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Vol.21 双殻のウミウシ

2019.4.10

うみうし研究所発足当時、370種を記録していた鹿児島産ウミウシ調査ですが、1年半で約70種増え、現在では439種となりました。

この間、ウミウシの分類もかなり変わっておりまして、誤同定やあらたに学名がついたものなどもおり、全ての精査が終わっていないので修正が追い付いていません。

写真も少しずつ増えているのですが、気づく人もいらっしゃるようで、たまに声をかけられます。ちょっとした感動です。毎回見てないと気づかないはずなんですよね。

開始当時より1枚1枚の間が少しずつ詰められていっているのですが、いよいよ全部のスペースが埋まってしまいまして、これ以上は完全に間を無くしていくしかありません。
しかしそれでも日本からのウミウシ報告種の3分の1にも達しておりません。まだまだです。

わけあって長く続いているこの写真展示はもはや調査結果とウミウシの多様性を紹介する展示となっていますが、写真の前で写真を撮られるお客様が後を絶たず・・・・・どうせでしたら拙い写真より生体の方を撮ってほしいものですが。。。

さて、かれこれ8年以上続けている鹿児島のウミウシ調査ですが、ウミウシなかまやダイバーと話していると、私が未発見のウミウシもまだまだおり、「○○で見つけたよー」とか「○○ウミウシはあそこで見たことがある」とかいうような情報を聞くとどうしても自分の目で見つけたくなってしまいます。

とはいうものの、やはりウミウシは一期一会の種も多く、同じところに行ったからと言って必ずしも発見できるわけではないのが悔しいところであり、そして面白いところでもあります。

個人的な観点から、どうしても見つけたい種というのがいくつかあるのですが、今回紹介するのは学生時代から見つけたかった種です。

名前をタマノミドリガイ。

私の専門である嚢舌類に属していながら、いまだに見つけたことがないのです。

そこで、今年の春は本気でこの種だけを探そうと思い立ち、計画を立てました。

タマノミドリガイが属すユリヤガイ科のなかまはいくつか種がおりますが、その魅力はなんといっても双殻の貝殻を持っていること。
ウミウシは巻貝から進化したグループなので、有殻の種でも基本は貝殻が巻いている(巻きが弱い種もある)ものです。
しかしユリヤガイ類は貝殻を2枚持ち、二枚貝のような形をしているため、一見して巻貝には見えません。
このような奇妙な形態を持つ嚢舌類をいつか見つけ出したいとの想いがずっとありました。

実は鹿児島からの記録は残っておりまして、
「貝の図鑑 採集と標本の作り方」行田義三 著  南方新社
にて鹿児島の海岸でタマノミドリガイが採集されたことが紹介されています。
ということはちゃんと探せば鹿児島でタマノミドリガイを発見できるはずなのです。

ではどこを探せばよいかというと、
嚢舌類の中でも有殻の種は祖先的な形質を残しているとされており、祖先的な形質をもつ種はイワヅタ食が多いことがわかっています。嚢舌類はもともとイワヅタ食から進化して他の緑藻も食べるようになっていったということですね。

タマノミドリガイは1959年に日本で初めて生体が発見されました。
二枚貝から足が生え触角が生え、這っている姿は相当な驚きだったでしょう。
その時の衝撃はウミウシ界の大権威、故 馬場菊太郎博士ですら発見者川口四郎博士からのこの情報をきいて「川口四郎先生が冗談を言ってこられた」と思ってしまうほどのものだったようで、これが当時のウミウシ界の大ニュースであったことはいうまでもありません。

タマノミドリガイ発見時の詳細な観察から、貝殻の頂部には巻貝状の構造があり、二枚貝に見えても巻貝であることや嚢舌類特有の単列の歯舌をもつこと、触角や腹足があること、イワヅタ食であることなどがわかり、ウミウシのなかまの嚢舌類の1種だと報告されました。

実はこれ以前にもよく似た貝殻は海外で発見されていたようですが、死殻のみで記載されたようで、二枚貝として報告されていました。タマノミドリガイの生体の発見により、これらの種もユリヤガイ科の種であるだろうとされました。

タマノミドリガイは岡山県の岡山大学玉野臨界実験所付近の海で発見され、この和名が提唱されています。学名も記載時はTamanovalvaという属名になっており、いずれも地名が採用されています。

発見時、干潮線下に生えたフサイワヅタに付着していたようです。
イワヅタ食のウミウシはイワヅタ間の専食性は低いらしく、イワヅタのなかまであれば比較的何でもよく食べると経験的に判断できるので、まずは鹿児島でイワヅタ探しをすることにしました。

県本土周辺でよく見られるイワヅタはスリコギヅタとコケイワヅタ。
残念ながらフサイワヅタは見つけたことがありません。
そしてイワヅタの繁茂する時期は春から夏にかけての時期。
そう、まさに今からの時期なので、4~7月にかけて毎月イワヅタ探しに行こうと計画しました。

