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Vol.22 いろいろな翼足類

2019.5.16

超大型GW期間中、かごしま水族館内のうみうし研究所では過去最多の53種類を展示することができました。

昨年の巨大台風の被害から少しずつ海も回復してきており、いろいろなウミウシが顔を出すようになってきました。
ふだん見えない海中の状況は普通に過ごしていると気に留めないことかもしれませんが、生き物の有無というのはとても重要で、ある生きものがいなくなると連鎖的に関係する生き物も姿を見せなくなります。一方で増えてしまう生き物もいます。
いつもの海にいつものように潜り、見慣れた生きものが全くいないととても奇妙で、その違和感がなにか言いようもない不安を感じさせます。
こうした光景を目の当たりにするといかに自然界がバランスを保って成り立っているのかを感じます。
ウミウシが多くなってきたことも嬉しいことですが、ふだんの海が戻ってきたことに一番ほっとしています。

さて、GW明けすぐに、私はウミウシとは全くの別件で深海生物の調査に赴いておりました。船に乗ってプランクトンネットを曳き、中層に生息する深海生物を狙っていたのです。

そうした中で、今回は初めて調査する海域でプランクトンネットを曳いたところ、たくさんの翼足類が混ざってきましたので、紹介したいと思います。

翼足類とは殻をもつ有殻翼足類と殻を持たない裸殻翼足類を合わせた言い方で、一般に知られるところではクリオネことハダカカメガイ(裸殻翼足類)と、それが捕食するミジンウキマイマイ(有殻翼足類)がこれに属します。

いずれも分類学的にはウミウシのなかまということは意外と知られていない事実です。

上記の有名な2種は流氷の妖精などと呼ばれており、北海道以北に生息するようなイメージが強いためか、クリオネ=冷たい海の固定概念がついていることがあるようですが、そんなことはありません。
たしかにハダカカメガイ自体は冷水域に生息しますが、近縁種には温帯域以南に生息するものもたくさんいるのです。

今回捕獲されたものはクリイロカメガイなどの普通種がすぐに目についたのですが、よくよく観察しているとクリイロカメガイとは雰囲気の異なる種がたくさん混じっていました。

顕微鏡で観察しつつ調べては見たものの、私翼足類は今までほとんど手つかずで、正直に言えば苦手分野でした。
というのも、翼足類など浮遊性のウミウシはダイビングで見つけることが難しいのです。ウミウシばかり探している私のような人は常に海底に張り付き、嘗めるように岩や付着生物をじろじろじろじろ見ているので、中層をじっくり観察することがありません。
そうでなくとも翼足類の出現は稀で、予測できるようなものではない(と私は思っている)のです。

したがって、私が今までに発見したことのある翼足類はウキヅノガイ、カンテンカメガイ、ウチワカンテンカメガイ、クリイロカメガイ、ツメウキヅノガイの5種のみ。
クラゲ採集のための灯火調査や、夏に簡易プランクトンネットをボートで曳いて捕獲したりしたものでした。

以前発見したウチワカンテンカメガイ

おまけに翼足類は飼育が難しく、水槽に入れても長くもちません。
展示期間もかなり短いのが現状ですので、ほぼ紹介できる機会がなく・・・せっかくなのでこの機会にここで紹介してみたいと思います。

言い訳が長くなりましたが、こんなわけで不慣れなため同定が間違っているかもしれません!
自信がないものもありますがどうぞお手柔らかにお願いします。
そして体が透明な種がほとんどで、写真がとにかく難しい。
大変下手な写真ですみませんが、そちらもお許しください。
では行ってみましょう。

たぶんウキヅノガイ
のちに出てくるスジウキヅノガイの存在に気付く前に撮影してしまい、この個体がスジなのかスジでないのかわからなくなってしまいましたが、ウキヅノガイは殻が長いタイプと短いタイプがあるそうです。1筋の線が入っていたらスジウキヅノガイ。殻の先端が曲がっていたらツメウキヅノガイ。むむむ。初っ端からややこしい。

ちなみにこれは以前発見した殻が曲がったタイプ。なのでツメウキヅノガイとしていますが。あまり自信はありません。資料のツメウキヅノガイはもう少し殻が長細いのですが。それにしても撮り方が雑ですみません・・・・。

ウキビシガイ
これはすぐ判断できますが、近縁種に殻の先端が細くなっていかない形のフカミウキビシガイと、両側に張り出すトゲがあるトゲウキビシガイ、膨らんだ三角形の形の殻のダイオウウキビシガイなどがあるようです。見てみたいですね大王。

