日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.29 飼育に成功したウミウシたち

2019.12.15

みなさま、どうぶつのくに本誌vol.129ウミウシ特集ご覧いただきまして誠にありがとうございます。読んでいただいた方に恥ずかしくないような展示を続けていけるようより一層努力してまいります。

うみうし研究所を設立してはや2年と5か月。
正直に言えば設立前までの飼育はほとんど飼育とは言えず、むしろ調査や試験に重点が置かれていました。

展示を切らすわけにはいかない状況で、どこに行けばウミウシを採集し、展示へ補充できるかを第一に考えていたためです。

水族館という施設で展示を作るためには、これはこれで大切な基礎情報の収集だったわけで、これがあったから今があるわけなのですが、やはり飼育スキルの上達もなくてはならない課題です。これまでの水槽は飼うことはあまり考慮されていませんでした。というよりもどうしたらうまく飼えるかがわからない状態で水槽を設計したためにそうなってしまったわけですが、やはり使ううちにその弱点はどんどん浮き彫りになっていきました。うみうし研究所の設計時にはこれらを解消してつくり、ずいぶんと「飼う」方向へ転換できたように思います。
もちろんうみうし研究所の水槽もあれはあれで使ううちに課題が見つかってきたわけですが。ほぼ手作りですからね。何年もつかなぁ。

うみうし研究所では生息環境を再現した水槽が4つあり、その中では100個体を超えるウミウシと、それらの餌生物を同時に飼育しています。
いや、もはや餌生物を飼う水槽でウミウシを展示しているといった方がいいかもしれません。

ウミウシは飼いならされた魚のように餌をあげればすぐに食べにくるような生き物ではないため、好きな時に好きなだけ食べる、というウミウシのペースに合わせた給餌が良いと思っています。ウミウシたちは常に餌となるカイメンや海藻のある環境で飼育されることで、好きな量だけを自分のタイミングで食べることができます。

しかしこれにはいくつかデメリットがあります。
カイメンや海藻などの餌生物を入れれば入れるほどウミウシたちの隠れ家が増え、観覧側から見つけにくくなってしまいます。
このためウミウシの数でカバーすることになりますが、食欲旺盛な種は入れれば入れるほど餌の供給が追い付かなくなることがあります。
もちろん数が多ければ飼育管理の上でも全個体を管理することが難しくなり、現在何個体のウミウシが元気にしているのかを正確に把握できなくなってしまいます。

しかし、それを差し引いても餌生物との混合飼育は重要で、こうした管理方法を採っていると、あるウミウシのためにとってきたカイメンが、一緒に飼育している全く別の種類の餌だと判明することがあります。

餌と思っていなかったカイメンも、状態よく採集できたのでこの水槽に入れてみたら食べるウミウシがいた、という発見もあります。片っ端から試していかなければ本当に食べるのかどうかわからないのです。

さらに、付着生物はとにかく飼育や維持が難しいため、餌生物のためだけに予備水槽を設けています。これによって採集時に傷ついた部分を回復させ、元気な状態になってから展示水槽の方へ移します。
傷んだ餌生物はウミウシが食べなくなるため、この回復は非常に重要ですが、もう一つ気にかけておかなければならないことがあります。カイメンの回復は種によっては大変難しく、傷んだカイメンを回復しないままにウミウシのいる水槽に入れた場合、時とともにカイメンは傷んでいき、水槽の水がすべて濁り悪臭を放つほどに水質を悪化させます。ただでさえ防御手段として何らかの化学物質を備えているカイメンですから、この水質悪化はウミウシはもちろん、他の生物たちにとって致命傷になりえます。万が一にも気づかずにそのままにしてしまうと、ウミウシの全滅も起こりえるので慎重にならなければなりません。

海であるウミウシを見つけた時、それが食事の真っ最中なんてときは、その餌をどうにか採集し、回復水槽で療養し、十分な量を水槽で飼育できるようにしてからこれを食べるウミウシを入れると、当然のことながらそのウミウシは長く飼育できるようになります。

さて、このようにしていろいろなウミウシにあれやこれやと餌を試した結果、ずいぶんと長く飼育できるようになったウミウシがいます。

このブログでも何度か書いていますが、今回は長く飼育できたウミウシをランキング的に紹介しましょう。
もちろん【飼育】とはちゃんと給餌して管理できているものを指し、餌がわからず絶食状態での管理はどれだけ長く生きていようが含みません。

