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Vol.32 水族館の取水管からくるウミウシ

2020.3.15

先日、『International Jellyfish Conference(IJC:国際クラゲ・深海生物会議)』にてウミウシの発表をさせていただきました。
なぜその会議名でウミウシなんだろうと思うかもしれませんが、それはさておいて。
これまで関係会議などの場には頑なに?姿を現さなかった私が公の場に情報開示することはある意味珍しかったのですが、国内外からいろいろなご意見をいただき、大変良い経験になりました。
お世話になったみなさま、ありがとうございました。

発表内容はウミウシの繁殖手法についてですが、これについてはもう少しあとになってから紹介させていただきます。

さて、かごしま水族館で使われている海水は目の前にある鹿児島湾(錦江湾)の沖合、水深35mから引き込んでいる自然海水です。

こういう図っておもしろいですよね。

鹿児島湾は内湾性の湾で閉鎖性が強いために河川から流入した栄養分がたまりやすく、ゆえにプランクトンも発生しやすく、このため年中概ね濁りやすくなっています。冬は少しマシですが。
汚いわけではありませんが、透明度が低いので視界の悪いダイビングとなることが多い海です。湾口の方はまだ透明度高いんですけどね。

そのような海水を水族館に引き込みそのまま飼育水として使用すると、当然水槽の水が少なからず濁ってしまうので、引き込んだ水はいくつかの濾過過程を経たのちに各水槽に出せるようになっています。

そのうちの1つの過程が取水管ストレーナー。
巨大な取水管を通って入ってきてしまった小さな生き物やゴミが濾過室へ進んでしまわないように、キャッチする部分です。

ストレーナーは長く使っているとどんどんゴミや小さな生き物がたまっていき、水を引き込む効率が悪くなっていきます。
したがって定期的に清掃し、絡めとったゴミや小さな生き物を取り除く必要があります。

かごしま水族館にはそのような設備点検業務等を行う専門スタッフがおりますが、彼らからすればここで取り除いたものはゴミに等しいわけです。
しかし我々飼育部署からすると『小さな生き物』の宝庫なわけで、捨てずにくださいと無理をいって持ってきてもらっています。

そこには小さなテッポウエビやカニ、ウミシダ、ナマコ、貝、コケムシ、ホヤ、カイメン、海藻、ときにはカサゴやゲンロクダイ、ゴンズイなどの魚も紛れることがありますが、もちろんウミウシも紛れてくることがあるのです。

水深35mから遠路はるばる取水管(総距離720m!)を通って水族館の近くまで上がってきた猛者たち。
(もしかすると単に吸い込まれただけで、その時間は一瞬だったかもしれませんが)
なので歓迎して迎えて差し上げなくてはなりません。

ではその様子を紹介しましょう。
まず点検スタッフからは掃除で出た”ゴミ”と思われてしまうものがバケツに入れて持ってこられます。バケツの写真は別にいりませんよね。
これを海水に浸るようにバットに広げます。

確かにゴミっぽいですよね。
なんだかこういう光景何度も出している気がします。
それだけウミウシ調査は地味だということで・・・・。

確かにビニールなどの人工物(ゴミ)も紛れていますが、多くは生き物が作り出す構造物すなわち体の一部です。
汚れていることが多いのであまりに濁っているようなら何度かすすぎます。
貝の殻などとごちゃ混ぜになっていると魚は瀕死状態になってしまうことも多いので、手早く作業を行います。
そしてゴンズイやウミケムシなどの毒棘をもつ生き物もいることがありますので、注意深くピンセットなどを使い、生きている生物をピックアップしていきます。

右上のバットがゴミ、右下のボールが生還者(もしくはエサ)です。
このようにしてバットの中身を全て選別します。

こうして見つかったウミウシは

キセワタガイ。
いや、正確にはキセワタガイ属の一種としておくのが無難かと思います。
小さな巻貝や殻持ちウミウシを捕食します。水槽に入れてしばらくすると食べたエサの貝殻を吐き出すので、その貝がらから食べたものがわかります。
いわゆる胃内容物調査が生きたままできる種類。
以前、この取水点検でキセワタガイがたくさんとれたとき、水槽に入れたあと、なぜかクリイロカメガイ(翼足類)の貝殻が水槽内に転がっていたことがありました。この水槽にクリイロカメガイを搬入したことはなく、おそらく死んで海底に沈んだクリイロカメガイを食べたキセワタガイが混じっており、搬入後に殻だけ吐き出したものと思われましたが、クリイロカメガイをキセワタガイが食べるか確かめたことがないため未だに疑問です。あれはどういうことだったのでしょう。
この2種が同時に入手できる可能性は低いのでどうにも確認ができずもどかしい思いをしています。

ちなみにこちらがクリイロカメガイ。浮遊性のウミウシです。

話を戻して取水点検からくるウミウシその2。
クロシタナシウミウシ。
マダラウミウシと分けられたりくっついたりを繰り返す種ですが、区別のつきにくいタイプがいるので注意が必要。夏にもいますが、冬になると俄然目に付くようになる普通種。実は単体での展示よりもキヌハダウミウシの餌としての役割の方が私としては大きかったりします。

ハスエラタテジマウミウシ。
これはこの取水点検からきた一番の大物。
ダイビングでもなかなか出会えません。実は錦江湾の深場にはタテジマウミウシ類がいろいろいるという情報をもらっているのですが、いかんせん私の足では簡単にはいけないところでもあり、深いのであまり行きたくないところでもあり、課題として残っているエリアです。
未発見の全ての種に頑張ってこの取水管を上がってきてほしいなどと淡い願望を抱いています。

ミヤコウミウシ
超普通種で、時期や場所によっては何十個体も簡単に見つけることができますが、実は飼育がかなり難しい。
いろいろなカイメンを食べているような気がしていますが、『コレをあげていれば大丈夫!』というエサが特定できず、そして絶食にも弱い種であるため、たまに餌とってきて与えるというのが難しい。
採集よりも餌の確保を優先すべき種です。ちなみに手のひらサイズの超巨大個体も観察されています。

他にもこんな種や

こんな不明種がたまに出たりします。(種特定できず・・・。)

ダイビングで見つけるようなカラフルな色彩のものは多くありませんが、こういった水族館ならではの入手方法は貴重です。
ある場所では海洋深層水の取水から新種と思しき珍しいウミウシが発見された事例も・・・。

とはいうものの、この手法によってこれまでに当館で見つかったウミウシは15種程度。10年でたった15種です。いかに効率が悪いかがわかりますね。

でも、この数少ない1個体の記録が重要だったりします。15種のうち2種が新種だったら確率的にはいいですもんね。
このように業務の一環でできる、あまり手のかからない調査も負担が少なくてよいものです。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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