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Vol.28 セスジスミゾメミノウミウシの謎

2019.11.29

先月からの1か月で5度近くも水温が下がった鹿児島。
海の中の賑やかさも少し落ち着いて、魚も少なくなってきました。

しかしウミウシたちを見つけるには水温が低ければ低いほど良く、例年これからの寒い時期が調査のピークになってきます。

今年の調査はとくにミノウミウシ類の県内初記録種が目立ちましたが、毎回のように見つかるのがこの種類。

セスジスミゾメミノウミウシです。かみそうな名前ですね。

オウギウミヒドラという樹枝状の刺胞動物に着生し、そのポリプを食べてくらしています。
黄土色の枝からたくさん生えている白いものがポリプ。セスジスミゾメミノウミウシは自分の背中にある突起を白くしてこのポリプに似せようとしているといわれています。タテガミ状の突起がなんだかかっこいい気も・・・・しますよね。

同じようにオウギウミヒドラ上でくらすスミゾメミノウミウシは滅多に見かけませんが、鹿児島ではセスジスミゾメミノウミウシはあちこちで見つかります。

こちらスミゾメミノウミウシ
よく似た名前ですが、属は異なります。こちらの方が頭が大きくて背中の突起も先が丸くなっていますね。

セスジスミゾメミノウミウシは多くが濃紫色の細長い体をしており、紫色のオウギウミヒドラに擬態するのに適しています。小型個体はよくよく観察しないと見逃してしまうほどです。

例によって見つけにくいウミウシを探すときは卵塊を探せば簡単で、ピンク色でコイル状にぐるぐると巻き付けられたものが卵塊です。

写真左手側に4か所ほど見えるぐるぐる巻きが卵塊。これがついているオウギウミヒドラには高確率で(というかほぼ間違いなく)セスジスミゾメミノウミウシがついています。

オウギウミヒドラは同じく刺胞動物のヤギ類に大変よく似ていますが、あまり近縁ではなく、むしろ遠いグループです。しかし流れの強い場所を好むという性質は似ており、潮通しの良い岩肌などでよく見られます。

錦江湾の湾奥には1mを超えそうな巨大なオウギウミヒドラがあちこちで見られる場所がありますが、不思議なことにセスジスミゾメミノウミウシはほとんどついていません。
本種の卵の発生様式は未確認ですが、もしかすると閉鎖的な湾には入ってこないのかもしれません。

錦江湾の大型オウギウミヒドラ。黄土色系と紫系の色タイプがある。

さて、前回の記事で紹介したように、イボヤギミノウミウシは食べる餌の色によって体色も変わってしまうのですが、本種はどうでしょうか。
多くは紫色なのですが、たまに茶色っぽい体色の個体もいるにはいます。

少し茶色っぽいセスジスミゾメミノウミウシ
紫色のオウギウミヒドラについていると目立ちやすい。

もしかすると本種もオウギウミヒドラの色に合わせて体色が変わっていくのでしょうか。
これも飼育実験してみたいと思って何度もトライしていますが、本種はイボヤギミノウミウシをしのぐ難易度。

まず酸欠や止水に大変弱く、輸送時に小さな容器などに入れると数時間で死んでしまうことすらあります。

水槽内でも、そもそもちゃんと餌を食べているのかもわかりにくく、餌となるオウギウミヒドラ自体の飼育も困難です。刺胞動物はポリプの大きさに合わせた餌を準備するのがお決まりといえばお決まりで、ポリプが小さければ小さいほど飼育が難しいとされています。

オウギウミヒドラの場合は白く見えているツブツブがポリプなのですが、1mmにも満たない大きさです。適切な水流を当てていないとポリプを開くこともなく、同じような見た目のヤギ類と比べてもやはり難しい種類です。
結果として、本種での飼育実験はほとんど進歩がありません。

