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Vol.47 オツェアノイムを訪ねて

2020.1.27

 どうぶつのくに本誌でオツェアノイムが特集されましたので、今回はそちらに合わせて寄稿したいと思います。

 

 

 オツェアノイムはバルト海に面する港町、シュトラールズンドにある水族館です。バルト海というと日本人にはあまりなじみがないと思いますが、ヨーロッパ大陸とスカンジナビア半島に囲まれた閉鎖性の強い海域です。そのため、バルト海の各所によって異なりますが、多くの河川水の流入や高緯度に位置するため水温が低く蒸発が少ない、外海とつながっている主な海峡が一つしかない等の理由で塩分濃度が低いのが特徴です。またもう一つの特徴として平均水深は55mと浅く、一番深い所でも459mとなっています。バルト海に限らず寒い海の特徴として、海の透明度が低いことや、生物の種類が少なく個体数が多いなどがあります。この海の特徴だけを聞くとあまり面白くない水族館だと思う方もいるかもしれません。しかし実際は展示の工夫が素晴らしく個々の水槽を観察するのにかなり時間がかかるうえに、水の生き物だけでなくバルト海周辺に生息する海獣類や鳥類までを網羅し、さらに博物館と美術館と水族館を融合させた素晴らしい施設です。

 

 

 日本ではあまり見かけないランプサッカー(ヨコヅナダンゴウオ)は繁殖に成功し群れで展示をされていたり、日本の水族館ではほとんど見ることのない深い紫色をした大西洋独特のベラの仲間や、タラ、ニシンなど北海の寒い海にいる魚とヒトデやイソギンチャクなどの無脊椎動物も多く展示されており非常に楽しめます。また、鯨類の実寸大模型が多く展示されたエリアがあり、クジラたちを下から眺めることが出来ます。ダイビングが出来ない人でも実際のクジラたちの大きさを実感できるというのは感動的です。周囲の環境と合わせて展示紹介されている海獣類や鳥類の美しくしっかりとした剥製も見逃せません。

 

 

 そのような展示の中で特にお勧めしたいのは、船が沈められた大型の水槽です。そこには透明な海水と強い光、色とりどりの熱帯魚が泳いでいるわけではありませんが、どの水槽よりも多くの方が足を止め、長い時間をかけて水槽を眺めていました。そこにはキラキラとした明るい海の世界とは別の、ハッとするような重たい迫力のある海の世界が作られているからです。その息をのむような世界には様々な仕掛けが施されており、よく観察すればするほど考えられて作られた水槽であることが分かります。

 

 

 まず多くの方が水槽を見て感じるのが奥行を含めた海の深さかと思いますが、敢えて正面に置かれた大きな沈船に目が行くようになっているので、普通の方はなぜそのように感じるのかは意識しないと思います。水槽の中には変わった魚種は入っておらず、アジやスズキなどの仲間が数種類と大きなサメが1匹入っているだけです。しかし、多くの工夫がこの水槽には施されており、まず他の水槽と違い頭上から前方に向かってアクリルガラスに傾斜が付けられており屈折が利用されています。さらに足もとをあえて隠すことによって来館者が水槽を覗く為に一歩前へ出るように誘導し、そこから見えるのは手前から奥へと深くなっていく海底の風景で、その最奥は見えません。これは海の深さをうまく表現しており、一歩水槽に近づくことにより気付くことが出来ます。また、やや濁りのある海水に水槽の上部から照明がスポット的に照らされていることによって、上を向けば海底から海面を仰ぎ見るように、下を見れば海底に向かって暗くなっていく海の姿を見事に表現しています。このような工夫は見ている側には気付かれにくいと思いますが、水槽を見ることで自然と海を感じることが出来るというのは、展示を作り上げる側の人間としては理想の素晴らしい水槽です。いつかこういった水槽を作る機会に恵まれたならば、ぜひとも参考にしたいものです。

 

 

 他にもお伝えしたいことは山ほどあるのですが、百聞は一見にしかず。ぜひともご自分の足で訪れてみてください。オツェアノイムのあるシュトラールズンドの街も非常に美しく、世界遺産の一部にも認定されているお勧めポイントです。

 

著者プロフィール

戸館 真人(とだて・まさと)

東海大学大学院水産学専攻博士課程前期 修了
学芸員
2010年 蒲郡市竹島水族館 勤務。
以降、海水魚、深海生物、カリフォルニアアシカなどの生物や広報、物販などの担当。
2015年 カピバラ、事務、経理も担当。

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