ウキヅツガイ
これも似た種がないのですぐ判断できます。殻の先端が丸いつぼ状。これでパタパタ泳いでいるのですから、かわいらしいですね。

ガラスウキヅノガイ
こちらはウキヅノガイに似ていますが、より短い殻で、横に走る細かい線がたくさんあります。なんと標本を作成したのち瓶を落として割ってしまい、サンプルがどこに行ったかわからなくなるという失態を犯しました。透明なサンプルってどうやって見つければいいんでしょうね。

スジウキヅノガイ
筋がわかるような角度で撮ったおかげで逆にわかりにくくなった感がありますが、スジがわかればよしとしましょうか。他の形はウキヅノガイによく似ています。知っていないとうっかりウキヅノガイと同定してしまいそうです。

クリイロカメガイ
殻が栗色なのでわかりやすい種です。時化の後など沿岸に集団で打ち寄せられることもしばしば。問い合わせも過去いくつかありました。それくらい翼足類の中では発見率の高い種です。展示しましたが2日間のみとなりました。ちなみに彼らは粘液トラップでプランクトンや懸濁物を捕まえて食べます。

マサコカメガイ
初見ですが、普通種のようです。今回の調査で最も多く捕獲されました。
写真下方に向く3か所の棘突起の中央棘が長く伸びます。

おそらくキヨコカメガイ
軟体部が出てこなくなったものはいろいろな角度で確認します。
とくに横からの写真(写真左)では「ひさし」と呼ばれる帽子のつばのような部分の形状も重要なようです。本種はひさしの縁辺が茶色く縁どられている点で他種と異なります。棘突起もほとんど突出していません。

マルセササノツユ?
ひさしが長く張り出し、かつ上面が明瞭に凹む。棘突起が両側に三角形に伸びる。
なんでも近縁種(亜種)が相当たくさんいるらしく、手元の資料だけでは判断しかねます。

マルカメガイ
名前のごとく棘突起が目立たず全体として丸っこい。横方向に走る線があるせいで丸まったダンゴムシのような印象があります。ひさしがほぼ90℃に折れ曲がります。殻内に見える黄色い点は動いていたのですがなんなのでしょうか。消化物なのか共生または寄生生物なのか不明です。この種以外の殻内でも見られました。

たぶんシロカメガイ
殻を横から見たとき、ひさしがある方を背殻、無い方を腹殻と言います。ひさしがある側が前方、棘突起のある方が後方だとのこと。ひさしの部分が殻口で、そこから翼足がパタパタと出てくるような構造ということですね。
本種は腹殻の丸みがあまりなく、どちらかと言えば角ばっている点が他種と異なる部分。側面図ではひさしの腹側縁はきれいな斜め直線な点も他種と異なります。

カメガイ科の一種
特定に至らなかった種です。中央の棘突起が丸いのでササノツユ類かもしれませんが、やはり情報不足なのでなんとも。

ヤジリカンテンカメガイ
生きている時は確実にヤジリカンテンカメガイだと判断できたのですが、持って帰ってみるとこの矢じり型擬殻から本体の軟体部が抜け落ちてしまっており、本体が行方不明に。結果、この動物体が本当にヤジリカンテンカメガイだったのか、確信が持てなくなってしまいました。おそらく見たことのある人はすぐに判断できるものと思います。本種の身体は透明度が大変高く、他種のように両側から光を当てて撮影しても水中だとほとんど見えません。止むを得ず水から出して撮影。違和感ありますね。

こちら不明種ですが、もしかすると上記ヤジリカンテンカメガイの本体かもしれません。そんなに簡単に擬殻からぽろっと抜け出てしまうものなのか大変興味がありますが。本体の構造を調べないことにはなんとも判断できません。

ニュウモデルマ科の一種?
クリオネが属する裸殻翼足類のなかまです。なんとなくクリオネっぽい形に見えなくもないかもしれません。一応この類は体構造の図が見つかったのですが、まだまだ勉強不足。どこがどの部位かもう少しちゃんと調べてから確定する必要があります。

以上、およそ14種類の翼足類が一度に獲れるというなにかご褒美的な調査でした。ウミウシ探しに来たわけではないんですけどね。
でもこれで少しだけ理解が進みました!

有殻翼足類の死殻というのは、実は海底にかなりの量が沈んでいるらしく、翼足類軟泥という層をつくるほどだとか。いったいどのような生活環でくらしているのか、非常に興味がありますが、いかんせん飼育状況は下の下。
しかし今後の調査が継続的にできれば確実に採集できる可能性がでてきます。計画的に準備をして採集を繰り返していけば少しは状況が変わるかもしれませんね。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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