
黒潮流域で見られるウミウシの1つサビウライロウミウシ。
もともとは和歌山県の串本町で初めて発見され、あたりの海域を指す『錆浦』を冠することになったようです。
鹿児島でも、ある海域では季節を問わず見られる種です。
オレンジ色の縁取り以外はホルスタイン柄のような絶妙な色彩ですが、海中だとやや深い場所のオーバーハングした岩裏などで見つかるために暗くてあまり目立たず、ライトを当てて初めてその美しさを確認できるようになります。
本種の飼育には他種とは違う繊細さが求められます。
というのも、これまで私は何度も輸送に失敗しているからです。
どういうわけか、他の近縁種に比べてとにかく弱い。
おそらく水質の悪化などに敏感で、少しでも条件が悪いとパッキングした袋の中で死んでしまうのです。
これが何に起因するものなのかわかっていませんが、自身で分泌する忌避物質や糞が水質悪化に影響しているのではないかと思っています。また、他種と一緒にパッキングするのも危険です。
そのため、扱うときはVIP待遇。
1個体ずつ梱包し、念入りに水を換え、何度も状態を確認し、水族館まで大切に護送します。
幸い、本種の餌は判明しており、岩の影になっているような場所に付着するピンク~紫色のトゲトゲしたカイメンを食べます。

サビウライロウミウシの餌となるカイメン。たくさん見られるくぼみは食痕ではなく、もともとカイメンが作り出す形状。中央個体のように埋もれながら貪る姿もよく見かける。

このカイメンがどこにあるのか私は覚えてしまっているので、いつもそこに探しに行きます。
しかしこのカイメンを採取し、餌として使うのにはなかなか難しい部分があります。
岩に薄く被覆していて、きれいに採取することが難しいのです。
タガネなどを用いて剥離しますが、被覆性のカイメンは必ず組織を傷つけてしまうので、カイメンそのものの手当てをした上で、初めて餌として利用できます。
しかしそれでも、採取できる量はあまり多くありません。ウミウシはどんどん食べていくため、いつかは餌不足になってしまいます。
このカイメンを育てて成長させようと試みたこともありましたが、どうやら成長が遅い様子。到底摂餌量に追いつくわけもなく、あえなく餌切れとなります。
これまでの飼育記録は約90日(更新中)。
すぐ行ける場所にこのカイメンがあればいいのですが、そういうわけでもなく。
どうにかこうにか調整しつつ餌を与え、次の採集まで頑張ってもらう必要があります。

食べられたカイメンは色が抜けてスカスカに。トゲトゲした骨格?だけが残ります。
これほど食べるのが早いと、このカイメンはすぐになくなってしまいそうですが、そういうわけでもありません。
もしかすると骨格だけになっても再生するのか?
飼育下では成長が遅いだけで海ではそれなりに早いのか?
まだまだカイメンの飼育はわからないことだらけです。