、これらの性ホルモン研究は、群馬サファリパーク、東京都多摩動物公園、富士サファリパーク、アドベンチャーワールド、姫路セントラルパーク、秋吉台サファリランド、九州自然動物公園との共同研究として行われ、一部は日本動物園水族館協会からの助成を受けて実施してきました。お世話になった皆様に改めて御礼申し上げます。また、本コラムの作成にあたり、多摩動物公園、富士サファリパーク、姫路セントラルパークにご協力をいただきました。ありがとうございました。

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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