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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.7『多くの動物園と共同研究するワケ』

2012.4.30

第7回目は,とても大切な動物園との協力関係について紹介します。

私たちは,主に糞中ホルモンを指標にして,動物園動物の繁殖生理を調べています。それには,全国各地の多くの動物園や水族館の協力が欠かせません。そして,たくさんの動物を対象にすることも重要です。それには大切な意味や理由があります。

動物園・水族館との共同研究の対象になっている動物のごく一部
これまでに調査してきた(調査している)動物は,哺乳類・鳥類・爬虫類の計61種

糞中ホルモンの測定法は,世界中の動物園で採用され(※動物園動物の糞中ホルモンに関する研究は,オーストリアの大学が第1人者です),この方法でわかった絶滅危惧種の繁殖生理に関する情報は,その繁殖計画を進めるための基礎情報として使われることになります。国内の動物園でも,ゾウ・キリン・チーター(これまでのコラムを参照)など広く様々な種でこのような調査研究を進めています。また,一部の調査は,日本動物園水族館協会・種保存委員会の各動物の繁殖検討委員会の活動の一環として行われています。『どうぶつのくに』31号の愛媛県立とべ動物園の特集では,アフリカゾウ・クロサイ・カバの親子が紙面を飾っていますが,実はこの妊娠判定にも関わっていました。

これまでに共同研究を行ってきた(行っている)動物園水族館
(岐阜大学応用生物科学部 動物繁殖学研究室)

希少種といわれる絶滅の危機に瀕した動物たちは,一般的には飼育下での繁殖も難しく,ひとつの動物園で飼育されている個体数も限られています。それがゾウのような大型動物であれば尚更です。動物園同士が連携しながら,繁殖を進めているのと同じように,繁殖研究も連携して多くの個体を長期的に調査しながら,その成功例・失敗例を蓄積しながら,基準値・正常値を作っていくことが重要です。一部の個体を調査しても「研究」としては貴重なデータになりますが,それ以外の個体で実際に繁殖を進めようとする場合には,あまり有用な情報にはなりません。実際に繁殖するのは個々の「個体」たちなので,多くの個体で,例えば,排卵周期の調査や妊娠診断などを長期的に行っていく必要もあります。それは,「研究」ではなく,「検査」としての面が強くなります。しかし,逆にその「検査」を積み重ねていくことで,真の「種」としての「研究」データが蓄積されていくことにもなります。

たとえば,次の図は,東京と横浜と名古屋の動物園で私たちが調べている動物です。
アジアゾウは現在,上野動物園に4頭,横浜の動物園(よこはま,金沢)に5頭,東山動物園に3頭飼育されています。ひとつの動物園だけだと数頭ですが,これらの動物園と一緒に共同して研究すれば,12頭も集まることになります。オスだけを考えると,各園に1頭ずつですから,4頭にしかなりません。単純に,数だけ見ても,たくさんの動物園と共同研究を行う意味が見えてきます。

例えば,東京,横浜,名古屋の動物園と調査研究している動物
色付き文字は,現在も継続調査中の動物です。

そして,初めて調べる動物で,糞中ホルモンを測定しても,そのデータから発情や排卵,妊娠の有無を判断することはなかなかできません。できる動物もいますが,できないことも多いのです。そういう場合にも,その種の正常なデータとの比較が必要になり,多くの個体での蓄積データを持っておく必要があります。

さいごに・・・
私たちが糞中ホルモンの調査研究を始めたのは2002年頃です。今年でちょうど10年です。これまでに調査してきた(調査している)動物は,哺乳類,鳥類,爬虫類の計61種で,個体数はちょっと数えられません・・・。依頼したり,依頼されたりしながら,その数は膨れ上がってきました。それだけ,繁殖生理のわかっていない動物が多いということであり,また積極的に繁殖を進めなければならない絶滅危惧種が多いということでもあり,そして繁殖が難しい動物が多いということなのです。悲しいことですが,この数字はこれからも増えていくのでしょう。1種でも1個体でも多くの繁殖生理を解明し,そして動物園での実際の繁殖に少しでも貢献できるよう,これからも地道に続けていきたいと思います。

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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