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Vol.20 『コアラの繁殖研究①:交尾排卵動物』

2015.2.23

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コアラ(Phascolarctos cinereus)は、双前歯目コアラ科に属するオーストラリア固有の有袋類です。有袋類は、かつて有袋目(Marsupialia)とよばれる単一の分類群(目)にまとめられていましたが、その進化過程を考慮して、7つの目に分けられています(表1)。コアラを始め、私たちのよく知っているカンガルー類、ワラビー類、ウォンバット類など、オーストラリアを代表する有袋類は、すべて双前歯目に分類され、有袋類全体では19科90属 約300種が現存しているようです。

表1 有袋類の分類(Dickman(2005)から引用、一部改変)

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コアラは、オーストラリア大陸の北東部から南東部にかけて広く分布し、以前は、北から順にクイーンズランド州南東部に生息するものをクィーンズランドコアラ(P. c. adjustus)、ニューサウスウェールズ州東部に生息するものをニューサウスウェールズコアラ(P. c. cinereus)、ビクトリア州と南オーストラリア州南東部に生息するものをビクトリアコアラ(P. c. victor)として、3亜種に分類されていました。ビクトリア亜種は、他の亜種に比べて体格が大きく、体毛色にも違いがみられます。

しかし、このような形態的特徴は3亜種間で明確に区分できない連続的な変異で、学術的・客観的根拠に乏しいことから、DNA分析の結果や地理的状況などを考慮して、飼育下ではクイーンズランド亜種およびニューサウスウェールズ亜種(北方系コアラ)とビクトリア亜種(南方系コアラ)の2つグループに分けて管理する推奨案が、IUCN(Australian Monotreme and Marsupial Taxon Advisory Group)によって発表されています。日本の動物園でも2001年以降、この方針に基づく繁殖計画が進められています。

有袋類は、様々な繁殖生理のパターンがありますが、多くは季節繁殖動物で自然排卵動物だといわれています。コアラは、繁殖季節をもちますが、例外的に交尾排卵動物であると考えられています。「交尾排卵」という現象については、以前のコラムVol.4をご覧ください。
http://www.doubutsu-no-kuni.net/?p=5427

以前、北方系と南方系のコアラの雌21頭について、糞中プロジェステロン代謝物値の動態と、発情兆候、交尾行動、出産との関係を調べたことがありました。コアラの発情兆候には、行動量が増加する(特に夜間)、床に下りる回数が増える、採食量が減少する、それに伴い体重が減少する、雄の鳴く回数が増える、雌が雄の鳴声に反応して耳を頻繁に動かす、木の上で鳴く、などが見られるようです。このような発情兆候が見られても、交尾しない限り、黄体活動(排卵)が見られないことが、グラフ(図1)から読み取れます。また、交尾がなければ、長期間、発情兆候が持続されるようです。この結果は、コアラが交尾排卵動物であることを強く示すものです。これらの調査から分かったことを表2にまとめています。

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図1 コアラの糞中プロジェステロン代謝物値の動態と、発情兆候や交尾、出産がみられた日との関係(代表例として、名古屋市東山動物園での北方系コアラ3頭の結果を示しています。)

表2 コアラの繁殖生理ステージごとの日数(名古屋市東山動物園、横浜市立金沢動物園、大阪市天王寺動物園、淡路ファームパークでの調査結果の平均値)

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図2 コアラの交尾後の糞中プロジェステロン代謝物値の平均動態(北方系コアラと南方系コアラの比較,北方系コアラの妊娠時と交尾後出産がなかった場合の比較)

交尾後、妊娠出産した場合と交尾後出産しなかった場合の糞中プロジェステロンの動態を比較すと、約40日間上昇が持続し、両者の変動パターンがほぼ一致していることが分かります(図2右)。プロジェステロンは、主に、排卵後に形成される黄体から分泌されるホルモンで、妊娠を維持するのに重要な役割を持ちます。プロジェステロンの上昇が見られれば、その個体がおそらく排卵したこと(交尾排卵動物なので、おそらく交尾したことも)は分かるものの、妊娠しているかどうかは分からないということになります。妊娠判定の指標となる生理物質は一般的にはいろいろあり、その中でもプロジェステロンは基本となるものですが、コアラの妊娠判定には使えないことが分かりました。コアラの妊娠判定法の確立が望まれていますが、生理学的な手法としては、残念ながら現時点では良い方法が見つかっていません。さらなる研究が必要です。

ここで紹介したコアラの繁殖研究は、名古屋市東山動物園、横浜市立金沢動物園、大阪市天王寺動物園、淡路ファームパークとのそれぞれの共同研究として行われたもので、以下の論文が基になっています。

Kusuda S, Hashikawa H, Takeda M, Takeda K, Ito H, Ogata-Kobayashi Y, Hashimoto M, Ogata M, Morikaku K, Araki S, Makino T, Doi O. 2009. Non-invasive monitoring of reproductive activity based on fecal progestagen profiles and sexual behavior in koalas, Phascolarctos cinereus

. Biology of Reproduction 81:1033-1040.

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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