1位
ヒトエガイ
最長飼育期間 1年5か月

このブログでは何度か紹介していますのでお馴染み。

2位
オトメウミウシ属の一種
最長飼育期間 1年4か月(更新中)

これも以前に紹介した種類。依然として種名がはっきりしないのですが、とにかく飼育は容易。先日2個体目を発見しました。

3位
ムカデミノウミウシ
最長飼育期間 1年1か月

これは時期が来たら詳しく書こうと思っている思い入れのある種です。青紫色の蛍光色がきれいですが、食べる餌によっては茶色っぽくなってしまいます。以前何かの番組で『ブルードラゴン』と呼ばれていました。和名はムカデなんですが。ドラゴンの方がいいなぁ。

4位
キイロウミウシ
最長飼育期間 8か月半

今年はキイロウミウシが豊作。あちこちで見られています。淡い黄色が素敵です。

5位
フチドリミドリガイ
最長飼育期間 6か月

かなり個体差のある種類です。いまだに隠蔽種がいるような気がしてなりませんが、とりあえずこの種類としています。渋いです。

6位
ミスガイ
最長飼育期間 6か月

いわずと知れたミスガイ。今年の初めに大発生しておりました。が、ミスガイはけっこう餌をよく食べるし、比較的体も大きいので餌の切れ目が縁の切れ目となりました。きっともっと長く飼えるはずです。

7位
カンランウミウシ
最長飼育期間 5か月3週間

大変意外な種類がランクイン。どう見ても貧弱と思っていたのですが、予想に反して長生きしました。ちょっと触れただけで背中の粘着質突起がペタペタとくっついて取れていく。一時は禿げ散らかしたつるつるナメクジ状態にまでなってしまったのですが、恐るべき早さで再生し驚かせてくれました。

8位
ヒメメリベ
最長飼育期間 5か月(更新中)

ムカデメリベという近縁種として記録していたのですが、よくよく見たらヒメっぽい。ムカデメリベはあまり長く飼えていませんが、ヒメは今のところ長生きです。見た目が非常にユニークでよいですね。餌のやりすぎに注意が必要です。

9位
ナギサノツユ
最長飼育期間 4か月半(更新中)

小さな小さな子供から育てた個体。状態が悪くなってくると内側に隠れている貝がらが見え隠れするので気をつけながら見守ります。刺激を受けると尾を自切するので水槽掃除のときにも細心の注意が必要。

10位
コンシボリガイ
最長飼育期間 3か月(更新中)

大変美しいミスガイのなかま。ミスガイと違って体はあまり大きくないので餌の供給が間に合うのが優秀。今後の展開も期待できます。

以上、10種類紹介しましたが、実はもっと簡単に飼育できる種もいるにはいます。
しかし普通に入手できる種類だと次から次へと個体数が増えて、個体識別できなくなり、飼育期間がわからなくなっていくのです。これもこの展示のデメリットでしょう。

といいつつ、飼育屋がこんな言い訳していいわけはないので、最近は長期飼育記録用の個体を選び、隔離して飼育しています。このランキングも来年には変わることでしょう。定期的に書いておくと自分の成長記録にもなりますね。ちょっと恥ずかしいですが。

さて、よく書いていますが、入手はできるのに全く飼育できないのがコケムシ食の種。
コケムシの維持管理はとてつもなく難しい。いろいろ試しましたがうまく飼える方法がまるで見つかりません。

これに限っては毎日のように海へ潜って餌を採集して与える、ということを繰り返せれば何とかなるかもしれませんが、なかなかそこまでの時間はとれません。

ウミウシ食の種は餌がわかりやすいのですが、これも餌の切れ目が縁の切れ目。餌ウミウシが入手できなくなり次第終了となります。この場合、まず餌となるウミウシを継代飼育できるようになることが重要でしょう。心苦しい飼育になりそうです。

今年は嚢舌類の飼育がずいぶんとうまくいくようになりました。
短命と思って諦めていたのですが、いろいろ環境を整えればできるものですね。

このようにまだまだ課題は多いウミウシの飼育研究ですが、こんなふうに振り返ってみると一定の成果も出始めたのかなと思います。が、目指すところはまだまだ先。遠い道のりです。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。