イワヅタは潮間帯のタイドプールでもよく生えている海藻ですので、ダイビングのような重装備をしなくても磯調査ですみます。
逆に言えばこういった浅い場所にのみ生息している種はダイビングだと見つけにくいということでもあります。
(イワヅタは水深数mでも生えますので場所によっては見つけられます。)

大潮の日に磯調査を計画しますが、県本土周辺は海岸線が長い割にはタイドプールができるような地形があまり多くなく、薩摩半島だと南薩方面や北薩方面に行く必要があります。

今回は磯調査をし慣れているスタッフが当館におりましたので、場所のアドバイスをもらいながらポイントを決めていくことにしました。
海岸におりやすく駐車スペースがあり、かつ潮がひけばタイドプールが現れイワヅタがある場所。
これらを満たす条件の海岸というのは案外少ないものでしたが、いくつか候補が挙がりました。

すると数日後、そのスタッフが別件の調査でその候補地の一つに行ったところ、イワヅタを発見したとのことで、少しサンプリングしてきてくれました。

スリコギヅタです。

このイワヅタを白いバットなどに移し、ピンセットなどでかき分けながら丁寧に丁寧にウミウシがいないかを見ていきます。タマノミドリガイは大きくても体長数cm。もしかすると紛れている個体は数mmの可能性もあります。

タマノミドリガイ以外にも、イワヅタの匍匐茎には有殻の嚢舌類がいることがあるので、これも見逃さないようにじっくりと観察します。

すると、葉状部の上に少し色の異なる部分があります。

「まさか!」と驚いて観察すると、そこには見紛う事なき双殻の嚢舌類がいるではありませんか。

思わず「うおっ!」と叫んでしまいます。
こんなに簡単に・・・という思いとともに、自分でサンプリングしてきたものであれば・・・・という気持ちも混ざり、嬉しいような悔しいような複雑な気持ちになりました。

しかしなにはともあれ生まれて初めて見る双殻のウミウシです。

まずは種類を調べます。
ユリヤガイ科にはユリヤガイ属(Julia)とタマノミドリガイ属(現在はBerthelinia)があり、それぞれ貝殻の特徴が異なります。

すなわち
ユリヤガイ属・・・殻は硬質で厚みがあり、殻を合わせた時に双方にふくらむ。殻頂の後ろに明瞭な凹みがある。
タマノミドリガイ属・・・殻は薄質でもろく、殻を合わせても扁平。殻頂の後ろに凹みがない。

貝殻だけで記載されていたためか、殻にこれだけ違いがあればわかりやすいものです。
この上で再度観察しなおしてみると、

横から。

上から。

皆さんわかりますか?
比較しないとわかりにくいかもしれませんが、触ってみると殻はいかにも脆そうです。
殻頂の後方に凹みがありませんので決定的。タマノミドリガイです。

上から見ると2枚の貝殻が合わさっているのがわかるでしょうか。

そしてよく見ると目があるのが見えるのですが、意外や意外。寄り目タイプです。

黒い2つの点が目です。

同じく有殻のナギサノツユ科は両目が離れていたのでてっきりユリヤガイ科も離れていると思っていたのですが。
眼の位置に関する報告は探してみたことがありませんが、嚢舌類は目の位置が離れているタイプと寄り目のタイプがいます。これはどういった意味があるのか。ウミウシは基本的に視力がほとんどないとされているのですが、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。生息環境によるものか、行動生態によるものか。不思議です。

タマノミドリガイがいたイワヅタをよく観察してみると色が抜けて中身が吸い取られていました。食痕です。

左下の元気な藻体と比較すると色やふくらみが弱いのがわかりますでしょうか。

イワヅタにすむウミウシを探すとき、これらの食痕はヒントになり得ます。しかし、自然のイワヅタも傷んでいる部分があったりすると同じような見た目になってしまいます。したがって、食痕ばかりあてにしてもうまく見つかりません。参考程度に知っておくとよいくらいでしょうか。

タマノミドリガイはこれでもちゃんと腹足を持っていて、下に開いたわずかな殻の隙間から細い腹足を出して這うことができます。這うスピードは大変遅く、いかにも貝殻が重い、といった様子で、体の前半身をぬうっと伸ばしてから、後半身に背負った貝殻を引っ張るように動きます。シャクトリムシのような動きというとわかりやすいでしょうか。

過去の報告を見返してみると同じような観察結果がかかれており、これがタマノミドリガイの通常の行動のようです。
最初の発見のあとも産卵や幼生の観察など、この奇妙な双殻ウミウシの研究は続けられ、報告も多く残っているのがありがたいところです。

さて、こうして念願のタマノミドリガイを発見してしまったわけですが、当初計画した磯調査は未実施のままとなってしまいました。
しかしやはり自分で見つけてなんぼのもの。悔しい気持ちと少しの自信をもちつつ予定通り調査してみよう思います。

複数個体とれたら飼育試験もしてみたいですね。

次はユリヤガイを探すのも良いかもしれません。
今年の調査に期待です。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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