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Vol.69 春の味覚アメフラシを食べる

2023.4.18

これまでずっと避けてきたこの話題。
かわいそうとかじゃないんですよ。気持ちが悪くて食欲がわかないんです。

みなさんもきっとそう。

しかしですね、日本にはアメフラシを食べる分化があるのです。
島根県や千葉県では今もその文化が残っているとか。
海外にもフィリピンでタツナミガイのココナッツミルク煮があるとか聞いたことがありますし、あんなに簡単に捕まえられる食材ですからどうにかこうにか食材として利用しようとするのは不思議ではありません。

まぁこういう事実を知った上でもそれを実行するか否かはなかなか勇気がいるものです。
とはいえ、以前の記事でハナデンシャとかコノハミドリガイを口にしてみた話も書きましたので、やれないことはない(むしろなぜそっちができるのか)。
意を決して今年の目標の一つとしてひっそりと掲げていました。

さて、で、アメフラシのサイズが大型化してくる4月。
手に入りました。

およそ25㎝の個体。
こんなでかいの無理~~~と思うかもしれませんが、調理過程で縮むらしいですからね。でかくないと可食部がなくなってしまいます。

う~んまな板に乗せる食材とは思えないグロテスクさ。

その前に。
まずは半日海水中で排泄をさせます。

内臓は全てとるので実際のところ関係ないのですが、でも万が一内臓を傷つけて糞がどろどろ出てくると嫌ですから。
アメフラシは大食漢の生き物で、常に食べて常に排泄する、くらい糞の多い生き物です。
どんどん排泄してくれます。

続いて、これも気持ちの問題ですが、少し揉んで余計な毒素である紫汁を分泌させます。
あっという間に紫色の海水に。

よ~く海水で流します。

ということで下処理の前の下処理でした。
次に内臓を取ります。*ここからグロいかもしれません。苦手な方はこの辺でおやめください。興味本位で読む方は自己責任でお願いします。

食用文化のある地域の方々は磯のタイドプールなどで内臓を取ってよ~洗ってから家に持ち帰るらしいです。そりゃそうですよあの紫色、まな板とかシンクにつけたくないですもん。

ということは、素手で内臓とれるのか?

やってみました。

アメフラシの背中には左右にヒダがあります。これは側足。腹足が左右に伸びて内臓塊を守っています。側足で守られたふくらみが内臓のある所ですが、アメフラシの場合まずここにうす~~~い貝がらがあります。

中指が貝殻を持ちあげています。この部分に貝殻が入ってます。
取り出してみるとこんな形。

あ、少し千切れた。透明です。スルメイカとかの軟甲みたいな感じです。
続いてもじゃもじゃしたクリーム色のものが見えます。

これは鰓。
アメフラシは酸欠に弱い生き物ですし、過酷な環境である潮間帯にもたくさんいますのでこの鰓の働きは大切です。
貝殻と鰓まではなんとか引っ張って取り出すことができましたが、その奥が素手ではなかなか難しい。アメフラシのにゅるっとした体で手が滑ってうまく引っこ抜くことができません。

ということで大人しく包丁で切れ目を入れ・・・・見えてきた袋を丸ごと取り出します。

消化管は口へと続いていますので、頭部を内側に引っ込めながら口の先で千切りましょう。
このとき頭部付近にある球状の筋肉塊がついてきますが、これが口球といって、歯舌とか餌を食むための筋肉がセットになっている器官です。

ちなみに別個体で歯舌を取り出す様子がこちら。これは固定標本です。

左写真が口球を半分にカットしたところ。中央にある割れた円のような形をしているのが歯舌。右写真が取り出したもの。
これを台所用ハイターなどで余計な部分を溶かす処理をし、顕微鏡で見ると種ごとに異なる歯舌の並びが観察できるというわけです。

さて、この内臓、どの部分が何なんだというのが気になりますね。
はい、気になります。
アメフラシの餌の摂取と消化器官への流れはこうです。
口→口球→食道→嗉嚢→砂嚢→胃→腸→肛門
砂嚢の中を開けるとおもしろいものが入っています。

この飴色の多面体はキチン質の咀嚼歯で、嗉嚢に入ってきた餌海藻がこの歯が擦り合わされる中で細かく千切れていく、ということです。なんと消化酵素も出て来るらしい。
歯舌にはほとんど噛む機能は無く、どちらかと言うと口内へ引き込むための突っかかり、みたいなイメージでしょうか。砂嚢の中で細かく千切れて胃で消化されるということです。
胃の前にはトゲトゲした突起がついていて、ここでも細かくされるようです。

