ウミウシのほとんどは底生生活を送ります。
一部に遊泳できるもの、流れ藻にのって移動するもの、浮いて漂流するもの、船底に付着した餌生物について移動するものなどがありますが、基本は底生性で、自分の腹足で移動する必要があります。
したがって、ウミウシの餌生物は底生生物になると考えるのが自然でしょう。
ヘビガイのような固着性貝類の中には粘液の網を仕掛けてプランクトンを“狩る”例もありますが、こういったものはフィルターフィーダーの例です。
今のところ底生性のウミウシでフィルターフィーダーはいないと思います。
では、ウミウシが自分よりも大きなネクトンやプランクトンを襲うことはないのか。
1つ有名なのはスミゾメキヌハダウミウシという小さくて黒いウミウシ。これはハゼのヒレを食べるという大変な強者。
残念ながら私はまだ未発見で紹介できる写真もありません。。
ダテハゼ類などじっとしているハゼの体に這い上がってヒレを食べてしまう。魚は基本ネクトンですがダテハゼ類は底生生活者なのでネクトベントスという言い方が良いかもしれません。それでも素早く逃げ回るハゼを餌にしているのは驚くべきことですね。
もう1つ、たまに見かける気になる例があります。
大変美しく繊細なアカエラミノウミウシ。

古くはセイロンミノウミウシとされていることもあります。色彩に変異があるので同種なのか否か気になるところですね。
鹿児島では本土沿岸でのみ確認しており、南西諸島では見かけたことはありません。
このウミウシ、ふだんあまり食事中のところに出くわさないのですが、過去に何度か見たことがあるのが、オワンクラゲの摂餌です。
オワンクラゲとはノーベル賞で有名なかの光るクラゲですが、まれに鹿児島県沿岸でも確認されます。冬の終わりごろが多いように思います。
ふだん浮遊しているこのクラゲですが、力尽きると海底に沈んでしまいます。
そこに待ったましたと言うのかどうなのか、アカエラミノウミウシが群がるのです。


この写真では本当は2匹ついていたのですが、写真を撮ろうと動かしたら落ちてしまいました。私には食べているように思われるのですが、クラゲが透明なのでよくわかりません。
クラゲが落ちてくるというのはかなり偶発的なものですので、アカエラミノウミウシがオワンクラゲだけを目当てにしているとは思えません。実際、アカエラミノウミウシの餌はいくつかのヒドロ虫が報告されています。
しかし、浮遊性の生きものも弱って沈めば底生性の生きものの餌食にされるというのは自然の摂理であり、深海の底生生物はこのように上から降ってくるえさを目当てにしていると説明されることもあるくらいです。
納得しやすい仮定としては、アカエラミノウミウシが本来オワンクラゲのポリプを食べている可能性です。ポリプを食べなれているウミウシならそのポリプが成長してできたクラゲも餌にすることはあまり不自然ではありません。
ポリプを探すこと自体がかなり難しいので立証はなかなかできませんが、クラゲを繁殖させている各地の水族館ならいろいろと試すことができるかもしれませんね。
当館ではオワンクラゲはほとんど扱っていませんが、せっかくなのでこの食事途中のアカエラミノウミウシとオワンクラゲを持って帰って経過を観察してみました。
水槽内に入れるとやはりアカエラミノウミウシは半数ほどがクラゲに付着しています。
しかし食べているのか否かがいまいち確認できません。
観察を続けると5日目頃にオワンクラゲが溶けてなくなってしまいました。
不自然なくらい跡形もなく無くなってしまい、少し不思議に思いましたが、餌がなくなったからかアカエラミノウミウシもその2,3日後にパタリと死んでしまいました。
結局食べているのかどうかはわからず仕舞いでしたが、アカエラミノウミウシがオワンクラゲになんらかの興味があるのは間違いないようです。

ちなみに。そんなアカエラミノウミウシ(5個体同居)が産卵した2つの卵塊。形が違います。。。
左の方は産み始めの中心部分だけが右の卵塊に似ていますが、始めだけ。
やはり隠蔽種がいるのか、はたまた産卵方法がいくつかあるのか。謎は深まるばかり。
アカエラミノウミウシ自体あまり見つからないので確認が難しいですね。
次回見かけたら卵塊も含めてじっくり観察してみようと思います。

この2タイプ、違うと言われれば違うような気がしてきますね。