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Vol.21 『コアラの繁殖研究②:繁殖季節』

2015.3.17

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コアラの飼育は、オーストラリアでは1914年にタロンガ動物園と1920年代にコアラパークサンクチュアリで始められ、すでにそれ以前に国外での飼育が試みられています。ユーカリの葉のみを餌とする特殊な食性をもつコアラを飼育することは当初難しく、また、かつてはその多くが船による輸送中に死亡していたようです。1880年に初めて生存個体がロンドン動物園(イギリス)に搬入されたのが、オーストラリア国外での初めての飼育例だったようです。アメリカでは1950年代以降に飼育技術が確立され、1960年にサンディエゴ動物園において、前年に贈呈されたコアラがオーストラリア以外では初めて繁殖に成功しています。

日本には、1984年10月25日にタロンガ動物園(オーストラリア)から東京都多摩動物公園と名古屋市東山動植物園に、ローンパインコアラサンクチュアリ(オーストラリア)から鹿児島市平川動物公園にそれぞれコアラが贈呈され公開されています。繁殖については、1986年4月4日に名古屋市東山動物園において国内で初めて出産に成功して以降、数多くの出産例があります。しかし、繁殖に寄与している個体が限られ、血統が偏っていること、高齢化が進行していること、オーストラリアからの新規個体の導入が困難であること、新生子の育児嚢からの落下による死亡や育児嚢内での衰弱死が増えていることなど、コアラの飼育および繁殖において難しい面もあるようです。

国内飼育下コアラの繁殖状況の季節性を明らかにするため、以前、動物園と共同で調査を行なったことがありました。日本で最初の1986年の出産以降、2005年末までの約20年間に国内で出生した血統登録個体170頭とオーストラリアで生まれ日本に搬入された血統登録個体53頭を対象として(一部の不明個体を除く)、日本とオーストラリアでのそれぞれの出産時期について集計し、比較しました。

図1 国内飼育下コアラの繁殖状況の季節性(1986~2005年の集計結果) オーストラリアでの受胎時期と日本での受胎時期は逆転し(季節はだいたい同じ)、オーストラリア生まれで日本育ちの雌の日本での受胎時期は、その中間的なパターンを示しています。

図1 国内飼育下コアラの繁殖状況の季節性(1986~2005年の集計結果)
オーストラリアでの受胎時期と日本での受胎時期は逆転し(季節はだいたい同じ)、オーストラリア生まれで日本育ちの雌の日本での受胎時期は、その中間的なパターンを示しています。

コアラの妊娠期間が平均34日間であることから、出産日から逆算して受胎時期(妊娠月)を考えると、国内での月別の受胎例数(日本生まれ日本育ちの雌が出産した場合)は、4月に最も多く、次いで5月で、3~6月に60.7%が集中していました(図1下)。オーストラリア生まれで日本育ちの雌が出産した場合には、3月のピークに加えて、11月にも多いことが分かります(図1中)。一方、オーストラリアでは、10月に最も多く、9~1月に69.7%が集中していました(図1上)。

コアラの繁殖の季節性について、オーストラリアでの出産期は夏(10~5月)で、ローンパインコアラサンクチュアリでは10~1月に80%が集中し、ビクトリア地方では10~3月に出産がみられ11~1月に67.5%が集中するとの報告があります。

日本の飼育個体は、年間を通して発情兆候が認められますが、春に最も強い発情がみられているようです。出産時期の調査結果からも、日本では3~6月がコアラの交尾あるいは受胎に適した季節(交尾期)であるようです。日本とオーストラリアはほぼ同経度ですが、赤道を境に南北ほぼ逆に位置していることから、交尾期の季節はともに春前後です。

雄個体の糞中アンドロジェン(精巣ホルモン)値を測定すると、その変動パターンは、月ごとの受胎例数のパターンとほぼ一致していました。これらの結果は、日本の飼育個体が、日本の季節による日長変化に順応した繁殖季節をもっていることを意味しているのでしょう。しかし、オーストラリアから日本へ輸入されてきてしばらくは、雄個体の糞中テストテロン値の動態に乱れが生じることも確認されました。おそらくその個体の体内で、日本とオーストラリアの季節の時期的逆転を、即座には順応できず調整している途中経過を捉えたものではないかと考えています。

ここで紹介したコアラの繁殖研究は、名古屋市東山動物園、大阪市天王寺動物園、淡路ファームパークとのそれぞれの共同研究として行われたもので、以下の論文が基になっています。

Kusuda S, Hashikawa H, Takeda M, Ito H, Goto A, Oguchi J, Makino T, Doi O. 2013. Season- and age-related reproductive changes based on fecal androgen concentrations in male koalas, Phascolarctos cinereus. Journal of Reproduction and Development 59(3): 308-313. 

昨年から今年にかけて,名古屋市東山動物園や埼玉こども動物自然公園に,久々にオーストラリアからコアラがやってきました。今後益々の繁殖が期待されます。

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著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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