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Vol.39 無腸動物をえさに

2020.10.17

無腸動物という超がつきそうなほどマイナーな生き物がいます。
ひらべったい体をした体長数㎜の小さな生き物で、その姿から以前はヒラムシの仲間に分類されていたとか。しかし近年は独立したグループを形成しヒラムシとは区別されているそうです。その名の通り腸をもたず、別に消化機能を持つ組織があることで食事が成り立つようですね。

いくつか種類が知られているそうですが、多くはサンゴに付着する種類で、水槽内で繁殖してサンゴを覆ってしまうためアクアリストたちに忌み嫌われる”ヒラムシ”として知られています。

かごしま水族館でもサンゴの水槽で度々発生することがあります。

クサビライシ(サンゴ)に付着する無腸動物。白い縁取りのある茶色い斑紋みたいなものがそれです。

この無腸動物は当然のことながら海でも見つけることができます。
サンゴ観察が好きな方はとくに見つけやすいでしょう。
例えば錦江湾にはこのように、トゲキクメイシ属の一種におびただしい数の無腸動物が付着していることがあります。

この茶色いのが全部そう。
あまり動く動物ではありませんが、じっと観察しているとゆーーーーーーっくり動いています。また、手で水を仰ぐと簡単に飛ばされていきます。

さて、そんな無腸動物をえさにするウミウシがいます。
つまり無腸動物を探せばウミウシが見つかる!といつものパターンで言いたいところですが、そんなことはありません。
今までとは違って餌の方がウミウシよりも小さいため、無腸動物を探しているとウミウシが見つかる、というよりは『そのウミウシを見つけた近くに無腸動物を見つける』ことの方が多いような気がします。

しかし、無腸動物自体はサンゴの近くにいることが多いので、ウミウシを見つけなくても探そうと思えば探せます。無腸動物を餌にするウミウシを飼育するには無腸動物を予め採集して飼育できていることが重要になります。

ではこれまでに見つけた無腸動物を少し紹介。

赤褐色の地色に白い斑点が散る種類。後ろの方(写真左側)にはちょぴっとしっぽのような部分がある。サンゴ表面というよりは、サンゴ群体の下の海底にいる印象です。こちらは水槽内で繁殖に成功したため餌として十分量確保できました。
う~ん名前が知りたい。

こちらは一度だけしか見つけておりませんが、キクメイシ上についている無腸動物。体は半透明ですが、正中線上に白い線が1本あるのでわかりやすいですね。

そして最もよく見るのがこちら。

先ほどのトゲキクメイシに付着する種類と同じなのかどうなのか。体は一様に茶色で、体の縁にくびれが一か所。宿主特異性があるようなら両種は別種なのかもしれませんが、そうでなければかなりいろいろなサンゴに付着する種類なのかもしれません。

そしてそんな無腸動物を食べるウミウシがツバメガイ類。

オハグロツバメガイ

コナユキツバメガイ

ニシキツバメガイ

彼らは無腸動物を専食することを確認しています。
とくにコナユキツバメガイとニシキツバメガイ、オハグロツバメガイは同所的に混生していることがあります。ニシキツバメガイとオハグロツバメガイは褐色時に白色点のある無腸動物を、コナユキツバメガイは冒頭のクサビライシにつく無腸動物を食べます。
ほかのツバメガイ類については発見数が少なく、摂餌の様子は確認できていません。

どのように摂餌するのか観察するために、コナユキツバメガイを無腸動物付きクサビライシにのせてみます。

すると、コナユキツバメガイの体に触れるや否や、これまでじっと動かなかった無腸動物たちがサー――っと逃げていくではありませんか。
コナユキツバメガイは頭部前縁に生えた毛のような感覚器官で獲物を探します。獲物を探知すると、ちゅるっと吸い取るように一瞬で食べていくのですが、よ~~~~く見ていると、口から白い小さな手のようなものが出てきて、それで器用につかみ取って口内へ運んでいるようです。
とにかく早くて写真を撮りにくいわけですが、その『手』(おそらく吻)を伸ばしている様子がこちら。(矢印部分)

無腸動物を丸ごとつかみ取ることもあれば、体の一部をはぎ取るようにして食べることも。

じっと見ているとそれはもうコナユキツバメガイという着ぐるみを着た何者かが中に潜んでいるのかというような、そんな印象を抱かせます。
ツバメガイ怖い。。。。。

きっと無腸動物たちもそう思っているに違いありません。

そんなツバメガイたちの飼育管理は意外と難しく、餌が十分にある水槽で飼育していても、満足に食べてくれなかったりします。食べていても長続きしません。これはいったい・・・?まだまだいろいろな検証が必要そうです。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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