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Vol.18 ウミウシを食うウミウシ

2019.1.15

 ウミウシの餌料は多岐に渡っており、その専食性の高さから餌を準備することから飼育が始まる、すなわち餌がなければ飼育にさえ至らないのがウミウシです。
 餌料にはカイメン、コケムシ、ホヤ、ヒドロ虫、イソギンチャク、サンゴ、スナギンチャク、ウミエラ、ウミトサカ、カヤ、クラゲ、エボシガイ、クモヒトデ、甲殻類、海藻、ウミウシ、ゴカイなどバラエティに富んでおり、さらには種ごとに餌種が異なることから、極端な話、100種のウミウシを扱うには100種の餌を準備しなければなりません。
 実際には餌が被っている種がある程度はいるようですが、あまり解明されていないのではっきりしたことはわかりません。

 厄介なのはこのような餌生物が当然のことながら餌として販売されておらず、全て自分で調達せねばならず、さらにそれを良い状態でキープすなわち飼育しておかなければいけない点です。
 多くの餌生物は付着生物ですが、これらの継続的な入手と飼育がまあ難しいのです。うまく飼えたところで次から次に餌として消費されていくので大変です。なんとかしてシステマチックにできればウミウシの飼育期間も大幅に伸びるのではないかと思います。

 さて、ウミウシは貝殻を捨てて生きることを選んだ巻貝ですが、貝殻の代わりに身を守る術をその餌から入手することにしました。多くの付着生物は自らが敵に襲われても逃げることができないため、体を硬くしたり(物理防御)毒成分を体内にもっていたり(化学防御)します。ウミウシはこの毒成分をとりこみ、そのままあるいは手を加えて忌避物質や毒として自分の防御に使います。

 したがってウミウシを口にした生きものはウミウシから分泌された毒成分を苦みやえぐみとして捉え、不味い!と感じ吐出してしまうわけです。
これが繰り返されると次第にウミウシという生き物が不味い生き物であることが認知されていきますから、ウミウシを好き好んで食べる生きものは少なくなっていきます。すなわちウミウシの天敵はほとんどいません。
 ・・・・少なくともそう考えられています。

 しかし私はウミウシが他の生物に襲われているのを見たことがあります。
 1つ目はキセワタガイを襲うトゲモミジガイ
 2つ目はフレリトゲアメフラシを襲うキタマクラ
 3つ目はツヅレウミウシのなかまを襲うフタバベニツケガニ

 いずれもあまり味を気にしない生きものなのかもしれませんし、毒があまり強くない種類のウミウシだった可能性もあります。しかしこれらの外敵たちはウミウシ専食の生きものではありませんので、天敵とまでは呼べないかと思います。

 ではウミウシに天敵は全くいないのかというと、そんなことはなくて、ウミウシの敵はウミウシなのです。
上手いこと考えたウミウシがウミウシ食ウミウシ。なにせ敵が少ないウミウシなら餌に関して競合する相手が少ないということになります。それに栄養的に考えても自分と分類学的に近い生きものを摂取した方が体組成が似ており無駄なく身になるようにも思えます。

 そんな利点のためかどうかはわかりませんが、ウミウシ食のウミウシはけっこうたくさんいます。ウミフクロウや一部のミノウミウシなど、ウミウシ専食でないものもいますが、確実にウミウシ専食なのは以下の3つ
1. カノコキセワタ類
2. イシガキリュウグウウミウシ
3. キヌハダウミウシ類

カラスキセワタ(Philinopsis speciosa

 

カノコキセワタ(Philinopsis gigliolii

両種はよく似ていて紛らわしく、同種であるとする研究者もいるくらいです。
カラスキセワタはキセワタ類を、カノコキセワタはゴクラクミドリガイ類を食べます。

イシガキリュウグウウミウシ(Tyranodoris luteolineata
以前はリュウグウウミウシ属Roboastraに属していましたが、きわめて獰猛な食性で近縁なニシキリュウグウウミウシ類やクロスジリュウグウウミウシ類を専食することから、かの恐竜ティラノサウルス同様に暴君という意味のあるTyranoをくっつけてティラノドーリスTyranodorisという属に変更されました。
近縁種はコケムシ食またはホヤ食であることから、本種がどうしてウミウシ食になっているのか不思議でなりません。

 

そしてウミウシ界でもっともウミウシ食いに特化しているグループがキヌハダウミウシ類。
キヌハダウミウシのなかまは見分けがつきにくく、未記載種の数が大変多く、和名も学名もない種がざらにいます。つまり分類が進んでいないグループです。私の記録だけでもsp.扱いの種が20以上います。

そんなキヌハダウミウシ類の捕食例をば少し。
普通種であるキヌハダウミウシ(Gymnodoris inornata)はクロシタナシウミウシ属の種を好んで食べます。

クロシタナシウミウシ(上 Dendrodoris arborescens)を捕食するキヌハダウミウシ(下)
この光景はちょうど今くらいの時期に海でよく見ることができます。

こちらも南方へ行くと数が多いオキナワキヌハダウミウシ(Gymnodoris okinawae

ゴクラクミドリガイ類など嚢舌類を専食するため、嚢舌類の出現の多い冬の緑藻上で発見されることが多い種です。2~3年前にたくさん発生していましたが昨年は少なかったですね。

 

キイボキヌハダウミウシ(Gymnodoris impudica)はイロウミウシ科の種を摂餌するとされており、アオウミウシ(Hypselodoris festiva)を与えたところ食べてしまいました。

こうやって見るとなかなか怖いウミウシです。

 

シロボンボンウミウシ(Gymnodoris sp.)はキイボキヌハダウミウシの真っ白版といった姿で、この2種は他のキヌハダウミウシ類と比べても形態が独特です。現在キヌハダウミウシ科内にはキヌハダウミウシ属の1属しかありませんが、もっと細分化すれば分類しやすくなるような気もします。今後の研究に期待したいですね。

シロボンボンウミウシもイロウミウシ科の種を摂餌するとされており、いろいろな種を与えてみましたが、食べたのはジボガウミウシなどシロタエイロウミウシ属(Glossodoris)の種のみでした。

 

アカボシウミウシ(Gymnodoris alba)は近似種が大変多く、本当にアカボシウミウシかを見極めるのも難しい種です。

潮間帯転石裏などでもよく見つかり、同所的に発見されるオカダウミウシ(Vayssierea felis)を摂餌しています。

 

キヌハダモドキは頭部の前縁がトゲトゲしている種で、同属の種やなんと同種まで捕食するおそろしい種です。

ウミウシを食うウミウシを食うウミウシ。ややこしいです。

 

こうして見るとキヌハダウミウシの間でも食べる餌種はバラバラで、種によって好みが異なることがわかります。
ウミウシ食いをするウミウシが増えると当然餌が被ってしまう可能性が増えるわけですから、うまく食い分けて来たのかもしれません。ウミウシ界ではウミウシ食いの種がより強いと考えられそうで、それらの個体数が自然と増えそうなものですが、ウミウシ食いのウミウシを食うウミウシまで現れています。キヌハダモドキはこの意味でまさに最強のウミウシと言えるかもしれませんが、悲しいことにその天敵は同種同胞であることはある意味生物界のバランスを崩さないようにする定めなのでしょうか。ウミウシ界の食物連鎖もおもしろいものです。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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