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Vol.43 ヤエヤマミドリガイの飼育

2021.2.24

ヤエヤマミドリガイは沖縄石垣島から得られた標本をもとに1936年に新種記載されました。

ヤエヤマミドリガイ

記載文からすると触角の色が違うような気もしていますが、現在広くヤエヤマミドリガイとして認識されているのがこの種と思われます。今のところ日本でしか見つかっていないという珍しい種。意外です。

ヤエヤマミドリガイが属するゴクラクミドリガイ属の種は緑藻を食べることが知られており、以前紹介したコノハミドリガイを始め、食藻が繁茂する時期になるとけっこうな密度で出現することもあります。

鹿児島ではとくにコノハミドリガイ、ツノクロミドリガイやヒラミルミドリガイ、トカラミドリガイ、アズキウミウシ、ハマタニミドリガイなどが1度に複数個体見つかりやすい種類です。

コノハミドリガイ集団

一方、お隣の属、アデヤカミドリガイ属の種はゴクラクミドリガイ属の種に外見上はよ~~~~く似ていますが、歯舌形態などに違いがあり、属レベルで分けられています。

スイートジェリーミドリガイ(アデヤカミドリガイ属)

こちらも藻類食だろうとは予想していますが、はっきりと餌を食べているところを確認できない(私は確認できたことがない)グループで、一度にたくさん見つかることもあまりありません。ハナミドリガイとかヨゾラミドリガイとかそれなりに多いですけどね。
私たちの目につくような比較的大型の藻類を食べるゴクラクミドリガイ属は海藻が見つけやすい分、ウミウシも見つけやすいのですが、アデヤカミドリガイ属の種はもしかすると微小な藻類を食べているためにあまり表に出てこないのかもしれません。。。
一方でまたまたお隣のチドリミドリガイ属のチドリミドリガイは微小藻類を摂餌するようですが、かなり表に出てきており、場所によっては何百匹と見つかることもあります。

チドリミドリガイ

これは盗葉緑体現象による光合成促進が理由と思われ、日の光に当たるために目に付きやすい場所にいるのだろうと思われます。
ということはアデヤカミドリガイ属はあまり光合成に頼っていないのでしょうか。

話がずれましたが、そんなアデヤカミドリガイ属的に単発でしか見つからないヤエヤマミドリガイ。
鹿児島でもあまり発見できませんが、一昨年はけっこう当たり年で、ある期間中に数個体入手することができました。

その際、1個体がある海藻上におり、それを摂餌している可能性が浮上しました。

藻類に詳しいスタッフに聞いてみるとこれはマユハキモという緑藻。

マユハキモは暖かい海の岩場などに生息する海藻で、鹿児島では南薩海域や南西諸島海域に多い種類です。

季節性が強い海藻類の中では比較的長期間海で見かける種類だとは思っていました。
試しに採集して水槽で飼育してみると、意外と長持ちします。

これはいけると思い、ヤエヤマミドリガイの飼育を開始しました。
毎月の調査の際に必要な分のマユハキモを採集し、餌としてキープ。
食べ終えたらマユハキモの色が抜けてスカスカになり、ヤエヤマミドリガイがマユハキモから離れますので、そのタイミングで餌を新しいものに交換します。

こうして飼育を続けることができました。
嚢舌類のウミウシは比較的短命なイメージがあったため、あまり長く持たないと思っておりましたが、そんな心配をよそにぐんぐん成長します。
これは長期飼育が見込めるかも?と期待していましたが、コロナの流行により調査がストップし、餌が補充できなくなってしまいました。
これは・・・・まずい。
餌が切れたヤエヤマミドリガイは、体内の葉緑体がなくなっていき、日に日に色が変わっていき、黄色っぽくなっていきました。

次の業務採集まではあと1~2か月、間があります。

飼育していた3個体は1匹、また1匹と力尽き、最後の1匹になってしまいました。
もう駄目だろうと思っていましたが、なんとそのまま次の採集まで耐え抜き、無事に餌を与えることができました。盗葉緑体素晴らしい。
その後は色が元に戻り、再び成長を始めました。

そして現在。すでに飼育期間は430日を超えました。
嚢舌類で1年を超える飼育に成功したのは本種が初めてです。

調査はまだ再開できておらず、次の餌の切れ目が心配ではありますが、数少ない業務採集の時にマユハキモを多めに採集し、水槽で維持することでなんとか短期的な安定給餌ができています。

現在も飼育期間は更新中です。
ヤエヤマミドリガイのさらなる頑張りに期待し、早く調査が再開できるように祈るばかりです。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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