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Vol.73 ヨコエビの殖やし方

2023.8.27

以前、メリベウミウシ(以下、メリベ)の飼育について紹介しました(vol.34)。
メリベは頭巾と呼ばれる捕食器官を大きく広げて投網のように小型甲殻類を捕らえて食べるウミウシです。風変わりな姿とこの行動が大変ユニークで面白いため常時展示したいのですが、鹿児島では安定して入手できる場所がなかなか見つからず、年による出現差が大きいのがネックです。

ムカデメリベと思われる個体

小型甲殻類を狙って頭巾を伸ばす

私はメリベ類を飼育する際、餌としてイサザアミを使用することが多いのですが、これはタツノオトシゴ類や小型魚の餌付け用として、館で活イサザアミを定期購入しているという点と、大きさや殻の軟らかさがちょうどよく、メリベのやわらかい表皮を突き破ってしまうような鋭い棘などがないためです。(メリベは頭巾に入ったいろいろな甲殻類を口にしてしまいますが、強い棘をもつ甲殻類はメリベの体を貫通してしまうことがあります。飼育上は注意しなければなりません。)

このイサザアミ、高水温に弱く、夏季は歩留まりが悪いためあまり固執しすぎると餌が不足しメリベの飼育が厳しくなります。そして、実はものすごく高価です(!!)。動物性の餌だと単位重量当たりの価格はトップクラスに位置すると思われます。
さらに、メリベは活餌を好みますので、乾燥品や冷凍品は反応がよくなく、私は使っていません。

野生のメリベは、静穏な海域の転石帯などに生息し、夜間岩陰から這い出てきてヨコエビなどの小型甲殻類を食べていると思われます。場所によってはタイドプールやアマモ場などでも見られます。
アミ類は浮遊・遊泳していることも多いため、やや海底から離れており、メリベが安定して捕獲できるかと言われると、出来ないことはないと思いますが、どちらかと言えばヨコエビの方がとらえやすいように思えます。

ということで、イサザアミに頼るのではなく、ヨコエビで飼育してみようと、あちこちの水槽で沸くヨコエビ類をかき集めて与えていたこともありましたが、とにかく集めるのが大変なのと、十分量が給餌できなかったためかメリベがあまりよく育たなかった、という経験があります。
では十分なヨコエビが供給できた場合はどうなのか、ちゃんと検証する必要があります。

そこでまずヨコエビの入手方法を考えます。
流れ藻などが多い時期には、バケツの中で海水と藻を一緒にかき混ぜると少しは集まるのですが、時期が限定されてしまい、長期飼育には向きません。(そして選別が面倒)

何かいい方法がないだろうか。勝手に殖えて湧いている水槽があるくらいだから、条件さえ整えれば勝手に殖えてくれないだろうか。
しかしヨコエビをわざわざ飼育したことがなく、ヨコエビの適切な飼い方・繁殖条件がよくわかりません。まぁ雑食性だろう、などと思っておりました。

ここで話は変わります。
アメフラシ類の餌として、海で採ってきたアナアオサを与えています。アメフラシ類は大食漢で、毎日与え続けないといけないほどよく食べます。そこで、アナアオサが海に大量に沸いている時にたくさん採ってきて、一部は冷凍し、ほかは屋外の水槽で維持・管理することにしました。太陽光で粗放的に管理していても大丈夫だろうと思ったためです。実際問題なく、どんどん生長していったのですが、3か月ほどたったころ、アナアオサの量が減ってきていることに気づきました。
季節消長によるものかとも思いましたが、実はこのときの季節は冬。アナアオサは冬に繁茂します。水温は錦江湾内とほぼ同じ。飼育方法が良くなかったかとも思いますが、だったら一度生長しているのも納得がいきません。もしかするとある程度生長したことで2次的に弊害が発生してしまったのでしょうか。

おかしいなと思ってアナアオサを手に取って見ると、藻体がところどころ破れ、かなり崩れています。

そして手に伝わるくすぐったい感触。
アナアオサを取り除くと、そこにいたのはヨコエビです。

それも1匹や2匹ではありません。
やけに多いなと思って、ほかのアナアオサをよーく見てみると、いるわいるわヨコエビの数々。
ここではヨコエビたちが水槽内でアナアオサを食べながら爆発的に増殖し、ヨコエビ天国が建国されていたのでした。

試しに軽くひと握り分のアナアオサにどれくらいヨコエビがついているか見てみると・・・

右のタッパーの量のアナアオサから出てきたヨコエビが左のタッパーのもの。
100匹くらいいるかもしれません。
これ取るだけで大仕事・・・・と思うかもしれませんが、水道水につけただけです。
ヨコエビは水道水に極端に弱い。

大きなヨコエビから明らかに繁殖して殖えたであろう小型個体まで。バラエティに富む大きさのヨコエビたちが信じられない量、そこにいました。これ水槽全体だといっぱいどのくらいいるんだろうか。。。(60㎝水槽にいっぱいにアナアオサが入っていました)
よくよくみるとけっこうゾッとしますねこれ。甲殻類とはいえこれだけいるとあまり気持ちの良いものではないですねえ。
・・・美味しいのかな、ヨコエビ。魚の餌に乾燥品が売ってるくらいだから不味くはないだろうと思いますが。

というわけで、ヨコエビを殖やすにはアナアオサを採ってきてかけ流しで放置、かつアナアオサが減ったら追加する。これでかなりの量が稼げることがわかりました。
なんでも繊細にやるよりもある程度粗放的にやった方が成功するというのは飼育員あるあるかもしれません。

何種類か混ざっている模様。うーん種まではぜんぜんわかりません。

これにてヨコエビの供給にめどがついてきました。
こういう準備が万全な時に限ってなかなかメリベが手に入りません。
次回メリベが入手できたときに、ヨコエビ給餌区とイサザアミ給餌区で比較試験を行ってみたいと思います!

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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