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Vol.25 渚の露

2019.8.29

鹿児島では今期の梅雨はけっこうな量の雨が降り、海中にも少なからず影響がありました。梅雨の後半に行った潜水調査では、海中の濁りが大変ひどく、視界の狭い中でのダイビングとなってしまいました。

濁りがひどい時の潜水調査はバディとはぐれないようにする必要もあるため、あまり広範囲に泳がず、近くの岩場などをじっくりと集中的に観察します。

いつもは見過ごしてしまうような何気ない岩の表面、海藻の隙間、くぼみの中なども時間をかけて探していきます。

するといつもは見かけない小さなウミウシが見つかることがあります。小さなもので体長2mm。大きくても1cmほどで、色も地味だと見落としてしまいがちです。
カメラのピントを合わせるのも大変で、なかなか良い写真も撮りにくいのが残念ですが、こういった中で見つかるウミウシは普段見つけられない種類が含まれていることがあるので蔑ろにできません。

今回紹介するのは海藻の上で見つけたナギサノツユ・・・・と思われるウミウシ

このウミウシは特段珍しいわけでもなく、イワヅタ類に着生するので発見するのも比較的簡単です。

ウミウシ1美しい名前とも言われるナギサノツユ(渚の露)はイワヅタ類を専食する嚢舌類。

冬~春に多い種ですが、体長5mm前後の小型個体ばかりが見つかりました。
スリコギヅタなどを与えて飼育が可能であるため、持ち帰ってしばらく飼育を続けました。

すると20日後には体長20mmほどまで急成長し、体色もナギサノツユらしくなってきています。

ナギサノツユ

飼育した7個体中、うまく成長したのは5個体でしたが、よく見ると体の模様が異なるものがいます。
これは!と思い確認すると、やはり別種。
よく似た近縁種カビラノツユでした。

カビラノツユ

ナギサノツユの触角から側足縁、腹足には青と淡黄色の斑紋がありますが、カビラノツユにはなく、カビラノツユの側足側面は小斑紋があるものの、緑色の面とより淡色の面がギザギザにあるいは弧を描いて区分されています。このギザギザ具合は個体差がありますが、ナギサノツユと見分ける点では紛らわしくはないでしょう。あちこちにある赤褐色の小斑点もポイントです。

ナギサノツユ(渚の露)という和名は、提唱当時、貝殻だけで発見されており、その殻の上品さに由来するようです。

カビラノツユはこの和名を汲んで提唱されているものと思われますが、カビラとは発見場所の石垣島の川平湾に由来しています。

その後、テンガンノツユという近縁種が報告されておりますが、これは沖縄本島の天願桟橋というところが由来だそう。どうやらナギサノツユ属はこのまま『〇〇の露』を継承していく流れになりそうです。おもしろいですね。

ちなみにナギサノツユの貝殻がどのくらい上品なのか気になったので観察してみました。
なんだか最近貝殻ばっかり紹介している気がしていますが。。。本ブログを勉強の良い機会と思って書いていますのでお許しください。

ナギサノツユの貝殻(左:背側、右:腹側)
殻は薄質で無色透明。殻口は大きく開き後方まで広がる。貝殻の巻きは弱く後端直前でようやく1周し少し重なる程度。後端は小さく開口する。
・・・と書いてはみますが、こういった表現って難しいですね。伝わるのかどうか悩みます。殻頂付近なんか貝がらの内側に来てるような感じなんですが、これの適切かつ簡潔な表現はどうしたものか・・・。もう少し貝殻の勉強もしなくてはいけませんね。

さて、この貝殻を見て上品さを感じるのかどうかは人それぞれかと思いますが、貝類図鑑を見ているとほかにも上品な名前があったり、全く別のグループで『○○ノツユ』という貝もいることがわかりました。美しい名前には生物学者の愛を感じますね。ウミウシに負けず劣らずユニークな名前も多いので、興味のある方は貝類図鑑(日本近海産貝類図鑑第2版;東海大学出版会)見てみてくださいね。 ナギサノツユは鹿児島では局所的に大量出現することがありますが、今回のようにカビラノツユが混じっていたのは初めてでした。念のためこれまでの記録も見返しましたがやはりすべてナギサノツユ。 小型個体は体色の発現が弱いため、判断できないことがあります。今回たまたま飼育したので気づきましたが、飼育しなければナギサノツユと同定していたかもしれません。 カビラノツユもテンガンノツユも沖縄で発見されていますし、水温の高いこの時期は南方種の出現にも注意していきたいですね。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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