ええと、全体を図示するとこんな感じ。

肝臓は中腸線とも言いますね。

なんとなくの対応がわかるかなと。
左下の黄色い球は生殖腺にあたるようです。

この時点で内臓を失った体は半分くらいに・・・。
ほとんど内臓だったのかと言わんばかりの割合です。。。
体腔や体表をよ~く洗って、鍋で茹でます。
調べてみるとけっこうレシピはネット上に上がっていたので、それを参照しつつ・・・。
普通に水から茹でているのですが何となく気持ち的に塩を入れます。途中酒とか入れてみます。

一度吹きこぼれそうになったので火を弱め・・・・合計10分くらい茹でたでしょうか。
落ち着いてきたので火をとめます。
お?なんだか少し磯の香りがします!やっぱり海産物なのね~と少し安心。
しかーし汁が・・・・紫がかってるぅ~~~~無理ぃ~~~~

そしてでろんとしていたアメフラシも、茹でて水分がなくなるとしゃきっとした姿に・・・

「シャキッ」
む、無理ぃ~~~~~~~~~

このままだと硬いらしいので、茹で汁ごと一晩おくそうです。え?ゆで汁ごと?
この紫がかった汁ごと????
うええええええ。
仕方ない、やるか。。

1晩経過。
もはや今日これを食べなければならないのかと思うと億劫でしかたありません。笑
なんとなくよ~く洗って体表の黒味を取りたくなりますが、ほとんど取れません。たわしがいりそうです。
なんだか一晩経ってよりしゃきっとしたアメフラシ君。

このまま標本にできそう。
いや、なんかタッチイベントとかこれでいいんじゃね?的な立派さを感じます。
このサイズのアメフラシいるし。これなら汁出さないし。冷凍と解凍にも強そうだし。
冗談抜きでプラスティネーションより出来良いよこれ。
うん、これは検討の余地がありそう。。。などと現実逃避しつつ。
25㎝のアメフラシが、処理すると10㎝弱程度に。。。
とりあえず切ります。
弾力がある食材らしいのでなるべく薄く切ります。

いや、もうね。
切り方がまずいですよ。
ちくわか!
いや、ちくわに見えるならまだいい。
これもう体腔が位置するところが嫌でも意識されちゃって食欲をそそらない。
でもこれ以外にどう切れって言うんだ!

1品だけでは味付け云々でよくわからないかもしれないので2品分作ってみます。
といっても簡単にできるもので。

左:煮つけ
右:バターソテー
いや、あの・・・・すみません安直で。ネギでなんとかごまかしてる感じ自分の料理スキルが学生時代となんら変わってないことに笑います。
天ぷらとかしてみた方が良かったかしら・・・。いや、面倒なんで・・・。

さて、実食。

まぁ貝ですからね、基本高級食材ですからね。
口に入れた時の風味は・・・・・煮つけの味。しょうゆとみりんと・・・・
肉自体には味が感じられません。
そして延々と続く噛み切れないほどの弾力。
やっすいタコか・・・・
いや、表皮を噛むときの音がなぜかシャキシャキ聞こえるあたり不快です。

う~んタコ・・・・いや、旨味のないホルモン?
噛み切るのが大変。顎痛くなりそう。。。
でも普通に食べることはできます。味が不味いものではありません。
問題は食感ですね。

次、バターソテー。
アサリでもツキヒガイでも夜光貝でもバターソテーは美味しいのですよ!このチョイス我ながら良い思い付きをしたもんだと思いつつ・・・

うん、バターソテーの味・・・・・そして噛み切れない・・・・さっきとおんなじ。
キノコと一緒に食べてもキノコが先に飲み込まれていく。
アメフラシは噛み切れなくて口にのこっていく。

はい、どんな味付けでもおんなじ。噛み切れない食感が好きな人っているのかな~。
う~~~んと、調べてみると、一度冷凍して解凍してから調理すると柔らかくなると。
なるほど。一理ありますね。
あとは~~圧力鍋とか使えば柔らかくなりそうですね。
ホルモン柔らかくするみたいな感じでイメージすると良いのではないでしょうか。

というわけで、実食終わり。
アメフラシに味は無い。とにかく弾力を克服しないと食べにくい。と言うことがわかりました。
もう少し工夫して食べればよいかと思います。
私は無人島に漂着でもしない限りはもう食べませんね。

少しがっかりではありますが、ウミウシ(広義)にも食べられるものがいますよ~~ということで実証実験でした。
もちろんお腹壊したりはしていませんが、アメフラシはアオサやソゾなどの海藻食者です。海藻に付着する藻類の中には有毒なものがいることがあります。召し上がる際には自己責任でお願いします。
なお、ウミウシ類は基本的に毒を持っており食用になりません。フグ毒をもつ種もいますのでむやみに食べないようにしてください。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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