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Vol.18 『オオミユビトビネズミの繁殖レポート②:子育て』

2014.11.27

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図1 オオミユビトビネズミの姉妹(生後47日)

 オオミユビトビネズミ(greater Egyptian jerboa、Jaculus orientalis)のちょっと珍しい繁殖例について、前回のコラムVol.15で、1.求愛行動、2.交尾、3.妊娠、4.出産までをご紹介しました。今回はその続き、5.子育て(育子)と6.子の成長についてです。

5.置き去り型の子育て
 これまでに二度の繁殖を見てきましたが、一度目は失敗でした。一度目は、産子数2で、1匹目は食殺、2匹目は育子放棄となりました。この一度目の出産では、出産当日から巣箱内をひたすら掘る行動が頻繁に確認されました(音で確認)。半透明の巣箱で落ちつかないことが原因だろうと考え、二度目の出産にむけて巣箱を改良しました。
改良点は2つ。中が見えないように木箱を準備し、内部構造を少し複雑にしました。内部に仕切りを入れて2部屋にし、片方の部屋にはステージを作り、中に潜り込めるようにしました(オカメインコ用の巣箱に手をくわえたものです)。

 二度目の出産(この巣箱に変えてからは初めての出産)でも、出産数日前から、そして出産後の育子中にも、巣箱内を掘り続ける行動がみられました(音で確認)。育子放棄とも思いましたが、結果的には、もともとそういう行動をとる動物なのではないかと思いました。というのも、マウスやハムスターなどの他の小型齧歯類のように母親が常に子に接して育子をしているのではないようです。巣箱を覗くと、子は巣材で埋められていて、母親は隣の別室で掘る行動を続けています。写真は、被されていた巣材をよけたところですが、この後、母親が埋めようとする行動を見せました。オオミユビトビネズミは置き去り型の育子をするようです。何度観察しても、巣材をよけても、次に巣箱を開けてみると埋め戻されています。

 巣箱内の別室(子のいる部屋とは違う方)は、掘る場所として使い、そしてトイレとしても使用していたようです。巣箱内が1部屋の場合、一度目の失敗を考えると、子まで掘り返されたり踏みつけられたりして、うまく育たないのではないかという印象を受けました。子から離れ、掘り続ける行動によって、育子放棄と勘違いしてしまいましたが、置き去り型の育子をするということを前提に考えれば、それは普通の行動なのかもしれません。野生での繁殖生態や、巣穴内の構造や機能はよく分かりませんが、産室とは別に、通路やいくつかの部屋を持って生活しているのだとすれば、その構造を再現し、少なくとも複数の部屋を用意することで出産や子育ての成功につながるのかもしれません。

図2 オオミユビトビネズミの巣箱内の様子(天板を開けて上から撮影)

図2 オオミユビトビネズミの巣箱内の様子(天板を開けて上から撮影)

6.子の成長
 生まれたときは、他の齧歯目の新生子同様、ピンクマウス状態で、トビネズミの特徴である足はまだ長くはありません。なんとなく体全体が長いようには思いましたが。子の成長は、マウスやハムスターなどに比べると、非常にゆっくりな印象ですが、足は着実に伸長していきます。2週間ほどで薄っすらと毛が生えてくるようです。32日目の観察では、目が開きかかっています。33日目には固形飼料も齧れるようになっていました。巣箱内でかなり動き回るようになりますが、足はまったく使えず、全身を使ってイモムシのように動きます。35日目には完全に開眼し、前肢のほうが後肢よりも先にしっかりしてきたような印象です。まだ後肢はうまく使えず立ち上がれません。37日目の観察では、巣箱内の隣室(堀り場所やトイレとして母親が利用していた方)に移動していました。
 海外の資料によると、オオミユビトビネズミでは、固形飼料を食べ始めるのが4週齢、巣を離れるのが7週齢と書かれています。

図3 オオミユビトビネズミの子の成長経過(生後約1ヶ月間の経過)

図3 オオミユビトビネズミの子の成長経過(生後約1ヶ月間の経過)

 以下のページに、その後の動画を掲載しています。
http://blogs.yahoo.co.jp/zooreplab/56465618.html

 今回と前回の2回に分けて繁殖経過を紹介してきましたが、これがこの種の完全な(本来の)行動や生態なのかは分かりません。しかし、今後の繁殖を考える際に、多少なりとも参考にできればと思います。

さいごに
 トビネズミ(ジェルボア)は、2000年に初めて日本に紹介されたそうで、2000年代前半は一大ブームとなりました。特に500円玉サイズのバルチスタンコミミトビネズミ(ピグミージェルボア)がよく見られましたが、今や全く目にすることはなくなってしまいました(2014年11月現在)。どうなってしまったのでしょうか。かつて一世を風靡したエリマキトカゲのように、記憶からも忘れ去られてしまった動物かもしれません。
 当時は、コミミトビネズミのほか、ヒメミユビトビネズミ、オオミユビトビネズミ、オオミミトビネズミなど、いくつかのトビネズミ類が輸入されていたようです。寿命はコミミトビネズミで2~3年、オオミユビトビネズミで5~6年といわれています。飼育下繁殖が難しいことに加え、その後、輸入規制(正確には検疫)も厳しくなり、当時の輸入個体が寿命を全うしていくにつれて、日本の動物園(やペット市場)から姿を消していったのでしょう。
 輸入規制というのは、2005年9月に、輸入動物を原因とする人の感染症の発生を防ぐために、厚生労働省によって「動物の輸入届出制度」が導入されたことです。

 「野生の齧歯目の動物を原因とする新興・再興感染症(ペスト、ラッサ熱、ハンタウイルス肺症候群、腎症候性出血熱、レプトスピラ症、野兎病、サル痘など)は海外において発生しています。これらの感染症については、動物は何ら症状を示さなくても、ひとたび人に感染すると重症となる感染症もありますので、これら感染症の発生を軽減するため、安全性の確認が困難な野生の齧歯目の動物については、輸入を認めないこととし、一定の衛生管理が期待できる施設で繁殖された動物のみが輸入できるようにしました。」(厚生労働省HPより引用)

 最後の一文にあるように、特定の施設からの飼育下繁殖個体の輸入は認められるはずですが、現状ほぼ輸入停止状態であることを鑑みると、当時は野生個体の輸入に頼っていて、飼育下繁殖法も確立されなかった、ということなのかもしれません。規制後にも、何度か繁殖個体が輸入されてきたようですが、非常に限られた数だったのだろうと想像します。すでに遅しという感もありますが、少しでも、飼育や繁殖の知見が蓄積され、それが参考にできる情報として公表されていくことを願っています。

 果たして今、日本国内に何匹のトビネズミがいるのでしょう。

図4 オオミユビトビネズミの母子(左右が子、生後47日)

図4 オオミユビトビネズミの母子(左右が子、生後47日)

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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