黄土色のオウギウミヒドラにつく紫色のセスジスミゾメミノウミウシ。

海ではこのように体色とは異なるオウギウミヒドラに着生する個体がまれに見られます。
こうなるとせっかくの擬態がうまく機能せず、むしろ見つかりやすくなって生存率に影響すると思われます。(好き好んで本種を食べる敵は知られていませんが・・・)

もしかすると、元の餌を食べ尽くして、新しい餌にありついたばかりの個体でしょうか。
しかし、私の経験上、海でオウギウミヒドラから離れて見つかることはまずありません。さらに、オウギウミヒドラの上にいるからといってどんどん食べてポリプがほとんどなくなっている、といったこともありません。食痕がわからないのです。
本種がついていたとしても、常に多くのポリプが出ており、本当にポリプを食べているのか怪しいくらいです。

そもそもポリプの色が白なので、本当にポリプだけを食べているのであれば、白くなってしまうような気もします。
では、ポリプではなく外皮(?)を食べているのかというと、そこにおそらく刺胞はないわけで、刺胞を摂らなければ身を守る術も手に入らないわけで、外皮だけを食べる意味がないような気がします・・・・。
いえ、この場合、色素を取り込むことが体色を変えて擬態し、身を守る、という意味になるのかもしれませんが。しかし外皮を食べるのであればいくらなんでも食痕がわかりやすく残りそうなものです。

では、カメレオンのように周りの環境に合わせて体色を変えることができるのでしょうか。こういった動物はたくさんいますが、ウミウシの中では自分の意志や周囲の環境に合わせて体色を変化させることができるものはあまり聞きません。体色の変わるウミウシは基本的に餌に由来すると思われます。(一部に環境に合わせて体色の変わる疑いのある種がいます)
しかし餌で体色が変わるウミウシは、もともとの地色が白色系もしくは半透明であることが多く、見えている色は本来の色ではなく、内部が透けて色が見えている状態、というのが正しい解釈です。
セスジスミゾメミノウミウシの地色は半透明でも白色系でもないように思います。

ではやはりセスジスミゾメミノウミウシの体色は遺伝的に決まるもので、後天的要因で変化することはないということなのでしょうか。

生活史からも考えてみましょう。セスジスミゾメミノウミウシの卵の発生様式がプランクトン栄養型であった場合、卵からふ化した幼生が、一定期間の浮遊生活を送ったのち、オウギウミヒドラに着底すると仮定しましょう。すると着底したオウギウミヒドラからは一度も離れずに一生をそこで過ごす可能性もあります。
つまり、自分の体の何倍もある大きさのオウギウミヒドラのポリプを全て食べつくす、ということがもはやなく、食べても食べても再生して生えてくるポリプが常に餌を供給している状況となり、他のオウギウミヒドラへ移動する必要すらなく、そこで一生を終える、という可能性です。

この場合、体色を変える必要がなく、もともとの体色がオウギウミヒドラにマッチしているか否かで見つかりやすさ(生存率)が変わる・・・ということになるでしょうか。

どんどん餌を食べて移動を繰り返す種類であれば移動しているところが目撃されてもよいはずです。他のミノウミウシ類は移動中のものが普通に見つかります。

総合すると、本種は色変化しないのではないか?と思います。
これは、黄土色系のオウギウミヒドラから茶色系のセスジスミゾメミノウミウシが見つからない(見つけたことがない)ことからも納得がいきます。

単に茶色系のセスジスミゾメミノウミウシが少なく、かつ紫色のオウギウミヒドラの方をよく好むために黄土色のオウギウミヒドラにはあまり着生していない、ということなのかもしれません。どうやって認識しているかは謎ですが。

いろいろ考えてみるとたくさん可能性はあるのですが、やはり机上の空論。自分の目で調べてみないと確信が持てません。
解剖して中腸線の分布構造と、内部に餌由来の色素があるかないかを調べれば体色が餌由来のものかどうかがわかるかもしれません。

ずいぶんややこしいことを書きましたが、考えれば考えるほど知りたいことが増えていくのもウミウシのおもしろさですね。
研究は些細な疑問から。また新たな発見があれば続きを書いてみたいと思います。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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