このブログのvol.33にて紹介したセンジュミノウミウシですが、うまくいったら第2報を・・・・なんて書いて終わっていました。
で、うまくいったので今回は第2報です。
と言いましても、実際にはあれから数カ月後にはうまくいっておりまして、ここ1年は初繁殖認定の審査待ちでしたので、悶々と黙っておりました(とある筋では少し公表しましたが)。
ええと、vol.33ではセンジュミノウミウシが海で大発生することに触れ、このような現象はセンジュミノウミウシの発生様式が卵栄養型だからなんじゃないの~?というところで終わっていました。
こんな風に場所によってはごちゃごちゃいることがあるんですねえ。
飼育下で繁殖させれば大発生の謎が解けるはず!ということで、あれこれ準備して実践です。
まず餌となるムラサキハナヅタをセンジュミノウミウシがいないところから採集し、しばらく水槽で飼育してセンジュミノウミウシが湧いてきたり、幼体がついていないことを確認します。
換水をしながら2週間くらい様子を見ます。原生動物などにやられていなければ孵化が始まり、卵塊は半透明になって幼生が出ていったことがわかります。
孵化幼生です。足の発達が顕著ですね。ぼやけていますが面盤(遊泳器官)もあるので予想通り卵栄養型発生だと思われます。
孵化した幼生は循環している水槽に入れているとそのまま流れていってしまいますので、止水の容器などで孵化させるのが良いでしょう。
ムカデミノウミウシほどではありませんが、孵化後の幼生は自由に泳ぎ回っているうちに表面張力によって水面にトラップされてしまいます。このままだと身動きが取れず死んでしまいますので、スポイトなどで吸って着底基質となるムラサキハナヅタへやさしくふきかけてあげます。このときの「やさしさ」は、わずか200μmの幼生がムラサキハナヅタにしがみつける強さに留めます。強すぎるとムラサキハナヅタにべしべし投げつけているようなものですので、あくまでふわっと。しかしあまりもたもたしていると今度はスポイト内部に幼生が張り付いてしまいますので、どちらにも気を遣いましょう。
まぁたくさんいるのでどれかはうまくいくはずです。
ここからの幼生飼育はムラサキハナヅタを与えた状態ですので止水はお勧めしません。
ある程度着底したらすぐに止水環境から移動しましょう。
ムラサキハナヅタはある程度の水流を好みますが、あまり強いと幼生が吹き飛んでしまうかもしれませんので、少し水の動きがある程度の水槽で飼育します。
幼生はムラサキハナヅタ上で貝殻を脱いで変態し、大きくなっていきます。
左は着底直後の幼生。右は脱いだ貝殻。周りに見える紫色の棒はムラサキハナヅタの骨片ですね。こうやってみるとなかなか神秘的。
小さな背側突起が日に日に長くなったり数を増やしたりしていくのを観察するのはなかなか面白いものです。
まだ突起は2対。わずかに見える目が点なのがかわいらしいものです。
突起が3対の頃。左に見えているピントの合っていない丸いのがムラサキハナヅタの縮んだポリプ(直径2㎜くらい?)ですから、大きさがわかりますかね。口触手も伸びてきています。
この頃になると肉眼でも視認できるようになってきます。用意したムラサキハナヅタからはたくさんの千手突起が見え隠れします。頭隠して何とやら。。たくさんの個体が変態に成功したのがわかりますね。
どんどん大きくなって。ムラサキハナヅタが食べ尽くされてきて骨片が散らかっていますね。飼育サイドとしてはこの頃の水質悪化には注意が必要です。ムラサキハナヅタが傷んでくるので白く膜をかぶるような腐敗を始めたら(というか始める前に)新しいものと交換した方が良いでしょう。もちろん幼体ごと移さないといけません。
幼体をスポイトで吸って移動すると突起が取れやすいため注意が必要です。
新しいムラサキハナヅタを追加して、古いムラサキハナヅタは比較的水流の当たるところに移しましょう。もう食べるところがなくなってしまえば幼体たちが新しいムラサキハナヅタを求めて移動を始めるはずです。完全に移動が完了したことを確認して古いムラサキハナヅタを取り出しましょう。
触角と口触手もしっかりしてきました。背側突起は褐虫藻を貯めこんで色がついてきましたね。もう体の長さと突起の長さが同じくらいあります。
もう親と遜色ありません。
たくさんの次世代たち。
このようにして当初の目論見通り、飼育下繁殖はうまく行きました。
大発生の要因は発生様式が卵栄養型で、孵化から間もなく着底・変態ができるという点にあります。また、生活史の1サイクルが3~4か月で終わってしまう(少なくとも飼育下ではこれくらい)こと、餌となるムラサキハナヅタが食べ尽くされることなく通年生育していることなどから、個体ごとの産卵時期のずれが少しずつ影響し、年中たくさんのセンジュミノウミウシが見つかるということになるのではないかと想像しています。
例えば産卵時期が1か月異なるA卵とB卵の個体群が孵化・着底後に数か月間同居しているような状態になる。これがたくさん重なっている状態が自然なのではないかと。
飼育下でももうずっと繁殖を繰り返して飼育展示を続けており、いつのまにか2年が経ちました。つまりうまく繁殖させれば通年飼育が可能なのです。
さて、この件で日本動物園水族館協会からは初繁殖認定をいただきました。前年のムカデミノウミウシに続いてやっと・・・・2つ目です。
なかなかうまくいかないものです。
ウミウシ類の繁殖手法の確立を目指すうみうし研究所としては初繁殖認定は喜ばしいことなのですが・・・・・・この成功した2種は見た目があまり一般ウケ(メディアウケ)しないのがたまに傷ですね。今年はまた別の地味な種を申請しようかとしています。紹介はきっと一年後。お楽しみに?