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Vol.10 『ニホンライチョウの保全にむけて①:生息地研修1日目』

2013.8.10

コラムを書くのが滞って早1年も経ってしまいました。。。すみません。寄稿10回目という記念でもあり、日本の神の鳥「ニホンライチョウ」のことを4回に分けて書いてみたいと思います。

神の鳥、ニホンライチョウ(乗鞍岳,2013年6月23日)

先月、乗鞍岳に出かけてきました(2013年6月22日・23日)。環境省主催の2日間の「ライチョウ生息状況調査等現地講習会」に、縁あって同行させていただくことになったのです。

乗鞍岳は、長野県松本市と岐阜県高山市にまたがり,北アルプスの南端に位置し、中部山岳国立公園の中にあります。ニホンライチョウの生息地です。現地集合だったので、私たちは岐阜県高山市のほおのき平バスターミナルに車を停め、シャトルバスに乗り込み、岐阜県側から入山しました(長野県側からのルートもあるようです)。乗鞍岳にむかう乗鞍スカイラインは、自然環境保護や交通渋滞を失くすため、マイカー規制が行われています。乗鞍岳畳平(標高2702 m)にある乗鞍バスターミナルまで、ほおのき平バスターミナルから約40分。お昼に到着しましたが、悪天候、濃霧で数十メートル先はまったく見えません。

ニホンライチョウは国の特別天然記念物で、岐阜県・長野県・富山県の県鳥でもあります。ニホンライチョウLagopus muta japonica(以前の学名はLagopus mutus japonicus)は、ライチョウという種のうちの1亜種です。ライチョウは、北半球の北部を中心に温帯から寒帯に分布していますが,日本は世界の最南限の生息地にあたります。

ニホンライチョウの野生個体数は、1984年以前は推定約3000羽とされていましたが、最近では2000羽以下にまで減少しているのだそうです。その理由として、キツネやカラスなどの生息域拡大による捕食の増加、山岳環境の汚染、開発による生息地の減少、ニホンジカの侵入による高山植生の破壊などが挙げられています(高山植生は、ライチョウにとっての営巣場所、巣材、餌、猛禽類等から身を隠すための隠れ場として重要です)。

このような状況から、昨年2012年10月31日に、種の保存法に基づき、「ライチョウ保護増殖事業計画」が発表されています。神の鳥とも呼ばれるニホンライチョウ、そして聖域であったニホンライチョウの生息地に危機が迫っています。生息域内での調査等のほか、飼育下でもニホンライチョウの保全にむけた取り組みや研究が動物園を中心に進められつつあります。このことについては、次の回で紹介したいと思います。

「ライチョウ生息状況調査等現地講習会」には、環境省・長野県・岐阜県・石川県のそれぞれの自然環境関連の部署や、静岡ライチョウ研究会の方が参加されていました。この研修会の講師として、ライチョウ生態研究の第一人者である信州大学の中村浩志先生と東邦大学の小林さんが、そしてオマケとして岐阜大学から私と学生が参加し、全員で15名で行われました。

1日目の実習は、暴風雨の中で行われ、立っているのもやっと、息をするのもやっとの状況でした。ただでさえフィールドワークの苦手な私にとっては非常に過酷なものでした。なんとか付いていき、風雨の中、じっと耐える神の鳥に初対面しました!

1日目は非常に悪天候で、レインウェアを着ていたのに中までびっしょり。そんな風雨の中にひっそりたたずむニホンライチョウ(乗鞍岳、2013年6月22日)

この日は、ひどく悪天候のため、少し早めに実習は打ち切りになりました。その日の夜は宿泊先の「位ヶ原山荘」で、ライチョウの生態や調査法に関するセミナーが行われました。ライチョウには素人の私でしたが、研究の話をするよう頼まれていましたので、今行なっているスバールバルライチョウの繁殖生理に関する動物園との共同研究について、僭越ながら少しご紹介させていただきました。山荘でコタツに入りながら、プロジェクターでパワポスライドを使ってのとても味のある雰囲気のセミナーでした。

左上:位ヶ原山荘と環境省の許可車両、右上:夕食のシカ鍋,下:山荘の広間でセミナー(乗鞍岳,2013年6月22日)

2日目は、前日とは打って変わって朝から快晴でした。前日の慣れない登山ですでに体がガタガタになっていた私。しかし、ライチョウを見たいという気持ちが勝り、その気力を頼りに2日目の実習に挑むことにしました。神に出会うために。

続きは次回。

さいごに
この研修へのお誘いをいただき、また研修中も多くのことをご指導くださいました、信州大学教育学部の中村浩志先生、東邦大学理学部の小林 篤 氏、そして研修中にお世話になりました環境省長野自然環境事務所野生生物課の宮坂利夫氏に感謝申し上げます。なお本コラムの作成にあたり、信州大学教育学部の中村浩志先生と日本大学生物資源科学部の村田浩一先生(よこはま動物園ズーラシア園長)から貴重なご意見をいただきました。有難うございました。

【参考文献】
 文部科学省・農林水産省・環境省.2012.『ライチョウ保護増殖事業計画』

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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