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Vol.6 ウミウシの卵を観察する

2018.2.10

みなさまあけましておめでとうございます。

冬と言えばウミウシシーズンの開幕。
しかし毎日寒いので、勇んで海へ行く、というわけにもいかず、重い腰をなんとか持ち上げて調査にいっています。
年末には、ウミウシなかまを集めて毎年行う合同調査があったのですが、夜の磯でひたすら石をひっくり返しては石の裏についているウミウシを探す・・・これを真夜中の1時から2~3時間行っておりました。ダイビングが基本の私にとって磯調査は毎年過酷なのですが、毎回毎回ダイビングでは決して見つけることのない種が見つかるので、実り多い調査となっております。夜であまり良い写真が撮れなかったので磯調査の詳細はまたの機会に。

今回は新年らしくおめでたそうな?産卵のお話を書こうと思います。

ウミウシを飼育していると卵を産むことがあります。ウミウシの飼育下産卵は決して珍しいものではなく、むしろごくふつうの現象です。とくに複数で飼育している場合は交接もよく見られ、その後卵が産みつけられます。
ウミウシは雌雄同体で、成熟した2個体が出会えばふつう交接・産卵に至ります。けっこうな体格差があっても交接しているので成熟したかどうかを外見で判断するのは難しそうです。繁殖期の有無ははっきりとせず、現在扱っているウミウシで産卵時期などを記録して情報を増やしているところです。交接はふつう、体の前寄り右側にある生殖孔を2個体がくっつけ合うことで精子の受け渡しが行われます。したがって写真のような体勢で交接することがほとんどです(例外もあります)。

アオウミウシの交接

交接したウミウシの体内では産卵の準備が行われます。受精した卵は薄いカプセル(卵殻)に包まれ、さらに一度に生み出されるすべての卵を一つのゼリー質でコーティングします。その後、産み付ける場所を決めたら生殖孔から卵の塊が出てきます。卵は岩や海藻などの上に産み付けられますが、水槽内でもところ構わず産卵するため、決まった産卵基質があるわけではなさそうです(小型の種は水面に産み付けることもあります)。卵は数粒~数万粒が一つにまとまっており、「卵塊」という表現をします。卵数は発生様式と関係があり、プランクトン栄養型発生の種はより多産で、直接発生の種はより少産です。卵栄養型発生の種は中間くらいですが、私が扱っていた嚢舌類については卵径に比して卵殻が大きいのが特徴の一つです。日本産のウミウシはそのほとんどがプランクトン栄養型で、直接発生や卵栄養型発生の種はほんの一握りです。しかしまだまだ種ごとの発生様式は網羅されておりませんので、もしかするとこの先変わってくるかもしれません。

ゾウゲイロウミウシの産卵

卵塊内では卵一つ一つがらせん状に配置されています。産み出した卵塊にはいくつか形状にタイプがあり、袋状、ひも状、リボン状、そうめん状などがあります。

ミカドウミウシの卵塊。ひらひらした帯(リボン)を渦巻状に産み付けます。

水槽内に産み付けられた卵塊を丁寧に取り出し、顕微鏡下で観察してみます。このとき傷をつけると雑菌や原生動物に侵入され卵発生に悪影響を与えるため注意が必要です。できれば透明な基質に産んでもらい、基質ごと取り出す方が良いでしょう。

ミドリアマモウミウシの卵塊(顕微鏡写真)

データを取るときはこの卵塊内の卵数・卵殻径・卵径・産卵からふ化までにかかる日数・幼生の形態などを記録します。とんでもなく卵数の多い(万を超える場合)種は一部分を数えて、その割合から概数として算出します。卵径や卵殻径はいくつかの卵の顕微鏡写真を撮影してPC上で測定ソフトを使って測ります。

私はコノハミドリガイなどの嚢舌類を専門に扱っていたのですが、他のグループのウミウシの卵はあまり透けないので観察しにくいかもしれません。形態観察なら嚢舌類が良いかと思います。

こうして記録し、培養シャーレに移して温度管理しながら待つと概ね3~20日くらいで孵化します。種ごとに結構な差がありますが、プランクトン栄養型は早く孵化する傾向にあります。

孵化した幼生はベリジャー(veliger)幼生と呼ばれ、多くは貝殻を持っています。

卵栄養型発生の孵化したベリジャー幼生

Veligerの名前は面盤(velum)と呼ばれる遊泳器官をもつことに由来しています。

貝なのに泳ぐ、ウミウシなのに殻がある。
幼生を観察すると生物の起源を考えることができて非常に面白いですね。
ヘッケルの反復説「個体発生は系統発生を繰り返す」はここでよくよく実感できます。

ふ化幼生は植物プランクトンを摂餌しながら浮遊・分布拡散し、ある程度成長して適地を見つけると着底・変態します。ここで、卵栄養型発生の幼生はふつう餌を捕食せず、プランクトン栄養型発生よりも早く着底・変態します。したがって飼育下では幼生への給餌は不要です。プランクトン栄養型発生の幼生への給餌はたいへん難しく、私はここでいつも頭を抱えています。なお、着底には種ごとに必要な着底基質があり、それがないとうまく着底できず、次のステップに進めません。成体の餌が着底基質となっている場合もあるのですが、成体の餌すらわからないウミウシ界ですから、なかなかハードルの高い幼生飼育です。

みなさまもウミウシに限らずいろいろな生きものの卵や幼生を観察してみると多くの発見がありますよ。生物学の実験観察にもおすすめです。

*vol.4で紹介した「ウテンミノウミウシ?」とした不明種はほぼウテンミノウミウシだろうと結論づけました。日本の図鑑上の「触角が平滑」は誤りで、原記載を確認すると触角には「不明瞭な突起」があると書かれていました。確認が遅くなり失礼いたしました。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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