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Vol.24 スイジガイチェック

2019.8.1

南方系の巻貝にスイジガイという大型の貝がいます。

漢字で書くと「水字貝」。
貝がらに6本の突起があり、特徴的な形が漢字の「水」に似ていることが名前の由来です。
大型種ですので各地の水族館でも見ることができる有名な貝です。

また、奄美・沖縄などでは魔除けや火除けとして軒先につるしたりする風習もあるようです。

鹿児島県本土周辺の海にも生息しますが、南に行くほど見つけやすくなります。

私もあちこち調査ダイブにいくといろいろな場所で見かけるわけですが、最近あることに気づきました。

それはヤドカリを探していた時のこと。
スイジガイを宿にするヤドカリもいるため、スイジガイを見つけてはひっくり返してヤドカリかどうかを確認するということをしていました。

すると、ひっくり返した面に、ウミウシを見つけたのです。

それがこちらのムラサキミノウミウシ。

このウミウシを発見、いや、認識したのはこのときが初めてでした。
非常に小さなウミウシで、体長3~7mm程度。
紫色の背側突起に赤い触角、黄色い口触手の組み合わせが特徴的です。
紫色のミノウミウシはそう多くはないので、間違えることはないでしょう。

これ以来、スイジガイを見つけてはこのウミウシがいないかどうか確認するようになりました。
すると、ある特定の海域ではかなり高頻度でムラサキミノウミウシが付着していることがわかりました。

スイジガイを裏返しにすると突起に沿って溝があり、ムラサキミノウミウシはなぜかこの溝にいます。

ときには数個体が群れており、ときに産卵しています。

ウミウシの周りの白い粒粒が卵です。

さて、ムラサキミノウミウシはどうしてスイジガイについているのでしょうか。

ムラサキミノウミウシはミノウミウシの仲間なので貝を食べているわけではなく、貝がらを食べるわけでもなく、刺胞動物食のはずです。これだけ小さな体をしているということは口も小さいので小さな刺胞動物、おそらくヒドロ虫を食べているのではないかと思われます。

つまりものすごく小さなヒドロ虫がスイジガイの溝に好んで付着するがゆえに、それを食べるためにやってきたムラサキミノウミウシが溝に集まる、ということだと予想されます。

ほかの貝でも、ある特定の貝だけにつくヒドロ虫や海藻などが知られています。
何が誘因しているのかはわかりませんが、同じようにスイジガイだけを好むヒドロ虫がいてもおかしくはありません。

・・・・・と、これを書きながら写真をじっくり見返してみると。
やっぱりヒドロ虫らしきものが写っていました。

ふさふさしていますね~集まってますねえ。
お食事中だったんですねこれは。
というわけでほぼ確定。ムラサキミノウミウシのエサはスイジガイの貝がらの裏の溝に付着するヒドロ虫の一種です。

小型でかなり特異的な環境下に棲んでいるのでもしかすると発生様式もおもしろいかもですね。

ちなみに。
このスイジガイをウミウシがついたまま水族館の予備水槽に収容しました。
数日後に観察してみるとスイジガイの溝からウミウシがいなくなってしまいました。
小さなウミウシなのでもう見つからないかと思いましたが、ふと思いついて一緒の水槽にあるクモガイやサソリガイの殻の裏側も見てみました。
すると案の定。サソリガイの殻のやはり裏にムラサキミノウミウシが移動していました。
しかも産卵中。

このサソリガイは以前採集したもので、すでに死殻となっていまして、エサもないような気がするのですが、なにか気に入る条件があるようです。

ムラサキミノウミウシのこの不思議な執着。
この先もじっくり観察してみようと思います。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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