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Vol.15 トゲトサカに巣食う者たち

2018.10.21

かごしま水族館の目の前にそびえ立つ桜島。

毎日のように噴煙を上げる猛々しい山体を眺めつつ、空から舞い降りる灰から逃げるように麓の海に潜ると、そこには陸上から見た緑色の海からは想像もできないほど美しい景観が広がっています。

海底一面に広がるサンゴイソギンチャクのじゅうたんや、

 

色とりどりのマメスナギンチャクも気持ちよさそうに太陽を眺めています。

 

潮通しの良い岩肌にはオオトゲトサカが海水をいっぱいに吸って大きく伸びています。

この素晴らしい景観等から桜島の海は昭和45年にはすでに海域公園として指定されていました。
平成24年には、霧島連山から錦江湾にかけてエリアを拡張し、陸海域を合わせて『霧島錦江湾国立公園』として名称が変更されています。

 

オオトゲトサカはかごしま水族館でも飼育展示しており、不定期で湾内に採集に行きます。

急な流れと豊富なプランクトンの存在が不可欠な生き物であり、飼育難易度はやや高め。それでも上述した通り錦江湾の景観には欠かせない生き物であるため、長く展示を続けています。

オオトゲトサカを海中で観察しているといくつかの住人がいることに気づきます。

よく目に入るのはオルトマンワラエビ。

エビとついていますが、異尾類すなわちヤドカリのなかまです。
私は恥ずかしながらクモやザトウムシが大の苦手なのですが、この衝撃的なルックスに、初めて目にしたときには相当驚いたものでした。(不思議なことにいくら似ていても水中にいて全く別の生きものだとわかると平気になってしまいます。)

もう一つ目にするのがこちらのかわいい貝。

テンロクケボリです。
1cmほどの小さなウミウサギガイのなかまで、大変美しく、オオトゲトサカを食べてくらしています。赤紫色の小さな斑点は貝殻の模様ではなく、それを覆っている外套膜の模様です。

 

この他にもトゲトサカの群体内に穴を掘ってくらし、トゲトサカを蝕んでいくタマオウギガニのなかまもよく見ますが、写真がありませんでしたあしからず。このカニがいるといくら万全の状態で飼育してもトゲトサカはどんどん衰退してしまいます。見つけたらすぐに取らないとうまく飼うことができなくなってしまう要注意生物です。

これらの生きものが良く知った顔なのですが、今回の採集後には見たことの無いウミウシが出現しました。

オトメウミウシ属の一種です。

今のところ該当する種が見つかっておりませんので不明種扱いです。
錦江湾内の深場にはハナオトメウミウシなどいくつかのトゲトサカ食のウミウシがいると聞いていましたが、全くの別種です。

オトメウミウシ属の仲間は鹿児島ではあまり多く見られず、私の調査では今のところわずか4種しか確認できておりません。本州の潮間帯などでふつうに見られるオトメウミウシ(Dermatobranchus otome)が鹿児島で確認できていないのです。分布していないのでしょうか。近縁の属である良く似たタテジマウミウシ属の種は数種確認しています。

確認済みのオトメウミウシ属を少し紹介すると、
稀に確認されるのがサメジマオトメウミウシDermatobranchus striatellus

温帯種かと思っておりましたが種子島でも確認しています。この属の学名ってなんだか響きがかっこよくて(デルマトブランクスと読みます)個人的にお気に入りです。

こちらは今年の春に入手したデルマトブランクス・カエルレオマクラタス(Dermatobranchus caeruleomaculatus)学名が長いですね。

最近和名が提唱されてアオフチオトメウミウシと呼ばれることに。
残念ながら餌が手に入らず長く飼育できませんでした。

今回出現したオトメウミウシ属の一種は幸いにも餌生物がオオトゲトサカだと断定できたので、定期的にエサ用に育てたオオトゲトサカを少しずつ切って与えています。
トゲトサカ類は条件さえよければ再生能力は極めて高いので、エサにもしやすいかもしれません。

どこまで飼育できるか楽しみです。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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