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Vol.11『ニホンライチョウの保全にむけて②:生息地研修2日目』

2013.8.24

環境省主催の2日間の「ライチョウ生息状況調査等現地講習会」に、縁あって同行させていただきました。本コラムは、研修2日目の様子です。

1日目の暴風雨とは打って変わって、2日目は朝から快晴でした。2日目の研修では、現場に到着してすぐに雪渓や岩場を登り、ハイマツの急斜面を登り、ライチョウのなわばりの中へ入っての巣の捜索調査からスタートです。

ニホンライチョウのなわばり内で巣の捜索調査(乗鞍岳、2013年6月23日)
(※写真に写っている場所は、本来は入ってはいけない場所です。写っている人は、環境省の許可を受けた関係者です。)

岩の上からなわばりを監視中の雄のニホンライチョウに会うことができました。そして、抱卵中のライチョウや巣を見ることができました。幼鳥を除く、ほぼすべての個体が足環で標識され、また営巣場所の多くが調査によって把握できているのだそうです。

ニホンライチョウは、3~4月の雪解けと共に、雄間の順位や強弱を決める闘争が激化し、強いものからなわばりが決まっていくようです。5月には一夫一妻のつがいが形成され、6月に産卵、卵は1~2日おきに1卵ずつ、計4~8卵(6卵が多い)が産み出されるそうです。抱卵は雌だけが行い、雄は目立つ岩の上でなわばりの見張り行動を行います。雌は1日に2度ほど採食のために30分ほど巣を離れ、その間は雄が近くで護衛するのだそうです。抱卵開始から20~23日後の7月上旬に一斉に孵化し、その後3ヶ月間、雌親だけが育雛や抱雛行動を行います。この頃には、雄はなわばり防衛や雌の護衛行動を終了し、単独または数羽の雄で生活するのだそうです。(詳しくは、最後に記した参考文献を参照。)

上:なわばりを監視中の雄のニホンライチョウ。下左:近くにはお相手の雌が、ハイマツの中の巣で抱卵中、隙間からまだら模様の体が見えました。下右:卵を捕食されてしまった巣だそうです。(乗鞍岳、2013年6月22日・23日)
(※写真に写っている場所は、本来は入ってはいけない場所です。写っている人は、環境省の許可を受けた関係者です。)

ニホンライチョウのこの生息地で、多くの高山植物も見ることができました。一帯にカーペット状に広がるハイマツ林は、ニホンライチョウの営巣場所や、猛禽類等から身を隠す場所として必須です。世界の最南端に生息するニホンライチョウがこれまで生き残ってこられたのは、日本の高山帯にハイマツがあったからだと言われるくらい、重要な植生です。ハイマツの種子はニホンライチョウやホシガラスの餌になるそうです。冬季に雪の下に冷凍保存されていたコケモモの実は、雪解けと共に重要な餌になります。その他の多くの高山植物の葉や実も、ニホンライチョウにとって大切な餌資源です。

①ハイマツ、②ハイマツの実、③コケモモの実、④ガンコウラン、⑤キバナシャクナゲ、⑥イワツメクサ、
⑦コマクサ(乗鞍岳、2013年6月22日・23日)

この高山帯に、今までは生息していなかったニホンジカが温暖化の影響や個体数の増加によって、森林限界を超えてその姿が徐々に目撃されるようになってきているそうです。ニホンジカが高山帯に入ってしまうと、高山植生は一瞬に壊滅するでしょう。それによって、ニホンライチョウは短期間のうちに絶滅に向かってしまうかもしれません。早急な対策が望まれます。

乗鞍岳では、ニホンライチョウのほか、ホシガラス、イワヒバリ、カヤクグリ、オコジョ、ツキノワグマが見られるそうです。今回、帰り道の登山道からカヤクグリ(写真)を見ることができました(2013年6月23日)。

続きはまた次回。

この研修へのお誘いをいただき、また研修中も多くのことをご指導くださいました、信州大学教育学部の中村浩志先生、東邦大学理学部の小林 篤 氏、そして研修中にお世話になりました環境省長野自然環境事務所野生生物課の宮坂利夫氏に感謝申し上げます。なお本コラムの作成にあたり、信州大学教育学部の中村浩志先生と日本大学生物資源科学部の村田浩一先生(よこはま動物園ズーラシア園長)から貴重なご意見をいただきました。有難うございました。

【参考文献】  中村浩志.2006.『雷鳥が語りかけるもの』.山と渓谷社.  中村浩志.2007.『ライチョウLagopus mutus japonicus』.日本鳥学会誌56(2):93-114.

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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