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Vol.27 イボヤギミノウミウシの体色変化

2019.11.10

ミノウミウシの仲間は種々の刺胞動物を専門に食べてくらします。
ヒドロ虫食・イソギンチャク食・八放サンゴ(ソフトコーラル)食などが代表的ですが、なかにはイシサンゴ類を摂餌する種もいます。

その中でもっともよく知られているのがイボヤギミノウミウシ。

名前の通り、イボヤギなどのキサンゴ科のイシサンゴを専食します。

イシサンゴとは、造礁サンゴに代表される硬い骨格をもつサンゴで、わかりやすいところでは南の島のビーチに打ちあがっているサンゴのかけらがイシサンゴの骨と思っていただけるとよいかと思います。

そんな硬いものをウミウシが食べられるのか疑問に感じるかもしれませんが、イシサンゴの硬い骨格ごとバリバリと食べるのではなく、骨格の内外にある共肉と呼ばれるやわらかい部分(サンゴのお肉)を食べます。

イボヤギミノウミウシはこうした食性から、キサンゴ類がよく見られる場所、すなわち潮通しがよい岩肌やオーバーハングした岩の裏側などを探すと見つかることがあります。

イボヤギの群生

イボヤギミノウミウシに食害されたキサンゴ類は肉がなくなり骨がむき出しになるため白くなってしまいますが、これが周囲にイボヤギミノウミウシがいることの証にもなります。

今まさに食害を受けているキサンゴ。白い骨が見えている。

つまり、イボヤギミノウミウシを探すには、まずはキサンゴ類を探し、そのうち食害されている群体を探すと周囲にいる可能性が高い、ということになります。

しかし、イボヤギミノウミウシの背側突起はうまくキサンゴ類の触手に擬態するため大変紛らわしく、注意して探す必要があります。

さて、本題です。
イボヤギミノウミウシの特徴の一つとして、体色が食したキサンゴ類の色と同じになる、という現象が知られています。

ミノウミウシ類の背側突起には中腸線(消化腺)が入り込んでいることが多いため、食べたものが背側突起へと送られ、食べ物の色素が透けて見えるということがあります。

イボヤギミノウミウシ類ではこれが顕著であり、かつ色パターンが2つあります。
キサンゴ類は種によって色が異なり、大きく分けると黄色系と黒(暗緑色)系があるため、イボヤギミノウミウシにも黄色系と黒系の2パターンがよく知られています。

*厳密には体色は無色で透明がかっていて、中が透けて見えるだけなので、『体色が変わる』わけではなく『透けて見えている色が変わる』が正しいと思っていただければ。

黄色系のイボヤギミノウミウシ。小型個体なので少し印象が違いますね。

個体によって好むキサンゴ類の色があるかどうかはわかっていません。
しかしなぜだか中間色の個体は見たことがありません。
どんなキサンゴでも好きならば黒系も黄色系も食べて中間の色になってもおかしくはないはずです。

では、黄色系のキサンゴ類を食べている黄色い個体に黒色系のキサンゴ類を与えるとどうなるのでしょうか?問題なく食べるとしたら、色の変化はどのように起こるのでしょうか?
飼育下で実験してみることにしました。

今回採取したイボヤギミノウミウシは黒系の個体でした。

水槽に収容し、早速黄色系のキサンゴを与えてみます。

すると、翌日には摂餌を開始しました。

とくに色の違いによる摂餌不良はなさそうです。

では、このまま順調に摂餌を続ければ、体色が変化していくのでしょうか。
イボヤギミノウミウシの長期飼育は難しく、これまでもなかなかうまくいっていないのですが、可能な限り観察を続けてみることにしました。

採集時の体色

(ちょっとわかりにくいですが色だけわかっていただければ・・・。)

飼育開始13日後

黒っぽかった個体が、黄色くなってきたのがわかります。
尾部に近いほど黄色みが強いように見えますね。
この状態、中間色と言ってもよさそうです。

しかし飼育開始14日後
色はとくに変わらず、摂餌を確認できなくなりました。

飼育開始20日後
摂餌しないため色変化もなく、残念ながら死亡しました。
これからが楽しみでしたが実験終了です。

県内の海では黄色系と黒系のキサンゴ類があまり同所的には見つからず、単一種が優占していることが多いので、イボヤギミノウミウシもどちらかの色タイプしか見つけることができないのかもしれません。
と言いますか、これだけ長く飼育できないことを考えるとあまり寿命も長くない可能性もあります。ある1か所のキサンゴ群生地にたどり着く(幼生のうちに着底・変態したところがそこである可能性は高い)ことができれば、そこにあるキサンゴだけで(たいした移動をせずとも)一生分の餌をまかなえる可能性もあります。

だからどちらかの色彩の個体しか見かけることがないのかどうかは推測の域を出ませんが、こうして実験してみるとやはり海には中間色がいる可能性も十分にあることがわかります。仮に中間色の個体を見つけたとしても、こういった色彩になることを理解していると下手に種の同定に自信がなくなることもありません。
ウミウシは色彩で同定できる種も多いため、逆に『この種がこんな色彩をもっているわけがない』という固定観念が働いてしまうこともあります。

いずれにせよまた手に入ったらもう少し先まで結果が観察できるように工夫してみたいと思います。もしかすると餌選択が長期飼育の手掛かりとなるかもしれません。

著者プロフィール

西田 和記(にしだ・かずき)

1987年、愛媛県生まれ。
2010年 鹿児島市水族館公社(いおワールドかごしま水族館)入社。
深海生物、サンゴ、ウミヘビ、クラゲなどを担当する傍ら、ウミウシの飼育・展示・調査に勤しむ。ウミウシ類の飼育技術の確立が目標。

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