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Vol.8『アンテロープの性行動』

2012.7.13

アダックスの親子(姫路セントラルパーク,2005年2月13日撮影)

鯨偶蹄目は,進化史上,非常に反映しているグループで,とても多様性に富んでいます。特に,ウシ科に分類される種は多く,この目では最多の種を抱えるグループだといえます。
ウシ科は通常8つの亜科に分類されますが,最近では10亜科に分けられているようです。

  • ・インパラ亜科(Aepycerotinae)
  • ・ハーテビースト亜科(Alcelaphinae)
  • ・ブラックバック亜科(Antilopinae)
  • ・ウシ亜科(Bovinae)
  • ・ダイカー亜科(Cephalophinae)
  • ・ヤギ亜科(Caprinae)
  • ・ブルーバック亜科(Hippotraginae)
  • ・チルー亜科(Pantholopinae)
  • ・リーボック亜科(Peleinae)
  • ・リードバック亜科(Reduncinae)

 

このうち,ウシ亜科とヤギ亜科を除いたグループを『レイヨウ(羚羊)』または英語で『アンテロープ(antelope)』とよびます。この中でも,私が大好きなブルーバック亜科の動物を紹介したいと思います。ブルーバック亜科には,8種が分類されています。ウシ科の中でもブルーバック亜科の動物は,その美しさが群を抜いています(と勝手に思っています)。

  • ・アダックス Addax nasomaculatus
  • ・ローンアンテロープ Hippotragus equinus
  • ・セーブルアンテロープ Hippotragus niger
  • ・ブルーバック Hippotragus leucophaeus(絶滅)
  • ・ベイサオリックス Oryx beisa
  • ・シロオリックス Oryx dammah
  • ・ゲムズボック(ケープオリックス) Oryx gazella
  • ・アラビアオリックス Oryx leucoryx

 

日本の動物園で見られるウシ科ブルーバック亜科の動物たち
①ゲムズボック(姫路セントラルパーク,1998年12月30日撮影)
②アダックス(姫路セントラルパーク,2004年7月29日撮影)
③セーブルアンテロープ(東武動物公園,2011年9月18日撮影)
④シロオリックス(姫路セントラルパーク,2008年9月4日撮影)
⑤ローンアンテロープ(姫路セントラルパーク,2009年6月12日撮影)
⑥アラビアオリックス(アドベンチャーワールド,2007年6月28日撮影)
※施設名は撮影時のもので,現在は飼育していないところもあります。また,ゲムズボックは現在,日本の動物園ではみることができません。

ブルーバック亜科の動物は,その美しさ故に,特に角を狙った乱獲が進み,絶滅の危機に瀕している種も多いのです。現在では厳重に保護されていますが,ブルーバックはすでに絶滅し,アラビアオリックスやシロオリックスは野生では一度絶滅してしまいました。アラビアオリックスとシロオリックスは,動物園での繁殖計画が成功し,野生復帰も果たしています(次回紹介します)。

前置きが長くなりましたが,このコラムの本題である繁殖のことに話を戻しましょう。今回はこれらの動物におそらく共通していると思われる性行動のパターンについて紹介したいと思います。

シロオリックスの性行動
①オスからメスへの追尾行動,②サークリング,③オスがメスの背後に立つ,④オスからメスへのキッキング(laufschlag),⑤マウント・交尾(姫路セントラルパーク,2005年7月17日撮影)

シロオリックスのオスは,発情期にあるメスを,尿や陰部の臭いを嗅ぎながら探しあて,そのメスへの追尾行動を始めます。オスとメスは互いのお尻や陰部の臭いを嗅ぎ合いながら,同じ場所でゆっくり回転する行動がみられます。サークリングなどと称しています。メスはオスを受け入れる発情のピークに達すると,オスが背後に立っても動かずにじっと留まるようになります。オスは前肢を持ち上げてメスの後肢などを刺激し,許容の状況を確かめるような行動を見せます。これをlaufschlagというのだそうですが,日本語ではキッキングと称しています。そして,メスが発情ピーク(排卵時期)であることが分かると,マウント行動や交尾が行われます。

アダックスでは,グラフのように,サークリングやキッキングが,メスの発情期(排卵期:性ホルモンのプロジェステロンが低い時期)に多く観察される行動であることが,性ホルモンのデータとの関係から明らかになりました。これらの個体は,保定技術によって比較的安全に麻酔をかけずに定期的な採血ができていたため,血液中の性ホルモンの動きを調べることもできました。糞に排泄されたホルモンの動きが,血液中での変化をよく反映していることが分かります。定期的な血液中のホルモンデータは,野生動物(動物園動物)では非常に貴重なものです。これには,動物園スタッフの捕獲・保定・採血などの高い技術が必要です。

アダックスのメス2頭で同じ期間調査した性ホルモンと性行動の関係(姫路セントラルパーク)

ここで紹介したアダックスの繁殖研究は,姫路セントラルパークとの共同研究として行われたもので,下記の論文が基になっています。本コラムの作成にあたって,姫路セントラルパークの方々に改めてご協力をいただきました。ありがとうございました。

楠田哲士,長神大忠,西角知也,中川大輔ほか.2006.アダックスにおける糞中のプロジェステロン含量測定による発情周期,妊娠および分娩後発情回帰の非侵襲的モニタリング.日本野生動物医学会誌11(1): 49-56.

著者プロフィール

楠田 哲士(くすだ さとし)

1978年 兵庫県神戸市生まれ
岐阜大学応用生物科学部・准教授。専門は、動物園動物の繁殖生理学。
日本大学生物資源科学部動物資源科学科卒業、岐阜大学大学院修了。博士(農学)。
東京都臨時職員(多摩動物公園)、日本学術振興会特別研究員などを経て、
2008年から現職。
日本動物園水族館協会生物多様性委員会・外部委員。

著書
『キリンEAZA飼育管理ガイドライン』(日本動物園水族館協会)、
『動物園動物管理学』(文永堂出版)、『動物園学入門』(朝倉書店)など

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