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Vol.5 偉大な動物園の先達、中川志郎さん

2012.10.14

古賀忠道さんの薫陶を直接受けた上野動物園の職員として、元園長の中川志郎さんがおられます。

その中川志郎さんが亡くなられたという訃報を、7月16日の当日に電話で受けた時、しばらく言葉を失ってしまいました。中川さんとは近いうちにお会いして、原稿依頼する予定でいましたから、その報がよけいに信じられなかったのです。

中川さんから受けた影響は計り知れません。そもそも、私が至る所で広言している動物園学についても、元々は中川志郎さんが書かれた『動物園学ことはじめ』(玉川大学出版部、昭和50年)の受け売りに過ぎないのです。改めて本書を読みながら、動物園で働き始めた当時に受けた衝撃の大きさを思い出しています。そのインパクトが脳のどこかに刻み込まれているから、動物園を何とかしなければと走り続けていられるのでしょう。それにしても、動物園の意義や役割について、これほど分かり易い文章で、かつ科学的に書かれている日本語の書籍を知りません。すでに絶版ですが、動物園に就職を希望する学生に今でも自信をもって購読を薦めることができるのは、この本と佐々木時雄さんが書かれた『動物園の歴史』の二冊だけです。

中川志郎さんが、上野動物園の飼育課長時代に出版された本です。1975年に玉川大学出版部から発刊されました。この本が、当時の動物園界に与えた影響は大きかったと思います。すでに絶版ですが、古書店に出る時もあるので、その場合は、即購入して下さい。

中川さんが描く動物園の将来像について、残念ながら話し合える機会はありませんでした。だから、後輩たちのためにも、それに関する内容の原稿をお願いするつもりでいたのです。今となっては、悔やんでも仕方ないことですから、中川さんが残された数々の業績から推し量るしかありません。

よく知られている中川さんの業績としては、マスコミで報道されているようにジャイアントパンダやコアラやトキに関するものがあります。しかし、若き動物園人は、中川さんが動物園の臨床現場で活躍されていた時の業績にも注目すべきだと思います。たとえば、カバの糖尿病に関する論文(International Zoo Yearbook Vol. 5, 1965掲載)は、動物園動物に対する治療や獣医学的研究の面で大いに参考となるでしょう。

古賀さんや中川さんを含め、これまで多くの先輩方が動物園を去って行かれました。かれらが築いた動物園の基盤を、我々は(とくに私は)、更に強固なものにしているのでしょうか?自責の念を感じつつ問い続けなければなりません。

著者プロフィール

村田浩一(むらた・こういち)

1952年神戸市生まれ。
1978年から2001年まで、神戸市立王子動物園で獣医師として働く。
2001年、日本大学生物資源科学部へ転職し、2011年からは、よこはま動物園ズーラシア園長を兼務。日本野生動物医学会会長(現顧問)、IUCN/Wildlife Health Specialist Group東アジア地区委員長。専門は野生動物医学、動物園学。楽しく学べる動物園を目指して、日々、動物園内で主に楽しんでいる。趣味は、自然の中で静かに佇むこと。

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