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Vol.16 ウミウシとともに生きる

2018.11.12

 一部のウミウシを除いて、多くのウミウシは共生生活を営む生き物ではありません。群れもつくりませんし、基本的には単独で行動しています。しかしそんなウミウシの孤独(?)を知ってか知らずか、自然界にはウミウシと共に生きようとしているものたちがいます。

 広い意味では「共生」と言いますが、今回紹介するのは共生の中でもちょっと迷惑な「寄生」を行って生きているものたち。

 寄生虫の世界は非常に多様で、寄生虫のいない生きものなどいないのではないかと思うほど、さまざまな生きものに寄生しています。基本的には宿主(寄生相手)特異性があるため、寄生対象はある程度(属レベルまたは種レベル等)決まっており、宿主の形態や生態に合わせてさまざまな姿に変化しているのも多い非常に特殊な生きものたちです。

 そして例に漏れず、ウミウシにも寄生虫がつくことがあります。寄生虫が「寄生」することにはもちろん意味と目的があるはずですが、ウミウシに寄生するメリットはなんでしょうか。
 まず思いつくのは、ウミウシには毒化した種が多いために外敵が少なく、その体内は安全性が高いこと。しかしこれには寄生虫そのものもウミウシの毒成分に耐えなければならないような気もします。このあたりどうでしょう。寄生虫の中にはむしろ寄生中に宿主ごと捕食者に食べられることを狙っており、上位捕食者の体内へと寄生場所を変えていくものもありますので、ウミウシに外敵が少ないことを思うと寄生相手を変えないタイプなのでしょうか。

 はっきりとした答えはわかりませんが興味深い分野です。

 さて、ウミウシを飼育していると、宿主ウミウシの体内から出てきたと思われるニョロニョロした寄生虫を見かけたり、ウミウシの体表をちょろちょろと動き回る少しかわいらしい寄生虫を見かけることがあります。
 少し紹介しましょう。

 こちらはシライトウミウシ Chromodoris magnifica
 触角の後ろから半透明のにょろにょろが体表を突き破って出てきています。これにはシライトウミウシもさすがに痛そうで、少し萎縮しているのがわかります。
 このようなワームタイプは通常宿主の体内に寄生しており、外見ではその寄生の有無はわかりません。ところがあるとき体表から出てきて硬い基質に繭を作ります。水槽内ではこの繭が壁面やガラスの角などに付着していることが多く、これを発見することでようやくワームが寄生していたのだと認識できます。
 いくつか種類があるようで、とくにシライトウミウシやミカドウミウシ等、イロウミウシ科の種に多いように思います。

 こちらは昨年捕獲したハナデンシャ Kalinga ornata
 体長16cmもある大物でした。体が半透明なので体内が少し透けて見えるのですが、よくよく観察すると・・・

 げげげ・・・。通常は見られないもの(肌色のひものようなもの)が鰓の中に見えています。
 明らかにワームでしょう。しかも時間とともに体中から現れてきました。このハナデンシャは捕獲当初からかなり萎縮しており、数日後には亡くなってしまいました。そしてその周辺には大量のワームが出てきていました。

 これは出てきたワームを集めてシャーレに移したもの。さすがに気持ち悪いですね。一部白くなっている部分がありますが、これが繭を作っている部分だそうです。
 この体表を突き破るという行動。ウミウシに深刻なダメージを与えています。ふつう寄生虫は宿主が死んでしまうと生活場所が無くなってしまうので、宿主を殺すような真似はしません。が、このワームは宿主から離れる段になればあとはお構いなしとばかりに激痛を与えながら去って行くのかもしれません。これまでにも数々のウミウシが同じ原因でやられてしまいました。非常に厄介です。

 こちらは以前紹介したツノウミフクロウ Pleurobranchaea brockii
 虫食い状の模様をよ~く見てみると・・・・

 おや?なんだかかわいらしい形の白い虫が(写真中央よりやや左上)。
 これはカイアシ類のなかまだそうで、我々は寄生コペ(寄生性コペポーダの略)と呼びますが、対になっている独特な形状をうさぎの耳に見たてて「ウサちゃん」などとニックネームがついていることもあります。
 このコペはいろいろな種で出現し、コイボウミウシ(Phyllidiella pustulosa)などにもよくつきます。

 このコイボウミウシには3個体のコペ。

 拡大図。先ほどのツノウミフクロウについていたものとは形が違うので別種と思われます。

 こちらはワグシミノウミウシ(Baeolidia moebii)の頭部に付着しているコペ。ピンク色です。

 この他にも、

 こんなものや・・・・。
 オオクチリュウグウウミウシ Roboastra tentaculataのえらから1対のリングが・・・。
 これはワームではなくてコペの仲間だったと記憶していますが・・・・どうでしょう。

 こちらはウミグモの一種ですが、カノコキセワタ(Philinopsis gigliolii)の鰓部分から這い出してきました。ウミウシからウミグモが出てきたのは初めてです。寄生していたのかもわかりません。

 これはダイバーの間では有名で、ミカドウミウシ(Hexabranchus sanguineus)の体表などで生活するウミウシカクレエビ。「ウミウシ」とついておきながら、実はナマコの体表などでも見つかる・・・・ というかナマコからの方がよく見つかります。 このあたりは寄生ではなくエビだけにメリットがある片利共生と思われます。

 こちらはシロウミウシ(Goniobranchus orientalis)の応援団・・・・ではなく、体の上に乗っかっているワレカラたち。細長い体の甲殻類です。どうしてウミウシの体表にいるのかは不明ですが、ナマコの体表などで何十個体もついているのをよく観察することがあります。これも片利共生なのではないかと思いますが・・・・ウミウシは迷惑ではないのか微妙なところですね。

 このように、自然界にはウミウシとともに生きている生きものたちも意外とたくさん存在しています。私のようなある種ウミウシまみれの生活をしている(?)人をウミウシとともに生きていると言うかどうかはさておき、寄生虫のような厄介な存在ではなく、持続的な付き合い方ができる立場であればと思います。

 今のところこれらの寄生虫への防除手段はわかっていませんが、貝類の養殖現場などでも寄生虫問題はあると思いますので、調べてみるとなにかヒントが見つかるかもしれませんね。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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