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Vol.13『ニホンライチョウの保全にむけて④:繁殖研究のイメージ』

2013.9.21

ここまで3回(Vol.10~12)、乗鞍岳での「ライチョウ生息状況調査等現地講習会」での研修の様子をご紹介してきました。今回は、野生ニホンライチョウの繁殖生理の共同研究について、少し触れたいと思います。

繁殖研究のイメージと目標

この研究では、野外でニホンライチョウの糞を(可能な限り)年間を通して採集し、糞中ホルモン値を指標にして、野外での生理データを集積し、これまでの生態研究の知見と併せて、野生ニホンライチョウの繁殖の生理生態を調べられれば、というのが目標です。生理と生態のデータを一緒にすることで、飼育・繁殖に何か役立つ情報が得られればよいな、と思っています。

動物園のスバールバルライチョウの雌雄(2013年5月19日撮影、(公財)東京動物園協会協力)

種の保存法に基づく「ライチョウ保護増殖事業計画」(2012年発表)の中には、「飼育下での繁殖」という項目があり、今後、ニホンライチョウの域外保全の場として特に動物園の役割が大きくなってきます。現在はニホンライチョウは飼育されていませんが、それにむけて、動物園では別亜種のスバールバルライチョウで、飼育研究・繁殖研究・飼育繁殖技術の確立などが進められています。

スバールバルライチョウの飼育は、2008年に東京都恩賜上野動物園がノルウェー・トロムソ大学から、交尾後の雌が生んだ卵を導入し、人工孵化させて開始されています。現在では国内6施設(東京都恩賜上野動物園、富山市ファミリーパーク、東京都多摩動物公園、長野市茶臼山動物園、いしかわ動物園、横浜市繁殖センター)が協力して、ニホンライチョウの域外保全に向けて、スバールバルライチョウの飼育・繁殖技術の確立や各種の生物学的データの収集に取り組んでいます。その一環として、繁殖生理に関する調査研究も進められています。その部分で私たちも共同研究の一部を担当させていただいています。

特に鳥類では、産卵生理や内分泌状態(体内のホルモン変化)を理解することは、飼育・繁殖を行う上で重要な要素のひとつになります。鳥類は通常、光環境等の飼育環境条件に対して鋭敏に反応するため、その状況を内分泌学的に捉え、環境条件とあわせて把握しておくことは、飼育・繁殖技術の向上にもつながると考えています。

動物園とのスバールバルライチョウの繁殖生理・内分泌に関する共同研究では、糞中の性ホルモン含量の変化を年間を通してモニタリングし、飼育環境条件との関連性や、産卵・換羽等との関係について調査しています。これらの飼育下での詳細なデータ蓄積と共に、最終的にニホンライチョウの飼育・繁殖にも応用できるよう、野生ニホンライチョウの生理に関する調査・研究データも早めに蓄積し始めておく必要があるのではないかと考えました。イメージ図のように、動物園、大学、そして飼育研究、生理研究、生態研究、といったように、それぞれの専門がありますが、考えていることは皆同じで「ニホンライチョウを保全したいという思い」です。すぐに関係者が連携・協力する体制ができ、研究が進み始めています。

私自身は、ライチョウにこれまでまったく縁がなく、ライチョウに関わることになるとは想像もしていなかったし、かなり勉強不足です。ライチョウの専門家・飼育の専門家のご指導をいただきながら、担当の学生と共に、何か役立つことができればと思って取り組んでいきたいと思います。(※ライチョウに縁がまったくなかった、と書きましたが、正確には、思い起こせば学部生時代の私の指導教員はライチョウの保全医学の研究者で、ライチョウという言葉を耳にすることがよくありました。)

ここで紹介したスバールバルライチョウの繁殖研究は、ライチョウ域外保全会議、東京動物園協会恩賜上野動物園、富山市ファミリーパーク、岐阜大学の共同研究として行われたもので、結果の詳細は下記の学会で発表予定です。本コラムの作成にあたり、ライチョウ域外保全会議の皆様と、信州大学教育学部の中村浩志先生に内容のご確認をいただきました。有難うございました。

第19回日本野生動物医学会大会(2013年8月30日・31日)
山本彩織、楠田哲士、堀 秀正、高橋幸裕、堀口政治、村井仁志、土井 守
『飼育環境条件と産卵および換羽に伴うスバールバルライチョウの生殖腺活動の変化』

【参考文献】
 中村浩志.2006.『雷鳥が語りかけるもの』.山と渓谷社.
 中村浩志.2007.『ライチョウLagopus mutus japonicus』.日本鳥学会誌56(2):93-114.

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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