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Vol.12 悪食ウミフクロウの給餌検証

2018.7.11

ウミフクロウ(Pleurobranchaea japonica)は側鰓目というグループのウミウシですが、このグループ名は体の右側面に鰓があることに由来します。鹿児島では冬になると北薩海域のあちこちで見かけられるようになりますが、錦江湾内のサツマハオリムシ生息地からも見つかっています。

ウミフクロウ(海梟)というユニークな名前はどこからついたのでしょうか。最もフクロウらしさを感じるところはそのシルエットです。たしかにフクロウに見えなくもありませんが、どちらかというとミミズクではないかと個人的には思っています。

いかがでしょうか。

実際の名前の由来はどうなのかというと、馬場(1969)の中に「ウミフクロウは滝巌博士が水産動植物図説(1933)のなかで紹介された」とあります。この水産動植物図説が手元にはなかったため確認できませんでしたが、ここで初めて提唱された名前である可能性があります。お持ちの方はぜひ確認されてみてください。

さて、このウミフクロウですが、ウミウシ界では非常に特殊な食性をもつ種として知られています。ほとんどのウミウシが付着生物食であるのに対し、ウミフクロウ類だけは腐肉食者。海では死んだ魚や貝などを摂餌していたりするため、飼育下では水族館で一般的に使われる餌料(魚、イカ、アミ、オキアミ、エビ、アサリ、ゴカイ)を与えて飼育することができます。

上記の餌は日頃与えているものですが、とにかく何でもよく食べる、と言われる本種。いったいどこまで餌と認識するのでしょうか。今回はこれを少し検証することにしました。

今回手伝ってもらうのはウミフクロウと、少し大型で尾部に角状の突起があるツノウミフクロウの2個体です。

ツノウミフクロウ(Pleurobranchaea brockii

上記の餌の他に、今回はイソギンチャク、クラゲ、乾燥ワカメ、ウミウシを用意しました。

まずはいつも与えている餌から。アサリ。

むき身なのでアサリらしさが伝わらないかもしれませんが、問題なく食べます。アサリから出る汁を感知しただけで口を伸ばし始めるほど。

次、オキアミ。

食べますが、殻つきだったせいか少し食べにくそう。与えるときは殻をむいて与えてやると食べやすいかもしれません。あまり好きではないのか、アサリほどの勢いはありません。

アミ、魚肉、イカ、エビ、ゴカイは同様で、すでに摂餌確認済みなので割愛。

次、イソギンチャク。
アクアリストの間ではカーリーと呼ばれるセイタカイソギンチャク類の退治役としてウミフクロウがよく勧められていました。しかし私はこれまでウミフクロウがイソギンチャクを食べるのを観察したことがなかったので、腐肉食者のウミフクロウが生きたイソギンチャクを食べるだろうかとかなり懐疑的でした。結果は・・・

イソギンチャクに近づくウミフクロウ

イソギンチャクの触手が触れるや否や口を勢いよく伸ばします。

そのままの勢いで吸い込んで・・・・

完食でした。

なんということでしょう!!!!!
今まで私の口からイソギンチャク駆除にウミフクロウは向かないと聞いてきた皆様、すみませんでした。楽々食べます。何なら反応良好。
しかし見逃してはいけないのは跡形もなく食べているかどうかです。このイソギンチャクはほんのすこしでも体の一部が残っているとそこから再生してしまうことがあります。
今回はよーーーーーく見るとほんの少しだけイソギンチャクの肉が残っていました。
とはいえ、完全にとりきること自体難しいこのイソギンチャク。駆除対策としては優秀な方でしょう。
ちなみにこの他、セイタカイソギンチャク駆除にはイロミノウミウシ(イズミミノウミウシ)やサラームミノウミウシが向いています。

次、乾燥ワカメ。海水で戻したものです。

全く反応しません。
餌として認識していないようです。

 

 

次、クラゲ。
今回は他のウミウシに餌として与えているサカサクラゲを選びました。そのままだと大きいので触手を切って与えてみます。

これも少しわかりにくいかもしれませんが、半透明で茶色いふさふさがついているものがクラゲの触手です。
少し食べにくそうにしており時間がかかりましたが食べました。

最後、ウミウシ。
今回はちょっとかわいそうですが、涙をのんでアオウミウシを近づけます。

!!!!!!!!!!!!!!!
なんと勢いよく吸い込みました。

・・・・・・・・が、アオウミウシを口に入れたかと思うとしばらくその場から動きません。隠れて見えにくかったのですが、何やら口元がもごもごと動いています。
およそ3分後、その場から離れると、そこには吐き出されたアオウミウシの姿が。
どうやら相当まずかったようです。
アオウミウシなどのイロウミウシ科のウミウシはカイメン食で、防御のために餌カイメンから忌避物質などを取りこんでいます。言わば化学防御なわけですが、これはウミフクロウにも効果があるようです。もちろんこれだけの実験では化学物質だという証拠にはいたりませんが。
一方で、カイメン食でないウミウシならもしかするとウミフクロウでも食べることができるのかもしれません。これはまた今後の課題ということにします。
因みにこのウミフクロウ、現在タツナミガイと同居中ですがタツナミガイに吸いついているところは見たことがありません。小型種であることが重要なのか、好きなグループのウミウシがいるのか。気になるところですね。

以上、いろいろと試してみましたが、さすがと言いますか、ウミフクロウおそるべし。
下手に他の生物と同居飼育はできません。海底に生息する小型動物にとって、触れれば何でも食べてしまうようなウミフクロウの存在はかなり脅威かもしれませんね。

1つ注意点ですが、ウミフクロウへの給餌量には十分お気を付けください。一度に大量の餌を与えすぎるとよくありません。ちゃんと管理していると排便も確認できますので、しっかり消化したと判断してから次の餌を与えるようにしてくださいね。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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