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Vol.91 南の島の嚢舌類調査

2025.2.26

いろいろと縁あってはるか彼方の南の島へ嚢舌類の調査に行ってきました。
真冬なのに気温は15~20度と温かく、水温も22度前後。
日中は汗をかくほどの陽気でしたが、離島なだけあって時化の影響、風の影響はどこそこに。。。
発送した荷物が思い通りに到着せず大変でした。

今回の対象は1センチにも満たない小さなものばかり。
苦戦しつつもいろいろな環境で餌の緑藻を探し、いろいろな嚢舌類に会うことができました。

出会いたかった本命の種には残念ながら出会えなかったわけですが、それでも長年気になっていた複数の種に初めて会うことができ、大変有意義な調査となりました。

少し紹介しましょう。
まずは定番、ハウチワ類に着生するミニミニ嚢舌。オオアリモウミウシ類たち。
水深や環境によって種が異なっており、それがどのように棲み分けされているのか大変興味深かったです。というかほとんど棲み分けていませんでした。極めて平和的に共存しているようです。

上から順にウサギモウミウシ、テングモウミウシ、クサイロモウミウシ、イリオモテモウミウシ、テングモウミウシ隠蔽種、ネオンモウミウシ

イリオモテモウミウシはどうにかこうにか見たかった種の1つで、目的を達成できました。

次に前回の記事で触れたチドリミドリガイ。
3タイプと、近年記載されたPlakobranchus papua
この種は日本での公式な記録はないかも?
チドリミドリガイはブラックタイプ、ホワイトタイプ、ブルータイプを発見

上からブルータイプ、ホワイトタイプ、ブラックタイプ、Plakobranchus papua
ブラックとホワイトの違いがわかりにくいですが、側足側面の斑紋の色などが異なります。同時に見つけるとわかるかもしれません。

そしてタカノハヅタに付着する謎の卵塊を追ってたどり着いた先にいたのがテンガンノツユ!!

タカノハヅタにつくというなんだか付きにくそうな感じですが、葉状部の側面に普通に付いてました。こんな付き方かぁと思いつつ。イワヅタ食者は茎部分につくことが多いので少し違和感があります。

そしてコノハミドリガイの仲間が3種類。
テンテンコノハミドリガイ。サンプルが手に入らなくてずっと解析から漏れていた種ですがなんとかここで手に入りました。

なんだか背景への溶け込み具合がすごいですね。

そしてコノハミドリガイの隠蔽種が2タイプ。

どちらもすでに知っているタイプです。左の方がよく見るタイプです。

この他、ルリイロミドリガイ、ツノクロミドリガイ、ハナミドリガイ、タスジミドリガイ、ヨゾラミドリガイ、ウチワミドリガイ、クシモトミドリガイ、キフチミドリガイ、ミドリブドウギヌ、アマミミドリガイ属の一種などを発見しました。

上からミドリブドウギヌ、ルリイロミドリガイ、キフチミドリガイ、タスジミドリガイ、クシモトミドリガイ

新たに餌が判明した種もいくつかあり、よい収穫となりました。

ふだん見ないような種がたくさんおり、改めて南方の多様性の高さを実感するとともに、豊かな環境の大切さを感じました。それでもやはりこうした藻類の多い環境は減ってきているようです。

嚢舌類の食藻のなかには絶滅危惧種が少なくありません。
例えばハウチワやハゴロモ類、カサノリ類、サボテングサ類なども絶滅危惧種があります。こうした海藻の生える環境を守ることが、引いてはそれらを棲み家とするウミウシを守ることにもつながります。
引き続き現状調査と保護保全に向けて取り組んでいきたいと思います。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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