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Vol.19 ミスガイの大発生

2019.2.18

青く澄んだ冬空に桜島の噴煙を見ながら久しぶりの錦江湾へダイブ。

砂地が続く今回のポイントは長くウミウシの調査ポイントとして使っており、安定した普通種の出現と、まれに現れる珍種に胸を躍らせながらウミウシが観察できる場所です。

いつものように過酷なエントリー口を越え、海へと浸かります。

この日の調査は採泥が目的です。
5m~20mの水深の底質を5mごとに採取し、陸上でふるって間隙性のウミウシや砂中に潜るウミウシを探します。

コアマモが繁茂する砂地を眺めながら進むとすぐにいつもとは違った光景が目に入ります。

コアマモ群落の至る所に白いリボン状の卵塊が付着しています。

これはウミウシの卵塊とみて間違いありません。
色と形状、生息地からしてこの卵塊の主がすぐに頭に浮かびます。

周囲を探すとこれまたすぐに予想通りのウミウシが見つかりました。

ミスガイ(Hydatina physis)です。
ミスガイは河口域や潮間帯などの砂泥底~砂利の海底に生息する有殻性ウミウシです。
後鰓類ではありませんのでウミウシではないとされている時期もありましたが、現在はミスガイが所属するグループも広義のウミウシとされるようになりました。

ミスガイはあまり頻繁に見つかるウミウシではありません。
鹿児島本土では多くても年に数個体しか見つからない比較的珍しい種と言えます。

が、この日、視界に入った卵塊の数は到底1個体が産める量ではありません。何十個もの卵塊があちこちにあるのです。

期待に胸を膨らませながら周囲をさらに探索すると、次から次に見つかります。
これでもかというほどのミスガイの群れです。
交接しているものや産卵中のもの、索餌中のものなど生態を観察するのにも最高の条件です。

すると多くのミスガイの中に貝殻の模様が違うものが紛れていることに気づきます。

ヒメヤカタガイ(Hydatina zonata)です。
ミスガイとは殻の縞模様の流れる向きが異なります。
また、体色も少し薄いようですがこれは個体差もあるかもしれません。

この日見つけたミスガイは約30個体。さらにヒメヤカタガイは4個体でした。

これほどたくさんのミスガイの出現に遭遇したのは初めてです。
ヒメヤカタガイも過去2個体しか発見したことがなくミスガイよりもさらに稀な種です。

いくつかサンプリングし、前から行いたかった給餌試験を行います。

ミスガイは海底に生息するミズヒキゴカイ類を食べます。

ヒメヤカタガイもおそらく同じであろうと思いながら、これまでそれを確認する機会が持てませんでした。
今回は早いうちに試験を開始します。

まずはミスガイ。ミスガイの給餌はもう慣れたものですが、面白い行動があり、これを撮影するために行います。

ミズヒキゴカイは細い糸状の鰓を砂上へ伸ばし、体は砂中にあります。

死肉やデトリタスなどをこの鰓を使って引き寄せ、どのようにかは不明ですが食べているようです。

ミスガイはこのミズヒキゴカイを食べる際、触角様突起を感覚器官として相手の位置を捕え、口を伸ばして食べますが、この口がとんでもなく伸びます。

身体の3倍程度にまで伸びた口の先は餌を挟み込むような形になっており、捕らえたえさはストロー状に伸びた口を伝って体内へ。

観察しているとどうやらこの伸びる口は蛇腹構造になっているようで、これで自在に伸縮できることがわかりました。

試験個体は体の3倍ほどには伸ばしませんでしたが、体と同じくらいの長さには伸ばしてくれました。

続いてヒメヤカタガイです。
ミズヒキゴカイを食べるかどうかがまず重要です。

少し躊躇しながらもミスガイ同様の口を伸ばし、伸ばす間もなく引き寄せて食べてしまいました。

これでヒメヤカタガイの餌がミズヒキゴカイ類と確定できました。

口の色や構造がミスガイとは違うなど形態上の差異があるかもと思っていたのですが、とくにそういった違いは見出せませんでした。

肝心の採泥調査はミスガイの大発生に興奮しすぎたためか、成果はいまいちでしたが、幸運な調査となりました。

これだからフィールド調査はやめられません。

さらなる出会いを楽しみに、これからも海へ足を運ぼうと思います。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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