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Vol.46キヌハダモドキの飼育

2021.5.29

以前少し紹介したことのあるキヌハダモドキ。
言わずと知れたウミウシ界のカマキリ的な同種食いをしてしまうウミウシです。

キヌハダモドキ

キヌハダウミウシ類の飼育はとにかくウミウシ類を餌とすることから、長期飼育には餌となるウミウシを延々と入手し続けなければなりません。
たとえばキヌハダウミウシを飼育する場合はクロシタナシウミウシ属の種を入手するわけですが、鹿児島ではクロシタナシウミウシは季節性があり、時期が違うと全く発見できなくなることもままあります。

キヌハダウミウシ

ホンクロシタナシウミウシもいるにはいますが、たくさん見つかる場所はあまり高頻度で行ける場所ではありません。そしておそらく夜行性です。

したがって、キヌハダウミウシが飼育できるのはクロシタナシウミウシが多数入手できる秋から冬頃がメインとなってしまいます。ところがキヌハダウミウシの出現がクロシタナシウミウシより1~3か月ほど遅れるため、キヌハダウミウシが豊富な時期にはすでに食べ尽くされてクロシタナシウミウシがいないという事態。

クロシタナシウミウシを食べるキヌハダウミウシ

普通種ゆえの困りごとでしょうか。

どうにかしてキヌハダウミウシ属の種の長期飼育を目指したいところですが、候補となる種は、一年中餌となるウミウシが入手できる種。
鹿児島の場合はコノハミドリガイ、アオウミウシ、ミヤコウミウシなどは増減があるものの比較的安定して供給できるため、それらを餌とするものが良さそうです。とくにゴクラクミドリガイ類を食べるキンセンウミウシやオキナワキヌハダウミウシが良い候補となるかなと思います。

オキナワキヌハダウミウシ

しかしこの2種自体があまり多くなく、偶然入手できたキンセンウミウシで試していたところ、餌があっても少しずつ死んでいってしまいます。キンセンウミウシ自体あまり長生きではない可能性もあります。

キンセンウミウシ

そうこうしている中で、最も長期の飼育ができたキヌハダウミウシ類が、意外にもキヌハダモドキです。
キヌハダモドキは水族館前のイルカ水路に近年安定して出現しており、ふた月に1個体程度入手できます。
同種を食べてしまうので1個体だけで飼育しますが、餌は冬~春先に入手できるキヌハダウミウシ。しかしこれだけではキヌハダウミウシが入手できる時期しか乗り切れません。

キヌハダウミウシを食べるキヌハダモドキ

キヌハダモドキの良いところは、キヌハダウミウシ類だけではなく、その卵塊も食べる、というところです。たとえばキヌハダウミウシに餌となるクロシタナシウミウシ類をあげて、できるだけ長く飼育しながらキヌハダウミウシが産んだ卵塊をキヌハダモドキに与える。
キヌハダウミウシがいない時期には、キヌハダモドキを含む他のキヌハダウミウシ類が入手出来て産卵した際にその卵塊を与える。
文章で書くとややこしいですが、そのようなことを繰り返していると、かなり長く飼育できることがわかりました。

オオエラキヌハダウミウシの卵塊を食べるキヌハダモドキ

というのも、キヌハダモドキ自体がかなり絶食に強いようなのです。一度全くエサが入手できなかったときも、2か月くらい食べなくても生き抜いてくれました。
現在の最長飼育期間は377日(更新中)。いつのまにか1年を超えています。

これからの時期はクロシタナシウミウシとキヌハダウミウシが入手しにくくなってきます。長期飼育中に新たに入手したキヌハダモドキが数個体いますが、若い芽を摘んでしまうようでなんだか躊躇ってしまいます。

同種であるキヌハダモドキを食べるキヌハダモドキ

結局はキヌハダウミウシ類のいずれかを繁殖させることができるようになればこの問題も解決できるということになりますが、繁殖させたキヌハダウミウシ類を育てるためのウミウシも繁殖させなくては安定供給ができない。。。。。。。。ということに。

せめてキンセンウミウシかオキナワキヌハダウミウシあたりを繁殖させることができれば、キヌハダモドキの更なる長期飼育も見込めるかもしれません。

・・・・・んんんんん?
いや、すでに繁殖に成功したムカデミノウミウシを食べるキヌハダウミウシ類を突き止めて、それを繁殖させれば・・・・・
アカボシウミウシがミノウミウシ類を食べるはずですが、ムカデミノウミウシを食べるかどうかは確認していません。そもそもアカボシウミウシ自体がなかなかお目にかかれませんが、ちょっと気になりますね。
こうして連鎖的に飼育が可能になっていくと計画が立てやすくていいですね。

当面の目標はプランクトン栄養型発生種の繁殖手法の検討ということで、今年一年は取り組んでいきたいと思います。

ちなみにこのキヌハダモドキ、よく似た不明種(隠蔽種)がものすごくたくさんいる気がします。
上の写真のキヌハダウミウシを食べている種は本当にキヌハダモドキか?えらが大きすぎやしないか。このようにぱっと見キヌハダモドキだけどなんとなくキヌハダモドキとは違うと思われる不明種がたくさんいるのです。
キヌハダウミウシ類はまだまだ謎だらけです。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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