日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.13 擬態するウミウシ

2018.8.8

ウミウシは巻貝のなかまです。しかし多くの種において貝殻を失っています。

どうして敵から身を守るために発達したはずの貝殻を脱ぎ捨てて生きていくことにしたのでしょうか。

貝殻は無敵の要塞ではありません。殻を噛み砕くもの、うまく引きはがしてしまうもの、殻に穴を穿つもの、海の中には貝を食べようと工夫を凝らした戦略を持つ生きものがたくさんいます。
その柔軟な体を生かして岩の隙間などの狭いところへするっと入り難を逃れられればよかったのですが、貝殻の存在が災いして隙間に入り込めなくなってしまうことがあります。
より頑丈な貝殻をつくるのが良いか、思い切って貝殻をなくしてしまうのがよいか、こう考えたときに貝殻を脱ぎ捨てて生きる選択をしたのがウミウシ、そう説明されます。

しかし、だからといって一生を岩の隙間で生活するわけにもいきません。岩の隙間にはそれこそ同じような目的でいろいろな生きものが集まってくるので競争の連続でしょう。
餌も居住スペースも限られています。何より、岩の隙間に新たな捕食者が現れては対処のしようがありません。
貝殻なしで身を守る術をもてば岩の隙間から外へも出ていけるようになります。場合によっては岩の隙間に入る必要すらなくなってしまうかもしれません。

貝殻ではない身を守る戦術、皆さんはどのくらい思いつくでしょうか。
敵から見つからないようにする、まずい体になってそもそも狙われないようにする。
この2つの選択肢はウミウシ界ではどちらもメジャーな戦略で、前者は隠蔽的擬態(カモフラージュ)と呼ばれ、後者は食性の専門特化による毒成分の取り込みとして知られています。併用されている場合も多いのですが、後者のみ採用されている場合は警告色という派手な色模様を持ち合わせている種も多数見受けられます。色鮮やかな色彩のウミウシはこれに該当し、毒があることを周囲の生物にアピールしていると言われています。

ウミウシが食べるものはそのほとんどが固着生物です。固着生物は岩や岸壁、大型藻類の藻体上から船底まで、さまざまな場所に付着してくらす生きもので、カイメンやコケムシ、ホヤ、イソギンチャク、ヒドロ虫、サンゴ、海藻、フジツボなどを指します。動きの遅いウミウシは逃げる獲物を捕まえるのが得意ではないため、こうした固着生物を餌とします。

しかし固着生物の方も生き残るために戦略を持っています。一度固着したらその場から一切動けないという制約があるため、捕食者から逃れることができません。これに対応するため、多くの種は体内で毒成分を生成し、身を守ることができるようにしています。

ウミウシはそんな固着生物を食べるため、毒に負けない体と、その毒を利用する手法を獲得しました。
といっても、どんな固着生物でも食べられるような万能な体になるのは大変なコストがかかるので、ある程度種類を絞って食べる餌を決め、それに適応した体づくりをしていったのです。
また、全てのウミウシが同じ種類の固着生物を食べているとウミウシ同士でも競争が発生してしまうため、うまく食い分けを行っています。こうしてウミウシたちは種ごとに異なる固着生物を専門的に食べるようになったと考えられています。

生物の進化・適応をストーリー調で話すとお叱りをいただくこともあるのですが、わかりやすくするとこのような感じでしょうか。

さて、前置きが大変長くなりましたが、ウミウシのざっくりした生態をちゃんと書いていなかったので書かせていただきました。

今回は途中で出てきたキーワード、隠蔽的擬態について紹介してみましょう。

毒を獲得したウミウシたちでも、やはり毒に耐性のある捕食者が来てはたまりません。
なるべく見つからないようにするのが得策でしょう。

そこで役立つのが体を周囲の環境に似せて隠れてしまう隠蔽的擬態(カモフラージュ)です。
下の写真をご覧ください。

どこにウミウシがいるのかわかりますか?

正解はココ。

このウミウシはタマミルウミウシ Stiliger smaragdinus
クビレヅタやフサイワヅタなどの海藻に着生し、その細胞液を餌に暮らしています。

拡大するとその巧みさがわかりやすい・・・・いや、初めて見る方にとっては輪郭すらわかりにくいかもしれませんね。

ちょっとピンボケしていますが、単独で撮るとこのような形です。

背側の突起はイワヅタの丸い葉に非常によく似せており、巧妙に擬態します。
ウミウシ類の擬態の上手い下手は種によって相当差が出るのですが、タマミルウミウシはウミウシ界の中でもトップクラスの擬態の上手さと言えるでしょう。
イワヅタから離れて海底を這っていることはなかなかありませんので、存在を知っていないと見つけることも難しいウミウシと言えます。
一方で、クビレヅタの養殖をされている方からは海ブドウに似たウミウシがいる!という話も聞くことがあります。養殖業の方からするとこのウミウシはイワヅタを食べてしまうのであまりよい存在ではないかもしれませんね。

こちらはセンジュミノウミウシ Phyllodesmium briareum
餌であるムラサキハナヅタに着生し、擬態しながら暮らしています。ウミウシの周囲の茶褐色で細い触手がムラサキハナヅタのものですが、これと比べるとウミウシの背側突起は太く色も鮮やかで、私たち人間からするとこの擬態はあまり上手いとは言えないかもしれません。

これは少し離れて撮影したところですが、少なくとも7個体のセンジュミノウミウシがすぐに見つかります。
隠れているつもりだと思いますが、どうにも褒めてあげられないような・・・・。きっと小さいうちはうまく隠れられるのだと、そう信じることにしましょう。

こちらはレモンウミウシ Notodoris citrinus
レモン色の地に細かく入った暗色の細点はいかにもカイメン。全く同じ色のカイメンを餌にするため、カイメン上にいると非常に上手く隠れてしまいます。残念ながら私が撮影したこの個体はカイメン上にはいなかったのでカイメンとのツーショットは撮れませんでしたが、単体でも擬態の上手さが想像できるのではないでしょう

最後にこちら。スポンジウミウシ Atagema spongiosa
その名の通り、カイメンの英名スポンジにそっくりなウミウシ。
あまりにもそっくりすぎてどこを向いているのかもわかりにくいかもしれませんが、左側が前(触角側)、右側が後ろ(鰓側)です。
このウミウシはもちろんカイメン食ですが、餌カイメンに特化して擬態しているわけではありません。ザラカイメンのなかまの摂餌を確認していますが、ザラカイメンはこのような色彩ではありません。
時に岸壁に、時に転石の裏に生息し、パッと見でウミウシであることを認識させづらい、色模様と質感をもっています。どこにいても見つかりにくい、優れた擬態です。知らないとウミウシだとは思わないかもしれませんね。

このようにウミウシたちは巧みに、ときにお茶目に(?)周囲の環境に溶け込み、生活しています。
どんな環境でも、じっくり探してみるとまだまだ知られていないかくれんぼ名人が潜んでいるかもしれません。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。