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Vol.23 ソラとショータプログラム

2014.3.7

 冬季五輪の熱はまだ冷めやらずの日々です。

タイトルは「ソチ ショートプログラム」ではありません。 「空」と「ショータ君」というレッサーパンダのお話です。

 

 

 レッサーパンダのメスの空ちゃん(10歳)は毎年2月に発情し、その時うまく交尾出来たら繁殖につながるので、2月はとっても大切な月ですが、未だ繁殖に結びついていません。

 今年も2月8日から空ちゃんに発情の兆候が見られ、オスのショータ君(16歳)はワクワクそわそわして展示場のアチコチにマーキングをし、空ちゃんを追いかけまわしていまし、夕方寝室になかなか戻らなかったそうです。なんか期待できそうです。

 

 

 レッサーパンダの寿命はだいたい12歳くらいとも言われており、16歳のショータ君はかなりの老齢です。
老齢性の白内障で、目はあまりよく見えていません。
そんなショータ君ですが、空ちゃんに影響されて、すっかり若返ったようでした。

しかし、無理したのか、その翌日から右後肢があまり動かなくなり、木登りもできず、食欲もなくなってしましました。

一方、空の方は、若いオスのレン君(6歳)と無事に交尾が終わりました。

 

 

そんなわけで、ショータ君は2月9日から毎日リンゲル液などを皮下注射することになりました。

レッサーパンダはとっても神経質で、なかなか治療しにくい動物です。
このショータ君は特にデリケートで馴れにくい性格です。
もし、治療になったら、押さえつけて、暴れて大変なことになるはずです。

担当のSさんは、数年前からショータ君の性格を考えて、ショータプログラムというものを作って馴らしていました。
それは、5分間はじっとして、何をされても怒らないし暴れないというプログラムです。

 

 

そのBGMとして携帯電話から「花のワルツ」(5分間)を流して、この曲がおわるまで、じっとしていようねと馴らしました。
動物園ではハズバンダリートレーニングと言います。

言うのは簡単ですが、そうすぐには出来ません。
動物と飼育員さんの日々の努力と深い信頼の絆がなければできないことです。

 

 

私は、初めてショータプログラムで注射をしたときは、とっても感動しました。
本当に、じっとしているのです。
注射量が多かったため、1回目に続けて2回目の曲を流したので、1回目のラスト近くなって、もう少しもう少しと我慢していたショータ君は、また始まったので、エッという感じのでしたが、飼育員さんを信頼していたのでがんばって治療を続けさせてくれました。

5分間のこの優しい曲は、時節柄フィギィアスケートを思わせました。
氷の上を美しく舞う姿と、じっと我慢する健気なショータ君の姿がリンクします。

 

 

そんな治療を毎日がんばったショータ君ですが、残念ながら、2月17日に亡くなってしまいました。

ショータ君は、拡張性心筋症と言って、心臓がとっても大きくなって心不全をおこしたことが死因だとわかりました。

きっと、色気たっぷりの空ちゃんを見て、老体でその気になったのがいけなかったのでしょう。残念です。

 

 

気分はがんばっていたショータ君なので、動物の精子保存を研究している大学に生殖器を送りました。

結果は、生殖器には精子は全然見つからなかったということでした。
かさねがさね残念なショータ君でした。

 

 

でも、治療のためのトレーニングの重要性をほんとに実感した2月でした。

いっぱいがんばったショータ君ありがとう。

著者プロフィール

高田 真理子 (たかた まりこ)
1957年5月4日 福岡市生まれ。筑紫女学園高校を卒業後、宮崎大学農学部獣医学科を1981年に卒業し、獣医師となる。
動物が大好きで小学生の頃から動物園の獣医さんを志して、1983年に念願の海の中道海浜公園・動物の森の獣医さんになった。
以降30年間にわたり動物たちの治療や衛生管理を行ってきた。その間、動物の世話や治療だけではなく、「動物をもっと好きになって、動物ってすごいよ、すてきだよ」と子ども達に『動物の森一日飼育員』『動物ふれあい教室』等のイベントを行なったり、機関誌『動物の森だより』を作ったり、動物相談に応じたり、動物の森ZOO ボランティア育成を行ったり動物に関する事の全般を行った。
2013年4月からは福岡県の大牟田市動物園で獣医師として新たな動物園ファン作りをしています。
九州沖縄ブロック動物園水族館獣医師臨床研究会(kozavg)代表。現在福岡市東区在住。
学芸員、社会教育主事、プロジェクトワイルドファシリテーター、公園運営管理士。

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