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Vol.17 『ミナミコアリクイの生理出血』

2014.10.28

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図1 サンシャイン水族館のミナミコアリクイの親子(2009年)
下:母親のタエ、上:生後74日齢の子(コンブ)(写真:サンシャイン水族館提供)

 ミナミコアリクイは、その名の通りアリクイの仲間です。アリ食という特徴的なグループで、歯に特徴があり、こういった動物たちは、分類学研究の中でグループわけが大きく変化してきた動物です。以前は、アリクイ類は、ナマケモノ類やアルマジロ類、そしてかつてはセンザンコウ類やツチブタも一緒に、貧歯目として分類されていたようです。その後、アリクイ類、ナマケモノ類、アルマジロ類は異節目に、そして現在は、アリクイ類とナマケモノ類が有毛目、アルマジロ類は被甲目に分類されているようです(センザンコウ類は有鱗目、ツチブタは管歯目)。

 ミナミコアリクイは、最近ではいくつかの動物園で繁殖に成功し、親子の様子が見られるようになってきました。ミナミコアリクイは、明確な発情徴候を示さないようで、また繁殖研究も進んでおらず、私たちがこの研究を始めた当時は国内での飼育園館も少なく繁殖例も少なかったようです。国内では、2005年にサンシャイン水族館で初めての繁殖に成功しています。

 

[サンシャイン水族館での繁殖例]
①タエ:2005年11月27日出産(リク♂)日本初
②タエ:2006年7月8日出産(ミナミ♂)
③タエ:2007年12月24日出産(アイ♀)・・・ このコラムで紹介する研究の舞台
④タエ:2009年4月22日出産(コンブ♀)
⑤タエ:2012年1月5日出産(ダイゴ♂)
⑥メイ:2012年3月27日出産(コウメ♀)

 サンシャイン水族館で飼育されているミナミコアリクイのタエは、定期的に生殖孔からの出血が認められていたのですが、情報が少ない動物でもあり、その理由が分かっていませんでした。しかし、定期的に見られていることや、健康上の問題もなかったため、出血の理由は生理的な変化であるだろうと予想していました。

 動物の生殖孔からの生理的出血には主に2つのパターンがあります(参考文献:「動物園動物管理学」、「獣医繁殖学」)。

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1.月経血
卵巣周期に伴うエストロジェンとプロジェステロンの退行によって子宮が影響を受け、子宮内膜が剥離・脱落して出血が生じる動物がいます。ヒトのほか、類人猿(オランウータン、チンパンジー、ゴリラ)、旧世界ザル(アカゲザル、ブタオザル、ニホンザルなど)、新世界ザルの一部(オマキザル類、クモザル類、ホエザル類)やメガネザル類で月経血がみられることが報告されています。コウモリ類の一部(オヒキコウモリ類、ヘラコウモリ類)、ハネジネズミ類、ツパイ類でも確認されています。

2.発情出血
月経とは異なり、子宮内膜の剥離や脱落は起こりません。こちらはエストロジェンの増加によって、子宮内膜の血管が発達して滲出し、腟を経て陰門から漏出する現象です。発情出血の起こる動物として有名なのはイヌです。イヌでは発情前期から発情期にむけて出血が見られます。発情出血は、タイリクオオカミやアライグマなどでも報告されています。

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 コアリクイの発情周期や排卵周期に関する生理的な研究報告例は、当時(おそらく今もだと思いますが)ほとんどない状態だったため、まず出血時期と性ホルモンの変化(生理ステージ)の関係を調べることになりました。

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図2 ミナミコアリクイの採血の様子(写真:サンシャイン水族館提供)
定期的な採血によって、血液検査が可能になります。健康管理にもとても大切なことです。少しかわいそうと思われるかもしれませんが、動物園や水族館で動物を健康に管理し、適切に繁殖させていくためにはとても大切なことです。

 血中の性ホルモンの変化から、平均44日間(約6週間)の発情周期・排卵周期が確認できました。陰部からの出血が月経血なのか発情出血なのかを断定することはできませんが、性ホルモン動態との関係から、おそらく月経血なのではないかと思われます。その後、タエは調査期間中に妊娠し、クリスマスに出産しました。出産後は育子中にも関わらず、すぐに発情周期(排卵周期)が回帰することも明らかになりました。

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図3 ミナミコアリクイのメス(タエ)における性ホルモン分泌パターンと陰部からの出血と粘液の排出時期の関係

 ここで紹介した研究は、コアリクイ類の繁殖学分野の研究としてはおそらく世界で2つ目のものです。血中の性ホルモン変化を明らかにしたのは初めてで、これは水族館スタッフによる、適切な保定技術と採血技術とがあり、定期的な無麻酔採血ができたからこそ実現し得た研究です。この論文が公表された後、南米やヨーロッパ等の研究者から何度か論文請求がありました。それほどコアリクイの情報が少ないことを改めて実感したときでした。
 この内容は、サンシャイン国際水族館(現:サンシャイン水族館)との共同研究として行われたもので、下記の論文が元になっています。本コラムの作成にあたって、改めて内容確認や写真提供等のご協力をいただきました。ありがとうございました。

Kusuda S, Endoh T, Tanaka H, Adachi I, Doi O, Kimura J. 2011. Relationship between gonadal steroid hormones and vulvar bleeding in southern tamandua, Tamandua tetradactyla. Zoo Biology 30(2): 212-217.

どうぶつのくにの他のコラムで、わんぱーくこうちアニマルランドのミナミコアリクイがたくさん紹介されていましたので、コアリクイ好きは是非ご覧ください。
http://www.doubutsu-no-kuni.net/?cat=98

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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